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26  元夫との対決 ②

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 レイティア様とお話するのはとても楽しくて、自由に歓談する時間はすぐに過ぎてしまいました。
 その後は、男性に比べて女性の社会的地位がまだまだ低いことや、女性がなりたい職業を選ぶことができる社会にするにはどうすれば良いかなどの話し合いが行われました。

 今の状況では、政治に携わりたいと考える女性がいても、絶対に無理な状況にあります。
 でも、現在の国王陛下が柔軟な考え方を持っておられるため、女性にもその機会が必要だと認めてくれているというお話がありました。

 はっきりとした答えは出なかったものの、自分一人では考えることもなかった話を聞いて、有意義な時間を過ごせたあとに宿に戻ると、キリュウ様が出迎えてくれました。

「遅かったな」
「そうですか? 予定通りの時間に終わったのですが」

 終了時刻が決まっていたので、議論は途中でしたが強制終了になっています。
 それに、ここに帰って来るまでに寄り道をした覚えもありません。

 わたしが気づいていないだけで、御者が遠回りでもしたのでしょうか。

 そんな風に思っていると、クマゴリラ様が笑う。

「アーシャ様の姿が見えないと、心配でしょうがないんだよ」
「お気持ちはとても嬉しいですが、少し、過保護のような気もします」
「うるさいな。で、今日はどうだった?」
「とても有意義な時間を過ごせました」

 笑顔で答えてから、反対を押し切る覚悟を決めて、キリュウ様に宣言します。

「メイナーのことはしばらく様子を見ようと思います。その間に、キリュウ様の命を狙っている、リブトラル伯爵と話をしようと思います」
「駄目だって何度も言ってるだろ」
「ですが、手紙ではわたしの気持ちが全く伝わっていません」
「会って話しても一緒の相手もいるぞ」
「それはわたしも理解しています。ですが、時が過ぎれば諦める相手でもないでしょう。これ以上、過激な真似をされても困るんです。自分が危険な目に遭うよりも、キリュウ様を危険な目に遭わせるほうが嫌ですから!」
「それはこっちも同じ気持ちだよ!」

 口論になりはじめたところで、エルザが手を挙げた。
 発言を求めている仕草だったので、キリュウ様が許可をすると、エルザは頭を下げてから話し始める。

「感情論での話をすることをお許しください。私もアーシャ様と同じように、手紙では気持ちが伝わらないと思います。その時の相手の表情や声色でわかることもあると思うんです」
「俺だって、文章では伝わりづらいってことくらいはわかっている。でも、リブトラル伯爵がアーシャに何かするかもしれないと思うと不安なんだよ」
「では、キリュウ様も一緒に話を聞けばよいのではないでしょうか。アーシャ様の婚約者なのですから、別の男性と二人きりにすることはできないと言って、同席することはおかしくないことだと思います」

 エルザの言葉のあとに、クマゴリラさまが同意する。

「俺もそう思う。それに、もし、アーシャ様に手を出そうとした場合、キリュウ様がそのまま処分しちまえばいいと思うんだよな」
「しょぶん?」

 今いち意味がわからなくて、クマゴリラさまに聞き返すと豪快に笑ってから答えてくれる。

「ああ。手が滑った! って言いながら、斬っちまえばいいだろう」
「そそそ、そ、そんなことにならないようにしなければなりません!」

 わたしは血を見るのが苦手ですから、絶叫して気を失ってしまいそうです。

「アーシャ様の前で、そんな野蛮なことを言うのはやめてください」
「すみません」

 エルザに睨まれたクマゴリラさまは、肩を落として謝った。

 こんなことを言うのもなんですが、エルザは猛獣使いみたいです。

「……わかった」

 キリュウ様は渋々といった様子で頷いて提案する。

「アーシャから出向くんじゃなくて、トイズ辺境伯家に招待する。二人きりにはさせない。話し合いの前にリブトラル伯爵が武器や危険なものを持っていないかのボディチェックをする。この条件が飲めるなら許す」
「ありがとうございます、キリュウ様」

 お礼を言うと、キリュウ様はわたしの頬に触れた。

「え? あ、あの、どうかされましたか?」
「惑わされるなよ」
「……惑わされるとは?」
「何でもない」

 キリュウ様は表情や顔の色は変わりませんが、耳は赤くなっているので照れているようです。

 その時は言葉の意味が分からず終いだったのですが、客室に戻る途中に、エルザが教えてくれました。

「キリュウ様は、アーシャ様の中に、また、リブトラル伯爵が好きだという気持ちが再燃してしまうと思ったのかもしれませんね」

 気持ちが再燃することはありえません。
 どんな理由かわかりませんが、わたしに死んでほしいと思っていた人のことを好きになれるほど、恋に溺れるような人間ではないですから。

 でも、どうして、キリュウ様は照れたのでしょうか。

 不思議に思ってエルザに尋ねると、彼女は苦笑した。

「それは、私の口からは言えませんので、ぜひ、ご本人に聞いてみてくださいませ。」

 エルザの家系はお祖母様の代からトイズ辺境伯家に仕えているそうです。

 そのため、エルザとキリュウ様は長い付き合いですから、言葉にしなくてもわかるものなんですね。

 なんだか少しだけ寂しい気持ちにもなりましたが、今はそんなことを考えている暇はありません。

 気持ちを切り替えて、リブトラル伯爵への手紙を書くことにしたのでした。



◇◆◇◆◇◆
(レディシト視点)




「……レディシトさま……、会いに、来てくれたんですね」

 メイナーが倒れたと聞き、ちょうど、彼女に話したいことがあった僕は様子を見に行った。

 久しぶりに会ったメイナーは、昔の美しさはなく、全身がしわだらけで、まるで、やせ細った老婆のようになっていた。

「レディシトさま……、かおを……見せてください」

 気持ち悪い。

 年齢を重ねた老婆ならまだしも、メイナーはそうじゃない。

 僕よりも若いのに老婆にしか見えない。
 どうして、こんなに一気に老けてしまったんだ?
 生気がないから、そう見えるんだろうか。

 でも、僕はそんな感情を表に出すことはなく、メイナーに近づく。

「具合が悪いみたいだね」
「はい。でも、レディシトさまのかおを……見たら、元気になってきました」

 メイナーはゆっくりと上半身を起こして、僕の手を握る。

「レディシトさま、私はずっと前からあなたのことが好きだったんです。だから、嘘をついてでも、あなたをアーシャから奪いたかった」
「……ごめん」

 僕は彼女の手を取って謝る。

「僕にはアーシャしかいないってわかったんだ」
「……そんな」

 メイナーの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。

 僕は自分が知らないうちに、いろいろな人に愛されていたんだな。

 ショックを受けているメイナーから離れ、扉の前に立って話しかける。

「君をこれ以上傷つけたくないから、もう、僕はここには来ない。今日は君に別れを告げに来たんだ」

 アーシャと復縁するには、メイナーとの縁は切らなければならない。

 これで、もう、僕とメイナーには何のつながりもない。

 メイナーのことを気の毒に思う気持ちもあるけれど、嘘をついて僕を騙したのは彼女だ。
 文句を言われる筋合いはない。


 これから、どうやってアーシャにアプローチをかけようかと思いながら家に戻ると、アーシャから手紙が届いていた。

 
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