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1 王命による婚約破棄
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決まった時間にメイドに起こされ、ベッドから下りて窓の外を見ると、雲一つない青空だった。
普段なら、こんな良い天気の日は私の気分が上がるものだ。
それなのに、なぜか嫌な予感がする。
「お姉様がいるからかしら」
そう呟いてから、大きなため息を吐く。
隣国にいる婚約者に会いに行っていた二つ年上の姉であるフェルーナお姉様が、昨日の夕方に帰ってきた。
エードル公爵家の次女である私、ラナリーとフェルーナお姉様との仲は悪いと、はっきり言える。
ダークブラウンの長い髪をシニヨンにした赤い瞳を持つ冴えない顔立ちの私に対して、お姉様は金色のストレートのサラサラの髪に青色の瞳を持つ美人だ。
エードル公爵家内では容姿の良い順番によって優先順位が変わる。
別格なのは、私より5つ年上の兄だけで、お兄様は家族のことにはほとんど興味を示さない。
力ではお父様に勝るようになっているため、お父様もお兄様に対しては何も言えない状態だ。
容姿の良さでいえば、お兄様が一番なのだけれど、別格のため、エードル公爵家で現在、一番容姿が良いのはお姉様で、私は最下位だ。
見た目の清楚な美しさとは裏腹に、お姉様は何か嫌なことがあったりすると、私でストレスを発散するという醜い性格だ。
小突いてきたり、つねってきたりと子供みたいな嫌がらせをして、私が痛がるのを見て楽しむ。
そして、機嫌が良くなると「ごめんなさい。どうかしていたわ」と言って、私の好きなものをプレゼントしてくるようなたちの悪いタイプである。
両親はお姉様の愚行を止めようとはしない。
お姉様は平民、貴族問わずに『救済の美女』と呼ばれていて、国内での奉仕活動に積極的だ。
しかも、シュテーダム王国の筆頭公爵家の令息の婚約者になったことで、余計に崇められている。
お姉様の婚約者は運動能力や剣技に優れており、長身痩躯で眉目秀麗だが、無骨だと言われているルラン・ユリアス様だ。
ロラルグリラ王国の占領下にあったシュテーダム王国は、すでに独立している。
独立が決まった際、二度と同じ過ちを繰り返させないようにと、ロラルグリラ王国から監視役も兼ねて、ルラン様とこの国の貴族の誰かが結婚しなければならなくなった。
多くの人が嫌がる中、お姉様が立候補した。
お姉様は国王陛下からも絶賛され、多くの貴族から感謝された。
それほどに、シュテーダム王国に嫁ぐことを嫌がる貴族が多かった。
勝利国の人間が敗戦国に嫁ぐことを良しとしない貴族たちばかりだったのだ。
「フェルーナは自慢の娘だ」
「ラナリー、フェルーナがいてくれたから、あなたは王太子殿下の婚約者になれたのよ」
両親は小さな頃からすり込むように、私にそう言い聞かせてきた。
実際、私が王太子殿下の婚約者として選ばれたのは、お姉様を嫁に出すと決めた両親への国王陛下からのご褒美だった。
だから、二人の言葉は間違っていない。
王太子殿下の婚約者など、私にしてみれば余計なお世話でしかないのだが、そんなことを口に出せば不敬罪だと言われる可能性があるので、決して口には出さない。
スッキリしない気持ちのまま、ダイニングルームで朝食をとっていると、突然、城から王太子殿下の遣いがやって来た。
そして、食事を強制終了させられて、私は普段着のままで王城まで連れてこられた。
通された部屋には、すでに私の婚約者である、ローク殿下が待ち受けていた。
金色の短髪に中肉中背のローク殿下は私が部屋に入ると、立ち上がって挨拶する時間を与えてくれることもなく、私に告げる。
「ラナリー・エードル、お前との婚約は破棄する。だから、フェルーナの代わりにシュテーダムの公爵令息の元に嫁げ」
「だからの意味がわかりませんわ」
これ見よがしにため息を吐いてから、ローク殿下の青色の瞳を睨むように見つめて答えた。
ローク殿下は鼻筋の通った端正な顔を歪めて命令してくる。
「四の五の言わずに嫁げ。これは父である国王陛下からの命令でもある」
「お姉様はお役御免ということでしょうか」
「それは違う。お前がシュテーダムに嫁ぐのだから、俺の婚約者はフェルーナになる」
ああ、そういうことですか。
私よりもお姉様のほうが良いから婚約者を変更するのね。
呆れているという感情が表に出ないように気を付けて尋ねる。
「私の両親も、相手方も了承済みということよろしいですわね」
「そうだ。お前には慰謝料として嫁に行く際にいくらか金をやろう」
「お気遣いいただきありがとうございます」
国王陛下の命令を断れるはずもない。
嫁げばいいのでしょう、嫁げば。
それにしても、自分たちが勝手なことを言ってきているというのに、よくもまあ、そこまで偉そうに言えるものだわ。
ソファに腰を下ろすことなく私が部屋を出ようとすると、ローク殿下が話しかけてくる。
「いいか、ラナリー。ルランとかいう男の心を掴め。それが、ロラルグリラの繁栄、そして俺たち王家の繁栄にもなるのだと覚えておくんだ」
「承知いたしました」
返事はしたけれど、繁栄を望むか望まないかは私の勝手だ。
普段なら、こんな良い天気の日は私の気分が上がるものだ。
それなのに、なぜか嫌な予感がする。
「お姉様がいるからかしら」
そう呟いてから、大きなため息を吐く。
隣国にいる婚約者に会いに行っていた二つ年上の姉であるフェルーナお姉様が、昨日の夕方に帰ってきた。
エードル公爵家の次女である私、ラナリーとフェルーナお姉様との仲は悪いと、はっきり言える。
ダークブラウンの長い髪をシニヨンにした赤い瞳を持つ冴えない顔立ちの私に対して、お姉様は金色のストレートのサラサラの髪に青色の瞳を持つ美人だ。
エードル公爵家内では容姿の良い順番によって優先順位が変わる。
別格なのは、私より5つ年上の兄だけで、お兄様は家族のことにはほとんど興味を示さない。
力ではお父様に勝るようになっているため、お父様もお兄様に対しては何も言えない状態だ。
容姿の良さでいえば、お兄様が一番なのだけれど、別格のため、エードル公爵家で現在、一番容姿が良いのはお姉様で、私は最下位だ。
見た目の清楚な美しさとは裏腹に、お姉様は何か嫌なことがあったりすると、私でストレスを発散するという醜い性格だ。
小突いてきたり、つねってきたりと子供みたいな嫌がらせをして、私が痛がるのを見て楽しむ。
そして、機嫌が良くなると「ごめんなさい。どうかしていたわ」と言って、私の好きなものをプレゼントしてくるようなたちの悪いタイプである。
両親はお姉様の愚行を止めようとはしない。
お姉様は平民、貴族問わずに『救済の美女』と呼ばれていて、国内での奉仕活動に積極的だ。
しかも、シュテーダム王国の筆頭公爵家の令息の婚約者になったことで、余計に崇められている。
お姉様の婚約者は運動能力や剣技に優れており、長身痩躯で眉目秀麗だが、無骨だと言われているルラン・ユリアス様だ。
ロラルグリラ王国の占領下にあったシュテーダム王国は、すでに独立している。
独立が決まった際、二度と同じ過ちを繰り返させないようにと、ロラルグリラ王国から監視役も兼ねて、ルラン様とこの国の貴族の誰かが結婚しなければならなくなった。
多くの人が嫌がる中、お姉様が立候補した。
お姉様は国王陛下からも絶賛され、多くの貴族から感謝された。
それほどに、シュテーダム王国に嫁ぐことを嫌がる貴族が多かった。
勝利国の人間が敗戦国に嫁ぐことを良しとしない貴族たちばかりだったのだ。
「フェルーナは自慢の娘だ」
「ラナリー、フェルーナがいてくれたから、あなたは王太子殿下の婚約者になれたのよ」
両親は小さな頃からすり込むように、私にそう言い聞かせてきた。
実際、私が王太子殿下の婚約者として選ばれたのは、お姉様を嫁に出すと決めた両親への国王陛下からのご褒美だった。
だから、二人の言葉は間違っていない。
王太子殿下の婚約者など、私にしてみれば余計なお世話でしかないのだが、そんなことを口に出せば不敬罪だと言われる可能性があるので、決して口には出さない。
スッキリしない気持ちのまま、ダイニングルームで朝食をとっていると、突然、城から王太子殿下の遣いがやって来た。
そして、食事を強制終了させられて、私は普段着のままで王城まで連れてこられた。
通された部屋には、すでに私の婚約者である、ローク殿下が待ち受けていた。
金色の短髪に中肉中背のローク殿下は私が部屋に入ると、立ち上がって挨拶する時間を与えてくれることもなく、私に告げる。
「ラナリー・エードル、お前との婚約は破棄する。だから、フェルーナの代わりにシュテーダムの公爵令息の元に嫁げ」
「だからの意味がわかりませんわ」
これ見よがしにため息を吐いてから、ローク殿下の青色の瞳を睨むように見つめて答えた。
ローク殿下は鼻筋の通った端正な顔を歪めて命令してくる。
「四の五の言わずに嫁げ。これは父である国王陛下からの命令でもある」
「お姉様はお役御免ということでしょうか」
「それは違う。お前がシュテーダムに嫁ぐのだから、俺の婚約者はフェルーナになる」
ああ、そういうことですか。
私よりもお姉様のほうが良いから婚約者を変更するのね。
呆れているという感情が表に出ないように気を付けて尋ねる。
「私の両親も、相手方も了承済みということよろしいですわね」
「そうだ。お前には慰謝料として嫁に行く際にいくらか金をやろう」
「お気遣いいただきありがとうございます」
国王陛下の命令を断れるはずもない。
嫁げばいいのでしょう、嫁げば。
それにしても、自分たちが勝手なことを言ってきているというのに、よくもまあ、そこまで偉そうに言えるものだわ。
ソファに腰を下ろすことなく私が部屋を出ようとすると、ローク殿下が話しかけてくる。
「いいか、ラナリー。ルランとかいう男の心を掴め。それが、ロラルグリラの繁栄、そして俺たち王家の繁栄にもなるのだと覚えておくんだ」
「承知いたしました」
返事はしたけれど、繁栄を望むか望まないかは私の勝手だ。
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