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02. 魔道士との出会い

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 自分で確認を終えたリリアナは、青色の小花柄のカーペットの上に座りこんで泣いているアーシャに声をかける。

「お母様、泣かないで下さい。まだ大丈夫です。力が弱ければ、私は不吉の聖女ではないんですから」
「そうかもしれないけれど…。もし、あなたの力が他の聖女様達より強ければ…」

 そこまで言った後、言葉を止めたアーシャは両手で顔を覆って声を上げて泣きはじめた。

(泣きたいのは私の方なんだけれど、お母様が泣いてくれているおかげで冷静になれているわ)
 
 そんな事を思いながら、泣き続けているアーシャをそのままに服を着終わった頃、中の様子が気になったのか、扉が叩かれ、リリアナが返事を返すと、父であるイーブンが部屋に入ってきた。

 カーペットの上で座り込んで泣いているアーシャを見て、イーブンは全てを察したかの様にリリアナを見つめた。
 見つめられたリリアナは無言で背を向け、髪を持ち上げて聖女の証を見せると大きなため息が聞こえてきた。

(無理もないわよね。娘がこれからどうなるかわからないんだもの)

 正直、リリアナ自身も不安だった。
 聖女の力はいうものはどうやって判断されるのか。
 もし不吉の聖女だと言われた場合は…?
 学園で習った限りでは、幸せな死を迎えられたという話はなかった。
 
「どうしましょう、あなた」
「とにかく落ち着くんだ。教会本部に連絡をいれなければ」
「待って下さい! あなた、本当にこの子を国に差し出すおつもりですか!? 3の数字を持つ聖女は不吉の聖女だと忌み嫌われている事をご存知でしょう!?」

 アーシャはイーブンに縋り付き、また大声を上げて泣いた。
 こんなに取り乱した母を見るのは初めてだったリリアナは、悲しくなるどころか、余計にしっかりしなければならないと思った。

(そうよ。力が強ければ不吉なだけで、力が弱ければ普通の聖女として扱ってもらえるんだから)

「お父様、お母様。私は大丈夫です。まだ私が不吉の聖女かどうかは決まっていません。どうせ弱い力しか使えなくて、逆にお荷物とか思われるだけですよ」

 自分にも言い聞かせる様にリリアナはそう言うと、両親に向かって微笑んだ。

「そうだ、そうだよな。アーシャ、本来なら娘が聖女様に選ばれただなんて喜ばしい事なんだから、そんなに悲しんでいてはいけない」

 イーブンはアーシャを抱きしめて背中を撫でながら、リリアナを見上げた。
 これ以上、アーシャが泣き続ければ、リリアナがもっと不安になるのではないかと思ったからだ。

「そうね、そうよね…。ごめんなさいね、リリアナ」
「いいえ、大丈夫ですよ、お母様」
 
 アーシャは涙を拭い、イーブンの手を借りて立ち上がった。
 聖女の証が出た本人よりも取り乱しているアーシャをリリアナが慰めている間に、イーブンが近くの教会に連絡を入れ、本部からの連絡を待ったところ、聖女だとわかった時に決められているマニュアル通りに王都にある教会本部に行く様にと言われた。
 教会本部と言われる大きな教会は国ごとにあり、リリアナは自分の住んでいる国の王都にある教会に足を運ぶことになった。

 リリアナはまだ16歳の為、両親の付き添いが許可されたが、リリアナはそれを断った。

 これ以上、憔悴している母の姿を見たくなかったからだ。
 もし、自分が不吉の聖女だった場合、どんな反応をするのか考えるだけでも嫌だった。

(あんなに悲しんでいるお母様はもう見たくないわ)

 すぐに用意をして出立する様に協会から言われたリリアナは、荷造りをして、両親と兄に簡単な挨拶をして家を出た。

 なぜなら、一生会えなくなるわけではないからだ。
 
 不吉の聖女だと認定されれば、どうなるかは分からないが普通の聖女なら家族に会いに帰る事は許されている。

 この時のリリアナは若さもあってポジティブに考えていた。
 もし自分が不吉の聖女だと言われた場合は迷惑をかけずにひっそりと生けば良いと思っていた。

 馬車に乗って3日かけて王都に着き、着いた日の次の日の朝にリリアナは教会に向かった。
 
 そして辿り着いたところで、実家の近くにある教会とは比べ物にならない教会の大きさに驚いたリリアナは、しばらく大きな建物を前に呆然と立ち尽くしていた。

 まるで白亜の城の様に大きく、リリアナがよく見ていた教会の何十倍もの大きさだった。
 大きな建物の後ろには緑の屋根の塔が3つ見えていて、聖女はその塔に暮らす事になっていると聞いた事があった。

「塔になんて住みたくないわ。高いところは苦手なのよ」

 思わず、そんな言葉を口から漏らした時だった。

「こんな所で何してるんだ」

 背後から声をかけられて振り返ると、いつの間にかリリアナの後ろに1人の少年が立っていた。
 まだ、幼い顔立ちだが長身痩躯で眉目秀麗。
 けれど、ツリ目のせいか気の強そうな印象を受けた。
 紺色の瞳に瞳と同じ色のくせっ毛の髪、黒のローブに身を包んだ少年はリリアナに再度尋ねる。

「こんな所で何してるんだ? ここは家出した人間を助けるところじゃないぞ」
「知ってます! 用事があって来たんです!」
「その割には大荷物だな。本当に家出人じゃないのか?」
「違います! では、私は用事がありますので! 失礼します!」

 家にしばらくは帰れないという事で、リリアナは大きなトランクを持ってきていたので家出人と間違われた様だった。

 少年に背を向けてリリアナが歩き出すと、また声が掛かる。

「まさか、3の数字を持つ聖女じゃないよな」
「………」

 リリアナには彼がどうしてこんなにしつこく自分に絡んでくるのかわからなかった。

(ローブを着ているという事は教会の関係者か魔道士かしら?)

 そう思って聞いてみる。

「失礼ですけど、どちら様ですか?」
「俺はアッシュ。魔道士だ」
「私はリリアナといいます。どうして私が聖女かどうか気になるんですか?」

 リリアナが尋ねると、アッシュは面倒くさそうな表情で答える。

「俺が3の数字をもつ聖女の担当だからだよ」
「担当?」

 意味が分からず、リリアナは聞き返したのだった。
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