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向き合う覚悟ができました

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「おい、ユウマ!」
「で? その話を陛下と王妃様にお話したってわけ? いい相手が見つからないなら、まだ知ってる奴の方がマシって?!」

 ユウヤくんの言葉を遮って、リアが怒りの表情で尋ねる。

「違う! そう意味じゃねぇよ!」
「ひどい」
「ユーニ、違うって」

 否定しようとするユウマくんに、あたしが口を挟むと、ユウヤくんも否定してくる。

 何が違うんだ。

 こんなに純粋な乙女心をかきまわしておいて、結局、それはしたくない結婚を回避するためでした、ですって?!

 もしかして、ユウヤくんもあたしを、なんて、夢見てた自分がバカみたいだ。


「リア、ちゃんと話聞いてくれ、言い方が悪かった」
「聞く話なんてない。あと、結婚だなんだのお話は」

 リアが一度そこで言葉を区切り、間をおいてから、はっきりと言い放った。

「お断りします」

 リアの言葉にユウマくんが固まった。

「ユーニ、先に部屋に戻ってる。ユウマくん、今後の話は改めて」

 リアはソファーから立ち上がると、あたしの方もユウマくんの方も見ずに部屋を出ていく。

「リア! 待てって! リア!」

 そんなリアを我に返ったユウマくんが慌てて追いかけていく。

 ひどいよ。
 ユウマくんはちゃんとリアの事、好きでいてくれてるって思ってたのに。

 あたしもリアを追いかけたいけど、でも今はまず、自分の方をちゃんと終わらせないと。

「ユウヤくん、あたしも申し訳ないけど、そんな結婚したくない」
「ちが、違うって!」

 目尻が熱くなってくる。

 泣くな。
 今は駄目だ。
 泣く事はあとから、いつでもできる。

「大丈夫だよ。いい相手が見つかるまではフリしといてあげる」
「フリじゃなくて、本当にオマエがいいんだよ・・・・・」


 肩をつかんで、ユウヤくんはあたしにしっかり視線を合わせて懇願するように言う。

 もしかしたら、最初にそう言ってくれていたら、了承していたかもしれない。
 だけど、こんな気持ちになってしまってからでは無理だ。  

「ごめんなさい、信じられません」
「ユーニ! オレはほんとに」


 無言でユウヤくんの手を払い、出ていこうとすると、強く腕を引っ張られたかと思うと、、次の瞬間には両手首をおさえられ、ベッドの上に押し倒されていた。

「ユウヤくん?!」
「絶対にはなさねぇから」

 ユウヤくんはそう静かに呟いたあと、強い口調で続けた。

「今まで辛い日々もユウマ達と励ましあってなんとかやってこれたのは、いつかオマエに会うためだけだったんだ!!」
「ユウヤくん・・・・・?」 
「久しぶりに会ったオマエは中身はそのまんまなのに、可愛くなってて焦った。オマエの両親にはオマエがいいなら許すって言ってもらえたけど、オマエに断られるのが怖くて、だから、説明せずに連れてきた」

 ユウヤくんはそこまで言って、下げていた顔を上げて、あたしの瞳に自分の瞳を合わせて続けた。

「オマエに他に好きな奴がいたら諦めようと思った…。でも、やっぱり無理だ。……どうしてもオレからはなれようとするなら、一生ここにとじこめて、オレ以外、誰とも話せないようにしてやる」

 こんなユウヤくんを見たのは初めてだった。
 ユウヤくんの瞳はもはや狂気に近いように見えた。

 何がどうして、ここまであたしに執着しなければならないほど、ユウヤくんを追い詰めてしまったのか・・・・・。
 まあ、過去を聞いているだけにわからないでもない。

 いや、それは辛い過去のたった一部だけで、あたしの想像が及ばないくらいもっと辛いものもあったのかもしれない。

 ユウヤくんだから受け入れてあげようと思えるけど、他の人なら重い、って思うんだろうな。

 そんな風に冷静になってる自分自身に驚く。
 でも、とりあえず今は。

「ユウヤくん、逃げないから、手、はなして」
「嫌だ」
「ユウヤくん、嫌いになるよ」
「それも嫌だ」

 狂気の色は消えて、紅の瞳が揺れる。

 ああ、小さい頃のユウヤくんに戻った。

 あたしが笑うと、ユウヤくんの手がゆるんだので、倒された体制のまま、そっと、彼の頬に自分の手を当てる。


「落ち着いた?」
「・・・・・ちょっとは」

 冷静にもどったのか、彼は顔を少し赤くして身を起こした。

「聞いてもいい?」
「どうぞ」
「ユウマくんの言ってた言い訳っていうのは?」
「ああ、たぶんだけど、あれはアイツが素直にリアちゃんを好きだ、って言えないだけだろ」
「え? それだけ?」
「それだけ」

 う~ん。
 冷静に考えてみれば、そういう意味合いにきこえないかもしれないけど、違う言い方があったよね。
 あたしやユウマくんがいたから告白できなかっただけ?

「あれはユウマくんが悪いよね」
「ん?」
「言い方が悪い」
「そうだよな、オレまで巻き込みやがって」

 笑いながら身を起こしてベッドの上に座ると、ユウヤくんが隣に座って言った。

「伝わったか?」

 む。
 この人、何があっても、あの言葉を口にしたくないのか?
 いや、わかってます、わかってはいますけどね。
 あそこまで言われたら、さすがのあたしでも気付きますよ。

 ただ、それが執着なのか、愛情なのかは判断しづらいとこだけど。

「伝わりましたよ。でも、人は心変わりしますからね。それはあなただけじゃなく、あたしも。今は受け入れてもいい考えですけど、時がたてばお断りする可能性があります」
「ほお? じゃあ、逃げられないようにオレが頑張ればいいんですね、ユーニさん?」
「・・・・・そうですね」

 断られないように、ではなく、逃げられないように、と言うのか。
 それなら断っても一緒じゃない?

 額を合わせて意地悪な笑みを浮かべるユウヤくんに、ついつい笑ってしまう。
 すると、ユウヤくんがあたしの頬に手を当てて言う。

「すげえ、いい匂いするな」
「ああ、オイルを髪とか身体にぬって、マッサージしてもらったりしたからかな」
「・・・・・ユーニさん」
「なに?」
「さっきの体勢に戻りたいと言ったら怒りますか」
「・・・・・?」

 はて。
 さっきの体勢とは。
 !!!!?!

「ユウヤくん?」
「はい」

 あたしは満面の笑みを浮かべて言った。

「駄目に決まってるでしょう」
「だよな~。惜しい事した」
「ふざけないで!」

 笑うユウヤくんに、頬をふくらませる。

 なんでそう、色んな事を一足飛びしようとするのだ。
 だいたい、あの一言さえも言われていないのに。


「リアが心配だし帰る」
「送ってく」
「いりません」
「帰り方わかんのか?」
「・・・・・わかりません」



 立ち上がって部屋を出ていこうとするあたしをユウヤくんが、それはもう嬉しそうに追いかけてくる。

 まだ、好きとは言われてないし、あたしも言ってない。
 勝負はまだこれからなのだ。
 ただ、一歩前進したとは言えると思う。
 この先、ユウヤくんが他の人を好きになった時は、また、その時考えればいい。
 ただ、今はそれよりも気になる事がある。

「リア達、大丈夫かな」
「・・・・・そうだな」

 関係がすすんで、嬉しくて心が弾むはずなのに、なぜか嫌な予感が胸からはなれなかった。 
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