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6   元親友との再会 ①

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 パーティーの日にちは思った以上に近づいていて、ドレスは既製品になりましたが、思った以上に高い値段で、かなり焦りました。

 でも、キリュウ様は表情一つ変えずに買ってくれたので、少し感動してしまいました。

 トイズ辺境伯領に住む人たちの多くは、キリュウ様の素顔を知っていて、熊のような大男はクマゴリラさまのことを言っているのだろうと教えてくれた。

 ……といいますか、クマゴリラさまの人脈が広すぎて、街の人でさえも名前を教えてくれません。

「これはわたしへのいじめなのではないでしょうか」
「アーシャが本気で嫌がるようなら教えるよ」
「そこまでは思っていません。愛称として考えていますから」
「クマゴリラがこんなことをするなんて初めてだから、アーシャはよっぽど気に入られてるんだろうな」

 キリュウ様がそう言ってくれるので、クマゴリラ様の本名を知ることを諦めることにしました。

 別に悪口を言っているつもりはありませんし、クマゴリラさま本人がそう呼んでほしいと願っているのですから良いですよね。

 この時のわたしもキリュウ様も、そしてクマゴリラ様も、わたしが彼の本名を知らなかったことを良かったと思える出来事がおこるだなんて、夢にも思っていませんでした。



******


 誕生日パーティー当日、主役である子爵家に向かう馬車の中で、キリュウ様が気になる話を持ち出しました。

「最近、リブトラル伯爵の体調が良くないらしいぞ」
「そうなのですか」
「ああ。熱は出ていないようだが、咳が激しくなってきているらしい」

 ……もしかして、メイナーが反省してくれるのを待つ期間が過ぎたということでしょうか。

 レディシト様のためにも反省してほしいところですが……。

「あの、キリュウ様」
「どうした。気になるのか」
「……メイナーに伝えておきたいことがあるのです」
「……どんなことを話すつもりだ?」
「これ以上、嘘をつき続けるなら、レディシト様の命が危ないと伝えたいんです」
「それだけでは難しいな。根拠がない。脅迫しているととる可能性もあるぞ」
「……そうですよね」

 真実を話したところで、メイナーは信じてくれないでしょう。
 かといって、このまま知らないふりをしているのも嫌です。

 悩んでいると、キリュウ様が眉をひそめて話しかけてくる。

「リブトラル伯爵と話してみるか?」
「いいえ、結構です。忘れると決めた心が揺らぐのも嫌ですし、揺らいでしまったら自分を嫌いになりそうなんです」
「そこまで深く考えなくても良いと思うけどな」
「レディシト様のことを憎んていないから駄目なんです」

 わたしとレディシト様の関係は元夫婦であって、それ以上の関係ではありません。

 メイナーと一緒になることがレディシト様の幸せにつながるのならば、一緒になってほしいと思いますが、このままでは幸せにはなるどころか、レディシト様は死んでしまうでしょう。

「アーシャ」
「何でしょうか」
「隠していることがあるだろ」
「……どうしてそんなことをおっしゃるのですか」
「何かを知っているのに口に出さないように見える」

 キリュウ様は鋭い視線をわたしに向けた。

 辺境伯ですから、観察眼が優れているのは当たり前ですよね。

 ……わたしがわかりやすすぎるのでしょうか。

 隠すことを嘘とは言いませんが、キリュウ様には話しておくことにします。

「ここだけの話にしていただけますでしょうか?」
「ああ」

 御者に聞かれることがないように、小さな声でキリュウ様に今までの話をしました。

 キリュウ様は唸ったあとに口を開く。

「……セイブル伯爵令嬢は罰当たりな奴だな」
「わたしもそう思います。でも、そのせいでレディシト様が辛い思いをするのはどうかと思うのです」
「……なら、俺からリブトラル伯爵に忠告してやる。死にたくなければ、真実を話すようにセイブル伯爵令嬢に話せってな」
「ありがとうございます」
「リブトラル伯爵は死ななきゃならないほどの悪いことはしていないと思うからな」

 キリュウ様の言葉に頷く。

「わたしもそう思います」

 でも、メイナーが反省しなければ、レディシト様の命が危険なことに変わりはないでしょう。

 レディシト様が亡くなってからでは遅いのです。

 どうか、そのことにメイナーが気づいてくれますように。



◇◆◇◆◇◆
(メイナー視点)



 ゲホゲホとレディシト様が咳き込んでいる。
 パーティー会場には多くの人が集まっていて、咳き込むレディシト様に冷たい視線を向けていた。

 みんな、レディシト様がドイシン病を再発したのではないかと疑っているみたいだわ。

 そんなわけないじゃないの。

 本当に周りは酷い人ばかりね。

 普通は体調を心配するものなんじゃないのかしら。

「すまない、メイナー。体調が悪いんだ。もう帰らないか」
「まだですわ。ちゃんとアーシャと話をしたいんです」
「……わかったよ。じゃあ、向こうで休ませてもらう」

 レディシト様は情けない顔をして言うと、私から離れていく。
 
 体調が悪そうなのは私も心配だけど、それよりも大事なことがある。

 私が今まで我慢しきた分、アーシャには辛い思いをしてもらわないといけない。

 私の気持ちに気づかずに、すっとレディシト様の隣にいたんだもの。

 私に残酷なことをしたのだから、少しくらいは不幸になってもらわなくちゃ。

 ……それにしても、アーシャたちはまだ来ないのかしら。

 今日のパーティーは終了時間の三十分前までに会場に入れば良いことになっている。

 時計を見ると、その時間までは、まだ1時間近くある。

 ギリギリに来るつもりかしら。

 だって、熊みたいな野蛮な男を連れてくるんですものね!

 どうやって時間を潰そうか考えていると、学生時代の友人が近寄ってきた。

「メイナー様、お久しぶりです」
「本当ね。会えて嬉しいわ」
「今日は落ちこぼれアーシャが来ると聞きましたわ。しかも、そのお相手が……」

 友人はくすくすと楽しそうに笑う。

 目の前にいる、底意地の悪そうな顔をした彼女はアーシャを自らの意思でいじめていた。

 彼女もアーシャが嫌いなのだ。

 アーシャごときが、自分の婚約者よりもレベルの高い婚約者がいるだなんて許せなかったみたい。

 出入り口が騒がしくなったので、目を向けると、見たことのない男性が入ってきたところだった。

 でも、すぐに足を止めて会場の外に出ていく。

「……まあ、素敵な方ね。どなたかしら」
「整った顔立ちの方でしたわね。他国の方でしょうか」

 友人と話をしていたその時、紫色のプリンセスラインのドレスに身を包んだアーシャが先程の男性と共に会場内に入ってきた。

「……どういうこと?」

 アーシャの隣にいなければならないのは、熊のような大男のはずよ!

 アーシャは誰かを探しているのか、首を左右に動かし、私の姿を見つけると、満面の笑みを浮かべた。

 どうして、あなたが幸せそうにしているのよ!
 
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