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24  元親友の終わりの始まり ②

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 捕まった男性は自分は何もしていないし無実だと訴えましたが、反対方向に向かって歩いていた人たちが、男の目線はキリュウ様のいる方向に明らかに向けられていたし、恐ろしい形相だったと証言してくれたので、宿屋の空き室を借りて、詳しく話を聞くことになりました。

 許可を取って調べた結果、男性の上着のポケットには飛び出し式のナイフが入っていて、これでキリュウ様を狙おうとしたのかと思われます。

 確たる証拠や証言がないため、男性は最初は口を割りませんでした。
 ですが、わたしが部屋の外に出されて戻った時には、雰囲気が違っていました。

 きっと、何らかの方法で脅しをかけたのでしょうね。

 キリュウ様たちは笑顔ですが、椅子に座らされてロープでぐるぐる巻きにされた男性は、わたしに助けを求めるような目をしています。

「素直に話していただけますか」

 お願いしてみると、男性は素直に首を縦に振り、自分は雇われただけだと話しました。

 キリュウ様が言うには、暗殺のプロの方ともなりますと、捕まらないということも当たり前ですが、捕まって逃げられないとわかると、情報を漏らさないために、その場で自害するそうです。

 そうしなかったということは、きっと、素人の方なのでしょう。
 かなり怯えていることも確かです。

 氏名や住んでいる場所を確認したあと、警察に連れてはいくけれど、そこまで重い罪にしないようにする代わりに、誰から頼まれたのか話すように言うと、メイド姿の女性から頼まれたと言うので、何か他に手がかりはないかと思って、彼のことを詳しく聞いてみます。

「普段はどのようなお仕事をされているのですか?」
「……私は」

 三十代前半に見える男性は、震える声で話をしてくれた内容はこんなものでした。

 彼は普段は便利屋の仕事をしていて、引っ越しを手伝ったり、御者になったり、働いている両親の代わりに子どもの面倒を見たりしているそうです。

 そんなある日、真面目に働いている彼の前に現れた女性がいたそうです。

「王都に行って、とある人を殺してほしいと言われました。そんなことはできないと伝えたのですが、無事に殺すことができれば、病気の子どもを救ってやれるのだと言われてつい……」

 彼のお子さんは最近、体の調子が悪いのですが、お医者様に診てもらうこともできず困っていたところだったそうです。
 そのため、女性が現れた時は、救いの神が現れたと思ったと言いました。

「その女性は病気の子どもをどう救うと言っていましたか?」
「医者には診せてやるし、薬ならどうとでもなると言っていました」

 男性が住んでいる場所はセイブル伯爵領です。
 しかも、ナイフには毒が塗ってあるそうで、少し触れただけでも死に至るような猛毒だと聞いたと教えてくれました。

 誰が犯人なのか、すぐにわかりますよね。

 前回の件で、セイブル伯爵家には余裕資金がないことはわかりました。

 かといって、人をお医者様に診せる余裕くらいはあるでしょうし、薬師の彼女なら、薬草があれば薬が作れます。
 人の命を救えるという素晴らしい知識を持っているのに、どうして人の命を奪うようなことばかり考えるのでしょうか。

 話を聞き終え、男性を警察署に連れて行くように頼んだあと、キリュウ様の泊まっている部屋で話をすることになりました。

「たぶん、接触したのはセイブル伯爵家のメイドだろう。さずかに自分で接触するとは思えない」
「わたしもそう思います。メイナーのことですから、捜査の手が自分に及びそうになれば、メイドが勝手にやったことで、自分は知らないと言うでしょう」
「それで、メイドは大人しく罪を認めると思うか?」
「認めると思います。メイナーのことですもの。弱みを握っているに違いありません」
「本人が自白するんだから、動機なんてどうとでも作れるというやつか」

 キリュウ様がため息を吐いた。

「昔、キリュウ様のことを好きだったけれど、相手にされなくて逆恨みしたという動機だったとしても、ありえないことではないと思われるでしょう」
「俺は昔は社交場に出てないんだぞ」
「子どもの頃の話でも良いわけでしょう? なんとでも言えると思います」
「明らかにセイブル伯爵令嬢の指示だということがわかっているのに捕まえられないのか」

 キリュウ様はイライラした様子です。

「キリュウ様、怪しい人物ですが、宿から離れていくので、仲間に後を追わせています」

 捕まえた男性を宿屋に連れて来る時に、少し距離を空けて、クマゴリラさまたちの後を追っていた人がいたらしく、クマゴリラさまに許可を得て追っているのだと、護衛騎士の一人が言った。

「監視役なら、黒幕の元に報告しに行ってくれるだろう。あと、深追いするなということは伝えているな?」
「隊長が念押ししていました。死んでしまったら追いかける意味がなくなりますからね」
「それもそうだが、自分の命が大事だろ」
「ぼくたちは、キリュウ様をお守りするためにいるんです。キリュウ様を殺そうとした人物を探し出すことに全力を尽くさねばなりません」

 まだ若い護衛騎士なので、使命に燃えているように見えます。

 そんな彼に、キリュウ様は眉間にシワを寄せて命令する。

「そう思うなら、自分の命を大事にすることにも全力を尽くせ」
「はい!」

 嬉しそうな顔で返事をして、持ち場に戻っていく護衛騎士を見つめて、キリュウ様が呟く。

「喜ばせるようなことを言ったつもりじゃないんだがな」
「キリュウ様のお気持ちが嬉しいんだと思いますよ」
「……そんなもんかな」
「そんなものですよ。護衛のことを自分のために死んでも良い人物だと勘違いしている人もいますから」
「そんな奴、最低だろ」
「そう思えるキリュウ様だから、皆さん、頑張れるのではないでしょうか」

 笑顔で言うと、キリュウ様は視線を逸らして頷く。

「そう思ってくれていたなら良いけどな」

 実際、護衛というものは偉い人を守るためにあるのでしょう。

 でも、本当は命を狙う人なんていないことが一番ですし、そんな人がいたとしても、誰も犠牲になることなく制圧できれば良いですよね。

 わたしの心は荒んでしまっているので、良い人ばかりの世界ではないと思ってしまっています。

 でも、良い人は報われる世界であってほしいとも願っています。

 数時間後、帰って来た護衛からの報告では、監視をしていた男性が追っ手の目を気にしていたので、わざとまかれたふりをして油断をさせてから追いかけたところ、王都から少し離れた場所にある宿屋に向かったそうです。

 そして、その宿屋にはメイナーが泊まっているとのことでした。


◇◆◇◆◇◆
(メイナー視点)


「はあ? 失敗した?」
「はい。でも、しょうがないことだと思いますよ。素人に頼むんですからね。明らかに不審者にしか見えない近づき方でした」

 怖気づくかもしれないと監視役を雇ったのは良かった。
 でも、失敗して捕まるくらいなら、怖気づかれてやめたほうがまだマシだったわ!

「で、今、その人はどうしているの」
「宿屋に連れて行かれたので取り調べを受けているでしょう。あ、俺の存在に気づいて追いかけてきた奴がいましたが、上手くまいておきましたんで!」

 裏社会に詳しいと自らを絶賛する、いかにも頭の悪そうな若い男は、追加料金をねだるように手を差し出してきた。

 お金を渡すと、少ないと文句を言われはしたけれど、何とか納得させて、今日のところは帰っていった。

「ああ、もう本当に最低な気分だわ」

 キリュウ様の暗殺を頼んだ男は、私が関与しているなんて知らない。
 だから、怯える心配はないわ。

 世の中には薬があれば助かる命はたくさんある。

 私には、まだまだ使える人間がいるわ。

 そう思った瞬間、体が重くなり、息が苦しくなった私は、近くの椅子に倒れ込んだ。
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