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人の恋路に手を出すべきか

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「なんか、いいとこ邪魔しちゃってごめんね」
「いやいや、血迷ってしまったのを冷静にさせてもらって良かったよ」
「そうなの?」

 ソファーに座らせてもらい、楽な服装に着替えおわっているリアがベッドの上に座ったのを確認すると、今日の出来事を簡単に話し、どうして先程の状態に至ったかを説明した。

「まあ、ラス様は女から見たら理想の男性に近いし、男から見ても条件の良い男だもんね。ユウヤくんが不安になる気持ちはわかるけど、かと言って、ユーニがラス様と距離を置くのも違うわよね」
「うん。昔ならそれで良かったんだろうけど、私もだいぶラス様に心を許しちゃった感あるし、これからどこかで会っても挨拶だけなんて、なんか寂しいし」
「気持ちわかる。ラス様って、敵とみなしたら厳しいけど、そうじゃなかったら、普通に優しいもんね」

 リアは頷いてから話題を変える。

「でも、そのレイブグル伯爵令嬢、だっけ? ラス様のことをおいておいても、仲を取り持つのは良いにして、まずはジンさんの気持ちもあるし、色々と難しくない?」
「そうなんだよね。ジンさんにミランダ様の気持ちを押し付けるわけにはいかないし。そう考えると、まだお互いを知らない関係性のミランダ様には何もせず、温かく見守るだけでいいのかな? ジンさんは色恋沙汰に興味なさそうだし」

 騎士団の鍛錬の様子を見ていると、ジンさんが剣が好きな事は伝わってくる。

 それに前に話を聞いた時に思ったけど、彼自身、家を追い出された事には困ってたのに対し、婚約破棄された事には困ってなさそうだったような。

「そうね。ジンさんもイケメンだし、イッシュバルド家の後ろ盾がなくても、騎士ってだけで、お嫁さんになりたいと思う子はいるだろうし」

 リアがベッドに寝転んでくつろぎながら頷く。

 そういえば、リアが何か言いたかったのではないか、と思い出し尋ねる。

「リア、そういえば今日はどうだったの?」

 そう聞いた途端、リアはガバっと起き上がると、私の前までやって来て言う。

「無理かもしれない」
「え、何が?」
「私には向いてないかもしれない」
「ど、どういう事?」

 深刻そうな表情のリアが心配になり、顔を覗き込んで聞き返す。

「ドレスは動きにくいわ、姿勢がどうだとか、テーブルマナーがどうだとか、今まで16年生きてきて染み付いたものが簡単に直せるわけないじゃない!」
「ま、まだ1日目だし、これからなんとかなるんじゃない?」
「わかってるのよ。グチグチ言ってもしょうがない事くらい」
「いや、グチるのも悪くはないけどね?」

 リアの話を聞いていると、私まで段々不安になってきた。

 ユウマくんの婚約者であるリアがやる事は、ユウヤくんの婚約者になるのであれば、私もやらないといけない可能性が高い。
 わりかと器用にこなすリアができないのであれば、自分ができない事なんて目に見えている。

「そんなに大変なの?」
「大変も大変よ! って、ユーニにこんな事言ってたら、ユウヤくんに怒られそうね」
「なんで?」
「そんな事をするくらいなら婚約者なんてなりたくない、って言い出しそうだし」
「う、さすが」

 リアは私のことをよくわかっている。

 普通なら好きな人のためなら、これくらい頑張れるって思うのかな?
 でも私だって、気持ちに気付いたのは会えなくなってからだけど、6年も思い続けた。
 そりゃあまあ、誰にもときめかなかった訳ではないけど、好きな人と呼べるのはユウヤくんだけだ。

「そういえば、リアはさ」
「ん?」
「ユウマくんを好きだって、いつ自覚したの?」
「え?! なんで?!」
「いや、もうリアとは3年くらいの付き合いなのに聞いてなかったな、って思って」

 ユウマくんの事で色んな話をしていたのに、自覚した時期は聞いてなかったような気がする。

「自覚した時期かあ」

 リアはうーんと唸ったあと、照れているのか、はにかみながら続けた。

「きっかけはあれかな。私が9歳くらいの頃かな。結構、やんちゃで近所の男の子と喧嘩してたのよ。で、えらくからかわれた時に、頭に来て、年上の男の子を殴っちゃって」

「なんか、リアらしいね」
「でしょ? 体格的に厳しいかな、とは思ったんだけど、口より手が出ちゃったの」
「で、リアは大丈夫だったの?」

 結末が気になって、先を急かすと、

「うん。ユウマくんのグループが間に入ってくれたの」
「ユウマくんのグループ?」
「そう。あの頃のユウマくんって荒れてたから」
「そういえば、世捨て人みたいだった、って言ってたね」

 今のユウマくんは世捨て人というより、やんちゃな感じ。

 リアと再会したから丸くなったのかな?

「で、助けてくれた時に、なんかカッコいいっておもっちゃったのよね」
「そういうシチュエーションだとわからないでもない。ヒーローがヒロインを助ける感じだもんね」

 私は勝手にその状況を思い浮かべてうっとりする。
 そんな感じなら、ユウマくんは昔はモテてたんだろうなあ。
 それでもリアに一筋なのは何か理由があるのかな?
 もちろん、リアはキツいとこもあるけど、基本は優しいし、可愛いから、好きになるのはおかしくはないけど。
今なら、ユウヤくんも、私がそんな状態になったら助けてくれるのかな。

 でも、昔のユウヤくんなら泣きべそかいてるだろうな。
 しまった。
 また、ユウヤくんの話に頭がいってしまった。

「そういえば、ユウヤくんもユウマくんも戦争で功績をあげたなら強いのかな」
「それよ!」

 リアは私の隣に座ると、必死の形相で言葉を続けた。

「そういう事になった時に、私はついていけないのよ!」
「なんで?」
「殿下の嫁が戦場にのりこむなんて考えられないし、駄目だって言われたの」
「でもそれ、結婚しなかったとしても、ユウマくんはリアを連れて行かないんじゃない?」

 わざわざ好きな女性を戦場のような危ない場所に連れて行きたくはないだろう。

 すると、リアは納得のいかない表情を浮かべて言った。

「騎士団には女性もいるの。だから私も何かあった時に一緒に戦いたい。黙って帰りを待つなんて嫌なのよ」
「リアは剣も体術も魔法も一通り出来るから余計そう思うんだろうなあ」

 リアは私のその言葉を聞き、怒りの表情を浮かべて叫ぶ。

「それなら行かせてくれたっていいじゃない! 待ってて何があるわけ?」
「まあ、そうだよね。私だって回復魔法が使えるから後方支援部隊に入れてほしいかも」
「でしょ!」
「でも、何でそんな事? まさか、戦争が起きる気配があるの?」

 不安になり、私がリアに詰め寄ると、視線をさまよわせて躊躇いながらも口を開いた。

「アレンくんなんだけど」
「あ、そういえば、ちゃんと話をしたの?」
「うん。わかってはくれたみたいなんだけど、気になることを言ってたの」
「・・・・・なんて?」
「次の戦いで勝利を捧げれば、お願いをきいてほしいって」

 次の戦いって、そう口にする理由があるってこと?
 敵国の方に何か動きでもあったのかな。
 神妙な面持ちになってしまった私に、リアは慌てて手を横に振りながら言う。

「はっきり聞いたわけじゃないからわからないよ? でも、戦が起これば、ユウマくんもユウヤくんも戦地に赴くんだろうね」

 リアの言葉が、私の胸に重く響く。

「ま、起きるかどうかわからない話をしても暗くなるだけだし、ユーニはまずは明日のことね」
「そうだね。まあ、連れて行くくらいはいいよね、って」
「どうかしたの?」

 言葉を不自然に止めた私にリアが不思議そうに聞いてくる。
 大変な事を思い出してしまった。
 私にミランダ様の名前を教えてくれたのはラス様。
 なぜ、ラス様に聞くことになったか。
 それは。

「会わせるのはいいけど、ジンさん、彼女の名前もさえも頭の引き出しから追い出しちゃってたみたいなんだけど」
「はあ?」

 リアの困惑の声が室内に響き渡った。
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