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11 陛下の現在の世話係
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話を終えて廊下に出ると、動きやすいようにか、黒のメイド服を着たエーラ様が近づいてきた。
私と入れ替わるようにメイドがシュティル様の部屋に入っていく。
「遅くなりましたが、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます」
エーラ様はダークグリーンの髪に同じ色の瞳を持つ、気の強そうなスレンダー体型の美人で私よりも一つ年上だ。
シニヨンにした髪に黒色のピアス、首にはロケットペンダントをつけている。
「あまり、陛下を甘やかさないでくださいませ。二度と同じような悲劇を繰り返したくないのです」
「この国の歴史を他国からも資料を取り寄せて調べましたが、密告しようとしたからロラルグリラが口封じをしようとしたようにしか思えません。シュテーダムに非はないでしょう」
「理由はなんだっていいんです。攻め入られるきっかけを作り、降伏した我が国の王家を許せません」
「そんなに嫌なら、世話係を辞めれば良いでしょう」
「私が見張ることによって国が守られるのです」
「そうとは思えませんが?」
言い返すと、エーラ様は不機嫌な感情を隠すことなく、顔に出して私を見つめる。
「あなたはスパイなのでしょう」
「何を言っているんです?」
「あなたは、ロラルグリラの王家とグルでシュテーダムを乗っ取ろうとしているのでしょう!」
「……乗っ取って何になると言うのですか?」
「この国の金鉱を狙っているのでしょう!?」
エーラ様は大きな声で叫んだ。
……そういうことね。
ロラルグリラには金鉱などの鉱山はない。
戦争をしてロラルグリラ王国の物にしてしまおうと思ったけれど、シュテーダムがすぐに降伏し、他国からの反対も出て、金を掘り出すどころか植民地にすることもできなかった。
そういえば、ロラルグリラの国王陛下は金が好きだった。
金鉱が欲しいから攻める何かを探しているだなんてふざけた理由だわ。
これ以外にも目的はあるはず。
シュティル様から王位を奪うことも目的の一つでしょう。
「何を騒いでいるんだ」
ルラン様が部屋から出てきて、私に話しかけてきた。
思った以上に大きな声を出していたことを反省する。
「お騒がせして申し訳ございません。エーラ様が私をロラルグリラのスパイだと疑っておられるようなのですが、そのわりに金鉱があるなどと教えてくださったので呆れておりました」
「なんですって?」
エーラ様が食って掛かってきた。
すると、ルラン様が間に入ってくれた。
「俺は彼女を妻と認めている。そして、彼女は祖国を嫌っている。彼女はスパイなんかじゃない」
「嘘かもしれませんわよ」
「君よりも彼女のことは知っているつもりだ」
ルラン様はエーラ様の首元を見て答えると、エーラ様はなぜか鼻で笑う。
「ルラン様はいつも女性の胸ばかり見ていらっしゃるのね。気持ちが悪い」
カチンときてしまって私が言い返す。
「ルラン様は首元を見ておられるのです。胸ばかり見ているだなんて、それはあなたの思い込みでしょう」
「どうしてあなたにわかるのよ!」
「胸元ならもっと視線を下げるはずです」
「……裏切り者」
エーラ様は謝ることもせずに、ルラン様に呟くとシュティル様の部屋の中に入ろうとした。
それをルラン様が止める。
「今日のあなたの仕事は終わりだ。もう帰って良いと陛下のご命令だ」
「今日の勉強が終わっておりません」
「教師は別につける。今からはメイドが面倒を見てくれるから、君は心配しなくて良い」
「勝手なことを! この国が滅びるとしたら責任があるのは」
そこまで言って、エーラ様は言葉を止めた。
不敬罪だと言われるようなことを言おうとしたらしい。
「失礼させていただきます」
去って行く彼女の背中を見送っていると、ルラン様が私に話しかけてくる。
「俺も今日は帰って良いと言われたんだ。一緒に帰ろう」
「はい。あの、シュティル様には私たちの話の内容は聞こえてしまっていましたか?」
「大丈夫だ。聞こえていない。それから、さっきは庇ってくれてありがとう」
「妻なのですから当然のことですわ。それよりも、どうしてあのような方がシュティル様のお世話係なのです?」
並んで歩きながら尋ねると、ルラン様はため息を吐いて答える。
「高位貴族の女性がいなかったからだ」
「別に女性でなくても良いでしょう」
「俺が側近兼護衛につくのなら、ノヌル公爵家の誰かを陛下のお側に付けさせろという意見が出て、中立であるトッテム公爵家がそれを認めた。トッテム公爵家には今の状態を報告していて審議中だ」
「納得いきませんわね」
考えてみれば、ロヌス公爵家はロラルグリラが残した公爵家の内の一つだもの。
ユリアス家は筆頭公爵家だから、ロラルグリラにしてみれば根絶やしにしたかったところを、他国の反対により残さざるをえなかったのでしょう。
あとの2家を残した理由を調べないといけないわね。
どちらかが、もしくは両家がロラルグリラと繋がっている可能性がある。
「ところで、エーラ様はシュティル様に何か恨みでもあるのですか?」
「……帰りの馬車の中で話そう」
「お願いいたします」
話が長くなるのだとわかり、私は素直に頷いた。
私と入れ替わるようにメイドがシュティル様の部屋に入っていく。
「遅くなりましたが、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます」
エーラ様はダークグリーンの髪に同じ色の瞳を持つ、気の強そうなスレンダー体型の美人で私よりも一つ年上だ。
シニヨンにした髪に黒色のピアス、首にはロケットペンダントをつけている。
「あまり、陛下を甘やかさないでくださいませ。二度と同じような悲劇を繰り返したくないのです」
「この国の歴史を他国からも資料を取り寄せて調べましたが、密告しようとしたからロラルグリラが口封じをしようとしたようにしか思えません。シュテーダムに非はないでしょう」
「理由はなんだっていいんです。攻め入られるきっかけを作り、降伏した我が国の王家を許せません」
「そんなに嫌なら、世話係を辞めれば良いでしょう」
「私が見張ることによって国が守られるのです」
「そうとは思えませんが?」
言い返すと、エーラ様は不機嫌な感情を隠すことなく、顔に出して私を見つめる。
「あなたはスパイなのでしょう」
「何を言っているんです?」
「あなたは、ロラルグリラの王家とグルでシュテーダムを乗っ取ろうとしているのでしょう!」
「……乗っ取って何になると言うのですか?」
「この国の金鉱を狙っているのでしょう!?」
エーラ様は大きな声で叫んだ。
……そういうことね。
ロラルグリラには金鉱などの鉱山はない。
戦争をしてロラルグリラ王国の物にしてしまおうと思ったけれど、シュテーダムがすぐに降伏し、他国からの反対も出て、金を掘り出すどころか植民地にすることもできなかった。
そういえば、ロラルグリラの国王陛下は金が好きだった。
金鉱が欲しいから攻める何かを探しているだなんてふざけた理由だわ。
これ以外にも目的はあるはず。
シュティル様から王位を奪うことも目的の一つでしょう。
「何を騒いでいるんだ」
ルラン様が部屋から出てきて、私に話しかけてきた。
思った以上に大きな声を出していたことを反省する。
「お騒がせして申し訳ございません。エーラ様が私をロラルグリラのスパイだと疑っておられるようなのですが、そのわりに金鉱があるなどと教えてくださったので呆れておりました」
「なんですって?」
エーラ様が食って掛かってきた。
すると、ルラン様が間に入ってくれた。
「俺は彼女を妻と認めている。そして、彼女は祖国を嫌っている。彼女はスパイなんかじゃない」
「嘘かもしれませんわよ」
「君よりも彼女のことは知っているつもりだ」
ルラン様はエーラ様の首元を見て答えると、エーラ様はなぜか鼻で笑う。
「ルラン様はいつも女性の胸ばかり見ていらっしゃるのね。気持ちが悪い」
カチンときてしまって私が言い返す。
「ルラン様は首元を見ておられるのです。胸ばかり見ているだなんて、それはあなたの思い込みでしょう」
「どうしてあなたにわかるのよ!」
「胸元ならもっと視線を下げるはずです」
「……裏切り者」
エーラ様は謝ることもせずに、ルラン様に呟くとシュティル様の部屋の中に入ろうとした。
それをルラン様が止める。
「今日のあなたの仕事は終わりだ。もう帰って良いと陛下のご命令だ」
「今日の勉強が終わっておりません」
「教師は別につける。今からはメイドが面倒を見てくれるから、君は心配しなくて良い」
「勝手なことを! この国が滅びるとしたら責任があるのは」
そこまで言って、エーラ様は言葉を止めた。
不敬罪だと言われるようなことを言おうとしたらしい。
「失礼させていただきます」
去って行く彼女の背中を見送っていると、ルラン様が私に話しかけてくる。
「俺も今日は帰って良いと言われたんだ。一緒に帰ろう」
「はい。あの、シュティル様には私たちの話の内容は聞こえてしまっていましたか?」
「大丈夫だ。聞こえていない。それから、さっきは庇ってくれてありがとう」
「妻なのですから当然のことですわ。それよりも、どうしてあのような方がシュティル様のお世話係なのです?」
並んで歩きながら尋ねると、ルラン様はため息を吐いて答える。
「高位貴族の女性がいなかったからだ」
「別に女性でなくても良いでしょう」
「俺が側近兼護衛につくのなら、ノヌル公爵家の誰かを陛下のお側に付けさせろという意見が出て、中立であるトッテム公爵家がそれを認めた。トッテム公爵家には今の状態を報告していて審議中だ」
「納得いきませんわね」
考えてみれば、ロヌス公爵家はロラルグリラが残した公爵家の内の一つだもの。
ユリアス家は筆頭公爵家だから、ロラルグリラにしてみれば根絶やしにしたかったところを、他国の反対により残さざるをえなかったのでしょう。
あとの2家を残した理由を調べないといけないわね。
どちらかが、もしくは両家がロラルグリラと繋がっている可能性がある。
「ところで、エーラ様はシュティル様に何か恨みでもあるのですか?」
「……帰りの馬車の中で話そう」
「お願いいたします」
話が長くなるのだとわかり、私は素直に頷いた。
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