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13  嘘をつかれた被害者 ①

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 どうして、元義母がここにいるのか疑問に思いましたが、先にトイズ辺境伯家に行って、出かけているとでも言われたのでしょう。
 エルザたちが彼女に行き先を伝えるわけがないので、目撃情報を掴んで、ここにやって来たという感じでしょうね。

「俺が話す」

 キリュウ様がクマゴリラ様たちに声をかけると、キリュウ様の前にいた護衛は、わたしの横に場所を移動した。

「トイズ辺境伯! お願いです。取引業者から聞きました。レディシトの看病をしていたのも、仕事をやってくれていたのも全てアーシャさんなのですよね!?」

 メイナーは使用人に口止めはしたけれど、仕事関係の人たちには話をしていなかったようです。

 ドイシン病と診断される前からレディシト様は寝込んでいました。
 そのため短い間ではありましたが、わたしが彼の代わりに仕事をしていました。

 その間に何人かと直接会って話をしましたので、その方たちから聞いたのでしょう。

「それがどうした。アーシャにはもう関係ないことだ」
「そんなことはありません! メイナーは今、ルーナオを探しにいっていますが、見つからないようなんです」
「だから、それはアーシャに関係ないだろ。さっさと本題を言え」

 こちらに背を向けているのでキリュウ様の顔は見えません。
 でも、声色を聞く限り、かなり苛立っていることは伝わってきます。

「使用人はメイナーがルーナオを採ってきたと言っていますが、もしかして、アーシャさんが採ってきてくれたのかと思ったんです!」

 真実にたどり着いてくれたのは嬉しいですが、今更といった感じです。

「だから、アーシャにルーナオを採りにいってほしいってか? 都合が良すぎるだろ」
「それは存じております! ですが、このままでは息子が死んでしまうんです!」

 見物人がかなり増えてきました。
 ここで簡単に断ってしまったら、何も知らない人から見れば、わたしは悪者です。

 元夫の母親ですから、無視をするのはどうかと思う人や、元夫とはいえ、命が危険なのだから助けてやれば良いと思う人もいるでしょう。
 でも、先にわたしを捨てたのはレディシト様です。

 それに、レディシト様を助けるということはメイナーを助けることになります。

 そんなことは絶対に嫌です。
 それに、元義母はこうやって大勢の前で叫んで、わたしが断りづらいようにしたのでしょう。
 そういうところも腹が立ちます。

 我慢できなくなって、護衛に少しだけ横にズレてもらい、顔だけ見せて、元義母に話しかけます。

「わたしなんかに頼らずに、あなたが自分で探しに行けば良いではないですか。それに、メイナーが探しに行っているんでしょう?」
「……見つけられないから言っているのよ!」
「……わたしはあの時、嘘つき呼ばわりされたこと、絶対に許しません」
「だから、信じなくて悪かったと言っているじゃないの! 素直に言うことを聞いてちょうだい!」

 元義母は声を荒らげたあと、すぐに口を押さえる。

「……ごめんなさい。頼む人間が、言う言葉じゃないわよね」
「そうですね」

 躊躇することなく頷き、元義母に話しかけます。

「母親として息子が心配だという気持ちはお察しします。ですが、追い出したわたしに探すことを強制しようとするのはどうかと思います」
「あなたはレディシトのことを愛しているのでしょう?」

 元義母は体を震わせながら聞いてきた。

「わたしはもう、レディシト様のことを愛してはいません。だからといって見殺しにしても良いとも思っていません」
「なら、助けてくれるのね!?」

 元義母だけでなく、野次馬の視線がわたしに集まっています。

「嫌に決まってんだろ」

 言葉を選ぼうと考えていたわたしが口を開く前に、キリュウ様が会話に割って入ってきた。

「正式発表はまだだが、アーシャは俺の婚約者なんだ。元夫になんて関わってほしくない」
「こ、婚約者ですって!?」

 驚く元義母は無視して、キリュウ様の意見にクマゴリラさまがうんうんと頷く。

「彼女が元カレと会うのも嫌だと思うのに、元夫なんて、俺だったら絶対に嫌だな」
「普通は嫌ですよ。しかも、自分たちがアーシャ様を追い出したんですよ。そんな相手を助ける必要あるんですか」
「そうですよ。都合が良すぎますって!」

 クマゴリラさまの言葉に、他の護衛たちも同意する。
 
 自分でいうと言い訳がましくなりますが、こんな状況でも断る経緯があるのだと、周りにアピールしてくれているのは本当に助かります。
 
 ここまでやってもらったんですもの。

 物怖じしていてはいけません。

「レディシト様を助けられるのは、わたしだけではありません。それに、こんな無駄なことはせずに、ルーナオを探しに行かれたらどうですか?」
「見たらわかるでしょう! 急激に痩せてしまって体力もないのよ! それに、主人が私の代わりに行ってくれているわ!」

 そう言われてみれば、ふっくらしていた体が痩せたようにも見えます。

「では、メイナー以外の人に探してもらってはどうでしょう。レディシト様には友人も多くいらっしゃいますから、助けてくれるのはないでしょうか」
「頼んでくるわよ!」

 元義母はそう叫ぶと、わたしを睨みつける。

「私も嘘をつかれた被害者なのよ! そんな人を許さないだなんて、あなたがこんなに器の小さい女性だったなんて知らなかったわ! レディシトと離婚させて本当に良かった!」
「それはこちらのセリフです! 離婚をさせていただきありがとうございました!」

 元義母は恨めしそうな顔をしたあと、わたしに背を向けて歩き出す。

「お、奥さま、お待ちください!」

 元義母のメイドが慌てて後を追いかけていくのを見届け、騒がしくしてしまったことを周りの人に詫びてから、わたしたちは馬車が待っている場所に移動したのでした。



◇◆◇◆◇◆
(メイナー視点)


 見つからない!

 泣き言ばかり言う侍女を森の外へ出し、代わりに護衛たちに探させたけれど見つからない。

 アーシャはどうやって見つけたのかしら。
 
 うさぎ、うさぎと言っていたから、うさぎを追いかけて……って、そうだわ。

 うさぎよ!

 侍女だってそう言っていたじゃない。

「うさぎを捕まえて!」
「しょ、承知しました!」

 きっと、草の中にうさぎが隠れていて、その近くにルーナオがあるんだわ。
 これで、レディシト様は助かる!

 頭の中が希望に満ち溢れた時、背後から怒鳴り声が聞こえた。

「おい! よくも騙してくれたな!」

 背後から、気難しそうな顔をした中肉中背の背広姿の男性が現れた。

 一瞬、何か言い返してしまいそうになったけれど、相手が誰だか気がついてやめた。

「お義父さま」

 アーシャが出て行って少ししてから、本人からそう呼ぶように言われていたので、自然とそう呼んだ時だった。

「そんな呼び方をするな! お前と私は赤の他人だ! この嘘つきめが!」

 お義父さまは私を突き飛ばし、護衛たちに叫ぶ。

「いいか! お前たち! 本来なら主人に嘘をついたということで全員がクビだ! だが、ルーナオを見つけ出せた奴だけクビを回避させてやる! いいか! 今すぐ探すんだ!」
「は、はい!」

 騎士たちは声を揃えて返事をすると、先程よりも必死になってルーナオを探し始めた。

 状況が掴めなくて、お義父さまに尋ねる。

「あ、あの一体、どういうことなんですか」
「どうもこうもない。お前は使用人を買収したようだが、取引業者の買収を忘れていた。だから、何も知らない業者が看病をしていたのも、仕事をしていたのもアーシャだと教えてくれたんだよ!」

 取引業者ですって!?
 余計なことをするんじゃないわよ!







ーーーーーー

ざまぁ希望キャラを教えていただきありがとうございました。





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