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第11話
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「申し訳ございませんでした」
リグロトル公爵に連れてこられた部屋に入るなり、私とライアン様は2人で声を揃えて言ったあと、リグロトル公爵に向かって深々と頭を下げた。
「……どうして謝る必要がある?」
リグロトル公爵の不思議そうな声を聞いて、私とライアン様はゆっくりと頭を上げた。
お顔を見てみると、リグロトル公爵は本当に不思議そうな顔をされていて、私とライアン様は思わず顔を見合わせた。
怒っていらっしゃらないという事かしら?
それなら、とても助かるけれど…。
「パーティーを台無しにしてしまった事にお詫びを申し上げなければならないと思ったのですが…」
困惑気味にライアン様が言うと、リグロトル公爵は豪快に笑ってから、手を横に振った。
「気にしなくて良い。事前に招待客には余興があると伝えておいただろう? こんな事を言ってはいけないが、あんな事になる事を期待していたんだ」
「期待していた…?」
「ああ。リグロトル公爵家と良好な関係を築いている貴族にフェイロン家をよく思っていない人間が多くてな。今回の事で、すっきりしたと思う人間も多いだろう」
「……フェイロン家はそんなに多くの人に迷惑をかけていたんですか?」
私が尋ねると、リグロトル公爵は頷く。
「婚約者の件に関してもそうだが、事業の取引先の人間に聞くと、支払いが滞っているから、最近は彼の家との取引を止めているらしい。そんな事になっているにも関わらず、悪びれた様子もないし支払う気もないようだ」
困った人達だわ。
踏み倒そうとしているのね…。
呆れ返っていると、リグロトル公爵は続ける。
「彼らも金に関しては諦めているが目障りなようでな。貴族として生きていかれるより、平民として暮らしていけば良いと願う人間が多くなってきた。どうしても視界に入れたくないんだろう」
「……私はそんな所に嫁ごうとしていたんですね…」
リグロトル公爵は私の言葉に頷いた後、口を開く。
「こちらとしては面白い見世物だったので、パーティーを台無しにしただなどと考えなくても良い。どうしても恐縮するというなら、出しに使われたとでも思えばいい」
「彼女に会いたいと言われたのは、こうなる事を予測して…ですか…」
ライアン様は小さく息を吐いた。
そう言われてみれば、このパーティーに来ることにしたのは、リグロトル公爵が私に会ってみたいと言われたからだったわ…。
最初から、こうなる事は予想されていたのね…。
「こちらも本格的に動くのはもう少し先にするので、ミグスター公爵令息、君はそれまでにやらなければいけない事を済ませてくれ」
「承知致しました」
2人の会話の意味がさっぱりわからなくて、キョトンとしていると、ライアン様とリグロトル公爵が私を見て笑う。
そして、ライアン様が言った。
「君にとって悪いようにはしないつもりだよ。ただ、ラング以外の君の家族には痛い目にあってもらわないといけないけれど」
「冷たい言い方かもしれませんが、ラングが不幸にならなければ私は気にしません」
「それなら良い」
ライアン様は頷くと、リグロトル公爵に頭を下げる。
「本日はここで失礼させていただきます。ミュアとブギンズ伯爵令息と共にパーティーを中座させていただく事をお許し下さい」
「もちろんだ。ブギンズ伯爵令息にも改めて詫びを入れさせてもらおう。彼とミュア嬢が一番、辛い思いをしただろうし、彼がこれから一番大変だろうからな」
リグロトル公爵は、そう言って私に謝ってくださった後に続ける。
「シェール嬢のミグスター公爵令息への殺害を示唆する言葉の件だが、パーティー客には明るみになるまでは口を閉ざす様に伝えておく」
「ご配慮に感謝致します」
ライアン様はリグロトル公爵に深々と頭を下げた。
2人の会話の意味が、この時にはわからなかったのだけど、次の日にはわかる事になった。
リグロトル公爵に連れてこられた部屋に入るなり、私とライアン様は2人で声を揃えて言ったあと、リグロトル公爵に向かって深々と頭を下げた。
「……どうして謝る必要がある?」
リグロトル公爵の不思議そうな声を聞いて、私とライアン様はゆっくりと頭を上げた。
お顔を見てみると、リグロトル公爵は本当に不思議そうな顔をされていて、私とライアン様は思わず顔を見合わせた。
怒っていらっしゃらないという事かしら?
それなら、とても助かるけれど…。
「パーティーを台無しにしてしまった事にお詫びを申し上げなければならないと思ったのですが…」
困惑気味にライアン様が言うと、リグロトル公爵は豪快に笑ってから、手を横に振った。
「気にしなくて良い。事前に招待客には余興があると伝えておいただろう? こんな事を言ってはいけないが、あんな事になる事を期待していたんだ」
「期待していた…?」
「ああ。リグロトル公爵家と良好な関係を築いている貴族にフェイロン家をよく思っていない人間が多くてな。今回の事で、すっきりしたと思う人間も多いだろう」
「……フェイロン家はそんなに多くの人に迷惑をかけていたんですか?」
私が尋ねると、リグロトル公爵は頷く。
「婚約者の件に関してもそうだが、事業の取引先の人間に聞くと、支払いが滞っているから、最近は彼の家との取引を止めているらしい。そんな事になっているにも関わらず、悪びれた様子もないし支払う気もないようだ」
困った人達だわ。
踏み倒そうとしているのね…。
呆れ返っていると、リグロトル公爵は続ける。
「彼らも金に関しては諦めているが目障りなようでな。貴族として生きていかれるより、平民として暮らしていけば良いと願う人間が多くなってきた。どうしても視界に入れたくないんだろう」
「……私はそんな所に嫁ごうとしていたんですね…」
リグロトル公爵は私の言葉に頷いた後、口を開く。
「こちらとしては面白い見世物だったので、パーティーを台無しにしただなどと考えなくても良い。どうしても恐縮するというなら、出しに使われたとでも思えばいい」
「彼女に会いたいと言われたのは、こうなる事を予測して…ですか…」
ライアン様は小さく息を吐いた。
そう言われてみれば、このパーティーに来ることにしたのは、リグロトル公爵が私に会ってみたいと言われたからだったわ…。
最初から、こうなる事は予想されていたのね…。
「こちらも本格的に動くのはもう少し先にするので、ミグスター公爵令息、君はそれまでにやらなければいけない事を済ませてくれ」
「承知致しました」
2人の会話の意味がさっぱりわからなくて、キョトンとしていると、ライアン様とリグロトル公爵が私を見て笑う。
そして、ライアン様が言った。
「君にとって悪いようにはしないつもりだよ。ただ、ラング以外の君の家族には痛い目にあってもらわないといけないけれど」
「冷たい言い方かもしれませんが、ラングが不幸にならなければ私は気にしません」
「それなら良い」
ライアン様は頷くと、リグロトル公爵に頭を下げる。
「本日はここで失礼させていただきます。ミュアとブギンズ伯爵令息と共にパーティーを中座させていただく事をお許し下さい」
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「ご配慮に感謝致します」
ライアン様はリグロトル公爵に深々と頭を下げた。
2人の会話の意味が、この時にはわからなかったのだけど、次の日にはわかる事になった。
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