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21  自分勝手な思い込み ①

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「……レイティアは外に出てろ!」

 シルーク侯爵が慌てた様子で叫ぶと、夫人は侯爵には何も答えず、セイブル伯爵を見つめる。

「ちょうど探していたんですの。娘さんをお預かりしていますわよ」
「む、娘に何をしたんですか!」

 娘を預かった、という文言が使われた誘拐の話があったからか、セイブル伯爵は悪い意味で受け取ったようです。

「まあ、失礼ですわね。メイナー様がお話ししたいことがあるとおっしゃるので、この部屋でお話を聞かせてもらおうと思って来ただけですのに」
「言い方が悪いだろ」

 シルーク侯爵が言うと、夫人は眉根を寄せる。

「何となく、迷子になった子どもを連れてきたような気分だったのよ」

 夫人の話から判断するに、メイナーは夫人に話をしたいことがあると声をかけたようです。

 ということは、メイナーは廊下にいるということですよね。

 うんざりした気持ちになっていると、わたしたちに気付いた夫人が話しかけてくる。

「セイブル伯爵令嬢から少しだけお話は聞かせていただいているのですが、アーシャ様が加害者で、自分は被害であり、自分は何も悪くないと言っておられます」
「セイブル伯爵令嬢はどんな内容の話をしているのでしょうか」
「そうですわね。アーシャ様は学生時代から嘘ばかりついていて、今は自分を貶めようとしていると嘆いていらっしゃいましたわ」

 メイナーはどうして嘘をつき続けるのでしょうか。
 意味がわかりません。

「それは全て、セイブル伯爵令嬢の嘘です。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「……アーシャ様は自分が嘘をついていたとおっしゃるんですか?」
「そういう意味ではありません! ただ……」
「先程も似たようなことを言いましたけれど、悪くないのに謝る必要はありませんわ。セイブル伯爵令嬢が嘘をついていた場合、パーティーを台無しにしたとして、色々と請求しようと思っていますので、迷惑をかけただなんて思わなくても結構ですわ」

 夫人の話を聞いた、セイブル伯爵が叫ぶ。

「色々と請求するとはどういうことですか!?」
「そのままの意味ですわ。パーティーの主役二人がここにいる時点で、パーティーが滞っているということでしょう?」
「そう思うなら、お前は戻れよ」

 シルーク侯爵が眉根を寄せて言うと、夫人は小首を傾げる。

「どうして私が戻るの? ジェドが戻れば良いじゃない」
「そういう問題じゃないだろ!」
「ジェドがやるほうが、物事がスムーズにまわると思うわ」
「そう思うなら、お前も努力をしろよ!」

 お二人は幼馴染だと聞いています。

 このような会話もいつものことなのでしょう。

「私はセイブル伯爵令嬢の話をしっかり聞かなくちゃいけないのよ」

 夫人がそう答えた時、廊下から声が聞こえてきた。

「申し訳ございません! 用事を思い出しましたので、本日は失礼させていただきます!」
「わ、私もです! あの、ウエイターへのお詫びは改めていたしますので、失礼いたします!」

 娘が逃げたとわかった、セイブル伯爵は同じように早口でまくし立てると、部屋から出ていこうとする。

「おい、待て」
「逃がすわけないでしょう?」
「ひいぃぃっ!」

 シルーク侯爵夫妻に襟首を掴まれたセイブル伯爵は、情けない声を上げたのでした。



******


 その後、セイブル伯爵は正座させられて、侯爵夫人から、じわじわと精神的に痛めつけられる言葉を浴びせられていました。

 わたしが怯えていることに気がついたキリュウ様は、気を紛らわせるためか、今の状況とは全く関係のない話をしてくれます。

「腹が減ったな」
「……ここに来るまでの長い時間、食事をしていませんものね」

 わたしはコルセットが苦しいこともありますが、精神的なものもあるのか、お腹は減っていません。
 そう思うと、この状況で平気でいられるキリュウ様はやはりすごいです。

「とても重大な情報をお伝えしますので、今日のところはお許しください!」

 セイブル伯爵が震えながら叫んだ言葉を聞いて、わたしとキリュウ様は話すことをやめて、セイブル伯爵を見つめます。

「どんな楽しい話を聞かせてくれるんですの?」

 侯爵夫人が尋ねると、セイブル伯爵はキリュウ様を指差す。

「リブトラル伯爵がトイズ辺境伯の命を狙っているという話です!」

 レディシト様がキリュウ様の命を狙っている!?

 どうして、そんなことになるのですか!?



◇◆◇◆◇◆
(レディシト視点)
※レディシトの思い込みの話なので不快になるおそれありです。
嫌い!
という方は読み飛ばしください。






 アーシャのことで反省したからか、ドイシン病は治ったけど、体力は中々戻らなかった。
 これも、アーシャと復縁しないからかもしれない。

 アーシャはあんなに僕を愛してくれていたんだ。
 今だって、僕のことを忘れてなんかいないはずだ。

 それなのに、もう会わないだなんて絶対におかしい。

「レディシト、もう、アーシャのことは忘れなさい」
「母さん、僕の体力が戻らないのは、アーシャが近くにいないからなんだよ」
 
 まだ、ベッドから起き上がることも難しい僕の手を強く握り、母さんが尋ねてくる。

「レディシト、本当にアーシャを手に入れたいの?」
「うん。手に入れるというか、僕のところに戻ってきてもらいたいんだ」
「……わかったわ。でも、アーシャが戻ってきて、やっぱり嫌だったなんて後悔しないわね?」
「当たり前だよ」

 僕が頷くと、母さんは大きな息を吐いて僕の手を離した。

「母さん、アーシャはきっと、トイズ辺境伯に脅されていると思うんだ。だから、僕のところに帰ってこれないんだと思う」
「そうね。アーシャがあなたを拒むなんてありえないもの」

 話し合った結果、まずは、トイズ辺境伯にアーシャを返してもらうようにお願いする。

 それが駄目だった場合は強硬手段を取ることになった。

 アーシャに会うことができたら、ちゃんと謝ろう。
 そして、仲直りしたら、子供を作って温かな家庭を築くんだ。



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