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28 元夫との対決 ④
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「ま、待ってくれ。誤解……、いや、一瞬でもそう思ったことは確かだから、認めることは認めるよ。だけど、ちゃんと後悔したんだ」
「いなくなれば良いと考える前に、わたしに相談しようとは思わなかったのですか」
あの時のわたしはリブトラル伯爵が幸せならそれでいいと本当に思っていましたから、素直に打ち明けてもらっていれば、無理に子作りをしようだなんて思わなかったと思います。
きっと、愛人を認めてでも、彼の隣にいようとしたはずです。
「そんなこと、相談できるわけないじゃないか。婚約した時点で、いつかはそういうことをしなければいけないことはわかっているんだ。今更なんだと言われると思ったんだよ」
「今更なんだと言われたくないから、わたしがいなくなれば良いと思ったのですか」
「自分が酷いことを考えたということくらい、わかってるって言っているだろう!」
耳が痛いのか、リブトラル伯爵は声を荒らげて訴えてくる。
「悪いと思ったから謝っているじゃないか! 一度くらい許してくれよ!」
「許す許さないの問題ではありません。それにたとえ、許したとしてもあなたと復縁することはありません」
「……あんなに僕のことが好きだったのに、そんなに簡単に切り捨てるのか?」
「……そうなるきっかけを作ったのはあなたです。いえ、先に切り捨てたのはあなたです」
嘘をついていないと言っていたのに、信じてくれなかった!
そう言葉にしたくなるのをこらえて、傍らに置いてあるシルバートレイを握りしめ、大きく深呼吸してから尋ねます。
「……どうして、わたしとの復縁を望むのですか?」
「……本当の愛に気がつけたから」
「本当の愛?」
「ああ。自分よりも僕のことだけを思ってくれる人なんて、そう中々見つからないものだってわかった」
「あなたは人からの愛を求めているようですが、自分がそれくらい誰かを愛してしまったらどうするんです? 尽くしてくれた人を簡単に捨てるんでしょう!?」
リブトラル伯爵は自分のことを愛してくれる人が好きなだけです。
わたしは彼にとって都合の良い女なのでしょう。
「そんなことはしない! もう二度とアーシャを捨てたりなんかしない!」
「それはそうでしょう。あなたのものではありませんから、捨てられることもありません」
「頼む、頼むよ、アーシャ」
リブトラル伯爵は両手を合わせて懇願する。
「君を幸せにしないと、僕は罰が当たってしまう!」
「……罰が当たる?」
「ああ。僕の体調が悪くなったのは、君の不幸を願ってからだ。なら、君を幸せにすれば、僕は不幸にならない」
「本当に自分のことしか考えていない人なのですね」
怒りで自分の声が震えているのがわかりました。
でも、何とか落ち着かせて続けます。
「それなら、わたしの目の前に二度と現れないでください。あなたとかかわらないことがわたしの幸せです」
「……アーシャ」
リブトラル伯爵はショックを受けた顔をして、わたしに手を伸ばしてきました。
キリュウ様が動こうとしましたが、それを止めて、シルバートレイの持ち手の部分でリブトラル伯爵の額を叩く。
ガツンという音がして、リブトラル伯爵は額を押さえてしゃがみ込みます。
「な、なんてことをするんだ!?」
「わたしに触れようとするからです! リブトラル伯爵! わたしを幸せにすれば、あなたは不幸にならなくて済むのですよね?」
「そうだよ! だから、僕とやり直そう!」
リブトラル伯爵は馬鹿なことを考えたから、ドイシン病にかかったのに、わたしの不幸を考えたからドイシン病にかかったと思い込んでいるようです。
だから、わたしを幸せにすれば、自分はもう苦しまなくて良いと思ったのでしょう。
「リブトラル伯爵、わたしは自分の意思であなたから離れたのです。もう、わたしのことは忘れて、新しい道を歩んでください。正しい道を歩めば、もう痛い目に遭わなくて済むでしょう」
「ほ……、本当にいいのか?」
「かまいません。あなたがわたしを忘れて、目の前に現れなければ、わたしの悩みもなくなります」
「……僕は君にそこまで嫌われるようなことをしたのかな」
呆然とした表情のリブトラル伯爵に、わたしは躊躇うことなく頷きます。
「ええ。とても心に大きな傷を受けました。たとえ、癒えることがあったとしても、忘れはしません。二度と同じ目には遭いたくありませんから」
「……わかったよ」
リブトラル伯爵は大きなため息を吐いて立ち上がる。
「僕は幸せになる。君も幸せになってくれ」
「ありがとうございます。ですが、あなたが幸せになることは、当分先のことになると思います」
「……どういうことかな?」
「あなたのご両親に確認してはいかがでしょうか」
「もったいぶらないで教えてくれよ!」
わたしから伝えるべきなのか迷ったのでキリュウ様を見ると、彼は短刀を手にしたまま立ち上がる。
「話が終わったようだから、今度は俺が話をさせてもらう」
「……なんの話でしょうか」
警戒した様子でリブトラル伯爵が尋ねた。
「俺を殺そうとしたな?」
「な……、そんな、違います! 僕は何も……! やったのはメイナーで」
「セイブル伯爵令嬢を唆し、俺を殺そうとしたのは、リブトラル伯爵、あなたのご両親だろう?」
「い、いや、そ、そんな……、ぼ、僕は何も知りません!」
リブトラル伯爵は立ち上がってキリュウ様に叫ぶと、わたしに目を向ける。
「アーシャ、今までありがとう」
「お礼を言われるようなことはしていませんわ。それに、お礼を言わなければならないのは、こちらのほうです」
「……え?」
見下されているのも嫌ですので、立ち上がって頭を下げます。
「離婚していただき、ありがとうございました」
「……後悔しないようにね」
「しません」
はっきりと答えると、リブトラル伯爵は一礼して部屋を出ていった。
思った以上に簡単に引き下がってくれました。
ふっと力が抜けて、ソファに倒れ込みそうになった身体を、キリュウ様が受け止めてくれました。
「大丈夫か?」
「……ありがとうございます」
ソファに座らせてもらうと、キリュウ様はわたしの手からシルバートレイを受け取り、それと一緒に自分の持っていた短剣をテーブルの上に置いて、わたしの隣に座った。
「帰っていったのはいいが、これから大変だということを、あいつはわかってんのかね」
「わかっていないと思います」
リブトラル伯爵は、これから、しばらくは幸せになんてなれません。
リブトラル伯爵にフラれたメイナーは、彼の両親にキリュウ様を殺すように依頼されたことを警察に暴露したからです。
今頃、彼の両親は警察に捕まっていることでしょう。
二人は息子をかばうかもしれません。
でも、リブトラル伯爵家が無傷でいることはないでしょう。
メイナーのリブトラル伯爵への愛は憎しみに変わったようですから――
「いなくなれば良いと考える前に、わたしに相談しようとは思わなかったのですか」
あの時のわたしはリブトラル伯爵が幸せならそれでいいと本当に思っていましたから、素直に打ち明けてもらっていれば、無理に子作りをしようだなんて思わなかったと思います。
きっと、愛人を認めてでも、彼の隣にいようとしたはずです。
「そんなこと、相談できるわけないじゃないか。婚約した時点で、いつかはそういうことをしなければいけないことはわかっているんだ。今更なんだと言われると思ったんだよ」
「今更なんだと言われたくないから、わたしがいなくなれば良いと思ったのですか」
「自分が酷いことを考えたということくらい、わかってるって言っているだろう!」
耳が痛いのか、リブトラル伯爵は声を荒らげて訴えてくる。
「悪いと思ったから謝っているじゃないか! 一度くらい許してくれよ!」
「許す許さないの問題ではありません。それにたとえ、許したとしてもあなたと復縁することはありません」
「……あんなに僕のことが好きだったのに、そんなに簡単に切り捨てるのか?」
「……そうなるきっかけを作ったのはあなたです。いえ、先に切り捨てたのはあなたです」
嘘をついていないと言っていたのに、信じてくれなかった!
そう言葉にしたくなるのをこらえて、傍らに置いてあるシルバートレイを握りしめ、大きく深呼吸してから尋ねます。
「……どうして、わたしとの復縁を望むのですか?」
「……本当の愛に気がつけたから」
「本当の愛?」
「ああ。自分よりも僕のことだけを思ってくれる人なんて、そう中々見つからないものだってわかった」
「あなたは人からの愛を求めているようですが、自分がそれくらい誰かを愛してしまったらどうするんです? 尽くしてくれた人を簡単に捨てるんでしょう!?」
リブトラル伯爵は自分のことを愛してくれる人が好きなだけです。
わたしは彼にとって都合の良い女なのでしょう。
「そんなことはしない! もう二度とアーシャを捨てたりなんかしない!」
「それはそうでしょう。あなたのものではありませんから、捨てられることもありません」
「頼む、頼むよ、アーシャ」
リブトラル伯爵は両手を合わせて懇願する。
「君を幸せにしないと、僕は罰が当たってしまう!」
「……罰が当たる?」
「ああ。僕の体調が悪くなったのは、君の不幸を願ってからだ。なら、君を幸せにすれば、僕は不幸にならない」
「本当に自分のことしか考えていない人なのですね」
怒りで自分の声が震えているのがわかりました。
でも、何とか落ち着かせて続けます。
「それなら、わたしの目の前に二度と現れないでください。あなたとかかわらないことがわたしの幸せです」
「……アーシャ」
リブトラル伯爵はショックを受けた顔をして、わたしに手を伸ばしてきました。
キリュウ様が動こうとしましたが、それを止めて、シルバートレイの持ち手の部分でリブトラル伯爵の額を叩く。
ガツンという音がして、リブトラル伯爵は額を押さえてしゃがみ込みます。
「な、なんてことをするんだ!?」
「わたしに触れようとするからです! リブトラル伯爵! わたしを幸せにすれば、あなたは不幸にならなくて済むのですよね?」
「そうだよ! だから、僕とやり直そう!」
リブトラル伯爵は馬鹿なことを考えたから、ドイシン病にかかったのに、わたしの不幸を考えたからドイシン病にかかったと思い込んでいるようです。
だから、わたしを幸せにすれば、自分はもう苦しまなくて良いと思ったのでしょう。
「リブトラル伯爵、わたしは自分の意思であなたから離れたのです。もう、わたしのことは忘れて、新しい道を歩んでください。正しい道を歩めば、もう痛い目に遭わなくて済むでしょう」
「ほ……、本当にいいのか?」
「かまいません。あなたがわたしを忘れて、目の前に現れなければ、わたしの悩みもなくなります」
「……僕は君にそこまで嫌われるようなことをしたのかな」
呆然とした表情のリブトラル伯爵に、わたしは躊躇うことなく頷きます。
「ええ。とても心に大きな傷を受けました。たとえ、癒えることがあったとしても、忘れはしません。二度と同じ目には遭いたくありませんから」
「……わかったよ」
リブトラル伯爵は大きなため息を吐いて立ち上がる。
「僕は幸せになる。君も幸せになってくれ」
「ありがとうございます。ですが、あなたが幸せになることは、当分先のことになると思います」
「……どういうことかな?」
「あなたのご両親に確認してはいかがでしょうか」
「もったいぶらないで教えてくれよ!」
わたしから伝えるべきなのか迷ったのでキリュウ様を見ると、彼は短刀を手にしたまま立ち上がる。
「話が終わったようだから、今度は俺が話をさせてもらう」
「……なんの話でしょうか」
警戒した様子でリブトラル伯爵が尋ねた。
「俺を殺そうとしたな?」
「な……、そんな、違います! 僕は何も……! やったのはメイナーで」
「セイブル伯爵令嬢を唆し、俺を殺そうとしたのは、リブトラル伯爵、あなたのご両親だろう?」
「い、いや、そ、そんな……、ぼ、僕は何も知りません!」
リブトラル伯爵は立ち上がってキリュウ様に叫ぶと、わたしに目を向ける。
「アーシャ、今までありがとう」
「お礼を言われるようなことはしていませんわ。それに、お礼を言わなければならないのは、こちらのほうです」
「……え?」
見下されているのも嫌ですので、立ち上がって頭を下げます。
「離婚していただき、ありがとうございました」
「……後悔しないようにね」
「しません」
はっきりと答えると、リブトラル伯爵は一礼して部屋を出ていった。
思った以上に簡単に引き下がってくれました。
ふっと力が抜けて、ソファに倒れ込みそうになった身体を、キリュウ様が受け止めてくれました。
「大丈夫か?」
「……ありがとうございます」
ソファに座らせてもらうと、キリュウ様はわたしの手からシルバートレイを受け取り、それと一緒に自分の持っていた短剣をテーブルの上に置いて、わたしの隣に座った。
「帰っていったのはいいが、これから大変だということを、あいつはわかってんのかね」
「わかっていないと思います」
リブトラル伯爵は、これから、しばらくは幸せになんてなれません。
リブトラル伯爵にフラれたメイナーは、彼の両親にキリュウ様を殺すように依頼されたことを警察に暴露したからです。
今頃、彼の両親は警察に捕まっていることでしょう。
二人は息子をかばうかもしれません。
でも、リブトラル伯爵家が無傷でいることはないでしょう。
メイナーのリブトラル伯爵への愛は憎しみに変わったようですから――
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