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21. 彼女を選んだのはあなたです(アッシュside)
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3の数字を持つ聖騎士という男が現れた事には驚きだったが、明らかにフィーンドという男から感じられるものは聖なる力とは逆のものだった。
(父さんと母さんが気をつけろって言ってたのは、こいつの事なんだろうな…)
アッシュの育ての親である2人がアッシュを守る為に色々と調べてくれた事もあり、聖女や聖騎士だけでなく、敵対勢力に対する知識がアッシュにはあった。
2人はいつかアッシュ達の前に現れるであろう、彼らの事を警戒する様に警告してくれていた。
フィーンドはアッシュの前を歩き、人気のない教会の裏側にやって来ると、足を止めてアッシュの方に体を向けた。
「僕が3の数字を持つ聖騎士じゃない事はわかっているんでしょう?」
「まあな。それよりも、お前が何者なのかが気になる」
「わからないですか…?」
フィーンドはにやりと気味の悪い笑みを見せた。
「聞いたら教えてくれるのか?」
「ええ。どうせ、答えはわかっているのでしょうし、何より、思った以上に早くに皆さんに気付かれた様なのでびっくりしています」
「…どういう事だ?」
「今までの3の数字を持つ聖女は、独房に入れられた後は一人ぼっちになっている事が多かったので、心に付け入りやすかったんですけどね…」
「前置きはいい! 何を言いたいんだ?」
「そんなに急がなくてもいいでしょう。時間はたっぷりありますよ?」
フィーンドは正体を隠す気はなさそうだが、アッシュを苛立たせる事を楽しんでいるようだった。
(ここで苛ついたら俺の負けだ)
アッシュは深呼吸をして心を落ち着けてから言う。
「じゃあ、俺の方から質問する」
「どうぞ」
「お前は邪神か?」
「正確には人の体を奪い取った邪神の使いです。神の使いに聖女や聖騎士がいるんですから、邪神に使いがいてもおかしくないでしょう?」
「人間の体を乗っ取ったのか?」
「いいえ。この体はもう僕のものですよ?」
(どういう事だ? 元々は人間だったが魔物になったって事か?)
アッシュが困惑していると、今度はフィーンドがアッシュに尋ねる。
「君はリリアナに自分の正体を隠しているようですが、なぜなんです?」
「神様からの命令だよ」
「どういう事です?」
「俺は自分がそうだと名乗れば国に戻らないといけなくなる。誰にも言うなと言われてるんだ」
「神様は酷いですねぇ。そんな事は考えなくてもわかっているんですから、最初から君に数字を与えなければ良かったのに」
「まさか、親が捨てるだなんて思ってなかったんだろ」
「あなたは本当に不幸な人生ですね。家族に愛してもらえなかっただなんて…」
(そうだな、と言いたいところだが、俺には父さんと母さんがいるし、あの2人がいるから闇落ちもしなくて済んだ)
「アッシュ、神様が酷いという話のついでに教えてあげましょう」
「……?」
アッシュが無言でフィーンドを見ると、少年の姿をした邪神の使いはニコニコと無邪気な笑みを浮かべる。
「神はここ最近、自分の選んだ聖女や聖騎士が、僕達、邪神の使いに惑わされておかしくなったり死んだりしている事に心を痛めていました。邪神に惑わされたものは、もう心は戻らないから殺すしかない。それが君達の神の考えなんだと思います。ですが、これ以上、犠牲を増やしたくない神は、先代の3の数字を持つ聖女が命を落とす前に考えたんですよ。3の数字を持つ聖騎士を守る為に、彼の心に拠り所を作らないといけないと」
「……何が言いたいんだ?」
「神はあなたが好きになる女性を探し出した」
「……は?」
アッシュが聞き返すと、フィーンドは彼を見て大声で笑い始めた。
「リリアナの様なあんな平凡な女性が聖女になる!? そんな訳ないでしょう!? おかしいとは思わなかったのですか!?」
「何を言ってるんだ?」
「1や2の数字を持つ聖女や聖騎士も選ばれる理由があったんですよ。代々、聖女を多く出している血筋や公爵家、君の様な王族、歴史に貢献した事のある先祖を持つ、などね。だけど、リリアナはただの平凡な伯爵令嬢なんですよ。そんな彼女がなぜ聖女に? あなたのせいですよ」
何も言えずにいるアッシュに、フィーンドは近寄り、彼の顔を見上げて言う。
「3の数字を持つ聖女に、彼女を選んだのはあなたです」
(俺が好きになる女性を選んだ? 意味がわからない。どういう事なんだよ!?)
アッシュが困惑しつつも口を開こうとした時だった。
「アッシュ!」
リリアナの声が聞こえて、アッシュは後ろを振り返る。
すると、自由になったリリアナがアッシュ達の方に走ってきているのが見えた。
「リリアナ…」
「どうします? 彼女に伝えますか? あなたのせいで巻き込まれた事を知ったら、彼女はどうするでしょうね?」
「リリアナは、そんな事で怒る奴じゃない」
「そうですかねぇ? 嫌われるんじゃないですか?」
フィーンドはニヤニヤと笑い、アッシュの心を追い詰めようとする。
(俺の心を弱らせるのがこいつの目的だ。思い通りになるかよ)
そう考えたアッシュが言い返そうとした時だった。
「アッシュに近付かないで!」
走り寄ってきたリリアナはアッシュとフィーンドの間に体を入り込ませると、左手でフィーンドの右手首をつかんだ。
「そんなに怒らないで下さい。彼に何かするつもりはありませんよ」
「私があなたと握手をしたいのよ」
リリアナはそう言うと、空いている自分の右手で彼の右手の手袋を無理矢理剥ぎ取った。
「や、やめろ!!」
フィーンドは血相を変えてリリアナの左手を手袋をしている方の手でつかもうとしたが遅かった。
「さっきは握手出来なくてごめんなさいね? そして、さようなら」
そう言って、リリアナは露わになったフィーンドの右手を握った。
「ぎゃああああああっ」
断末魔の悲鳴が上がり、フィーンドの体が粉々になっていく。
「今までの聖女様や聖騎士様は心が綺麗だったからこそ闇に落ちやすかった。誰かに裏切られたりしたら心に深く傷が付くから。だけど、残念ね。私の性格はそこまで良くないの!」
フィーンドにリリアナの声が届いたかどうかはわからない。
だが、啖呵を切ったリリアナの姿をフィーンドは自分の姿がなくなるまで虚ろな瞳で見つめ続けていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ラストに近付きましたので、長編を短編に変更させていただきました。
ラストまであと数話ですので、もう少しお付き合いいただければと思います。
拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!
(父さんと母さんが気をつけろって言ってたのは、こいつの事なんだろうな…)
アッシュの育ての親である2人がアッシュを守る為に色々と調べてくれた事もあり、聖女や聖騎士だけでなく、敵対勢力に対する知識がアッシュにはあった。
2人はいつかアッシュ達の前に現れるであろう、彼らの事を警戒する様に警告してくれていた。
フィーンドはアッシュの前を歩き、人気のない教会の裏側にやって来ると、足を止めてアッシュの方に体を向けた。
「僕が3の数字を持つ聖騎士じゃない事はわかっているんでしょう?」
「まあな。それよりも、お前が何者なのかが気になる」
「わからないですか…?」
フィーンドはにやりと気味の悪い笑みを見せた。
「聞いたら教えてくれるのか?」
「ええ。どうせ、答えはわかっているのでしょうし、何より、思った以上に早くに皆さんに気付かれた様なのでびっくりしています」
「…どういう事だ?」
「今までの3の数字を持つ聖女は、独房に入れられた後は一人ぼっちになっている事が多かったので、心に付け入りやすかったんですけどね…」
「前置きはいい! 何を言いたいんだ?」
「そんなに急がなくてもいいでしょう。時間はたっぷりありますよ?」
フィーンドは正体を隠す気はなさそうだが、アッシュを苛立たせる事を楽しんでいるようだった。
(ここで苛ついたら俺の負けだ)
アッシュは深呼吸をして心を落ち着けてから言う。
「じゃあ、俺の方から質問する」
「どうぞ」
「お前は邪神か?」
「正確には人の体を奪い取った邪神の使いです。神の使いに聖女や聖騎士がいるんですから、邪神に使いがいてもおかしくないでしょう?」
「人間の体を乗っ取ったのか?」
「いいえ。この体はもう僕のものですよ?」
(どういう事だ? 元々は人間だったが魔物になったって事か?)
アッシュが困惑していると、今度はフィーンドがアッシュに尋ねる。
「君はリリアナに自分の正体を隠しているようですが、なぜなんです?」
「神様からの命令だよ」
「どういう事です?」
「俺は自分がそうだと名乗れば国に戻らないといけなくなる。誰にも言うなと言われてるんだ」
「神様は酷いですねぇ。そんな事は考えなくてもわかっているんですから、最初から君に数字を与えなければ良かったのに」
「まさか、親が捨てるだなんて思ってなかったんだろ」
「あなたは本当に不幸な人生ですね。家族に愛してもらえなかっただなんて…」
(そうだな、と言いたいところだが、俺には父さんと母さんがいるし、あの2人がいるから闇落ちもしなくて済んだ)
「アッシュ、神様が酷いという話のついでに教えてあげましょう」
「……?」
アッシュが無言でフィーンドを見ると、少年の姿をした邪神の使いはニコニコと無邪気な笑みを浮かべる。
「神はここ最近、自分の選んだ聖女や聖騎士が、僕達、邪神の使いに惑わされておかしくなったり死んだりしている事に心を痛めていました。邪神に惑わされたものは、もう心は戻らないから殺すしかない。それが君達の神の考えなんだと思います。ですが、これ以上、犠牲を増やしたくない神は、先代の3の数字を持つ聖女が命を落とす前に考えたんですよ。3の数字を持つ聖騎士を守る為に、彼の心に拠り所を作らないといけないと」
「……何が言いたいんだ?」
「神はあなたが好きになる女性を探し出した」
「……は?」
アッシュが聞き返すと、フィーンドは彼を見て大声で笑い始めた。
「リリアナの様なあんな平凡な女性が聖女になる!? そんな訳ないでしょう!? おかしいとは思わなかったのですか!?」
「何を言ってるんだ?」
「1や2の数字を持つ聖女や聖騎士も選ばれる理由があったんですよ。代々、聖女を多く出している血筋や公爵家、君の様な王族、歴史に貢献した事のある先祖を持つ、などね。だけど、リリアナはただの平凡な伯爵令嬢なんですよ。そんな彼女がなぜ聖女に? あなたのせいですよ」
何も言えずにいるアッシュに、フィーンドは近寄り、彼の顔を見上げて言う。
「3の数字を持つ聖女に、彼女を選んだのはあなたです」
(俺が好きになる女性を選んだ? 意味がわからない。どういう事なんだよ!?)
アッシュが困惑しつつも口を開こうとした時だった。
「アッシュ!」
リリアナの声が聞こえて、アッシュは後ろを振り返る。
すると、自由になったリリアナがアッシュ達の方に走ってきているのが見えた。
「リリアナ…」
「どうします? 彼女に伝えますか? あなたのせいで巻き込まれた事を知ったら、彼女はどうするでしょうね?」
「リリアナは、そんな事で怒る奴じゃない」
「そうですかねぇ? 嫌われるんじゃないですか?」
フィーンドはニヤニヤと笑い、アッシュの心を追い詰めようとする。
(俺の心を弱らせるのがこいつの目的だ。思い通りになるかよ)
そう考えたアッシュが言い返そうとした時だった。
「アッシュに近付かないで!」
走り寄ってきたリリアナはアッシュとフィーンドの間に体を入り込ませると、左手でフィーンドの右手首をつかんだ。
「そんなに怒らないで下さい。彼に何かするつもりはありませんよ」
「私があなたと握手をしたいのよ」
リリアナはそう言うと、空いている自分の右手で彼の右手の手袋を無理矢理剥ぎ取った。
「や、やめろ!!」
フィーンドは血相を変えてリリアナの左手を手袋をしている方の手でつかもうとしたが遅かった。
「さっきは握手出来なくてごめんなさいね? そして、さようなら」
そう言って、リリアナは露わになったフィーンドの右手を握った。
「ぎゃああああああっ」
断末魔の悲鳴が上がり、フィーンドの体が粉々になっていく。
「今までの聖女様や聖騎士様は心が綺麗だったからこそ闇に落ちやすかった。誰かに裏切られたりしたら心に深く傷が付くから。だけど、残念ね。私の性格はそこまで良くないの!」
フィーンドにリリアナの声が届いたかどうかはわからない。
だが、啖呵を切ったリリアナの姿をフィーンドは自分の姿がなくなるまで虚ろな瞳で見つめ続けていた。
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ラストに近付きましたので、長編を短編に変更させていただきました。
ラストまであと数話ですので、もう少しお付き合いいただければと思います。
拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!
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