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プロローグ
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「お姉さま! お姉さま! シェールは、お姉さまの事が大好きよ! だから、ずーっとずっと一緒にいてね?」
2つ下の妹、シェールは彼女が5歳の頃から、姉である私、ミュア・ブギンズの事を大好きと言ってくれて、どこに行くにも引っ付いてきていた。
私はブギンズ伯爵家に生まれ、妹と弟が1人ずついる。
幼い頃から普通の伯爵家とは少し違った生活をしていたけれど、他の家の事を知らなかった幼い頃の私は、自分の家がおかしいという事に気が付いてはいなかった。
何がおかしかったと言うと、両親は私の事を可愛がってくれてはいたけれど、妹のシェールの事は辟易してしまうくらいに熱愛していた。
そう、姉と妹に対する両親の愛情に格差があったのだ。
姉の私に比べても、世継ぎである弟はもっと放ったらかしにされる事が多く、両親がシェールを可愛がっている間は、私はメイドと一緒に弟の相手をしていた。
そして、両親の愛情の差を埋めると言わんばかりに、シェールは私の事が本当に好きだった。
昔は透き通るような白い肌にピンク色の頬を持つ、大くて丸い青の瞳を持つシェールをとても可愛く思っていたけれど、成長していくにつれて、シェールからの私への愛情が異常だと思う様になった。
そう思う様になったのは、私が13歳でシェールが11歳になった時の出来事からだった。
シェールが私の部屋に訪ねてくるなり叫んだ。
「お姉さま、婚約者が決まったって本当?」
「本当よ」
「結婚したらどうなるの? どんな人のところに嫁ぐの?」
「伯爵家に嫁ぐの。結婚したら、この家を出ないといけなくなるわね。でも、私と同じ様にシェールもいつかは誰かのお嫁さんになるのよ?」
「嫌よ! 私はお姉さまとずっと一緒にいたい!」
シェールは可愛らしい顔を歪めて頬を膨らませた。
「ごめんね、シェール。私がお嫁に行くまでは、ずっとシェールと一緒だからね」
「そんなの嫌! 私はずっとお姉さまと一緒にいるの! 誰にも邪魔はさせないわ!」
シェールはゆるやかなウェーブがかかったストロベリーブロンドの長い髪を揺らして、何度も首を横に振った。
「シェール、もう決まった事なの。ワガママを言わないでちょうだい?」
「嫌よ、嫌! ねぇ、お姉さま。婚約が駄目になったら、お姉さまはずっとシェールと一緒にいてくれる?」
「ずっとは無理だわ」
「でも、結婚しなければ一緒にいられるわよね?」
この時の私は、シェールがまた聞き分けの悪いを言っている、と苦笑するしかなかった。
シェールの事は可愛い妹だと思っていたけれど、ずっと一緒にいたいかと聞かれると、大人になれば、それぞれの道を進むものだと思っていたから。
泣きながらシェールが去っていく背中を見送りながら、しばらく時間を置いてから、また改めて話をしにいこうと思っていた。
けれど、数時間後、シェールは私の部屋に笑顔でやって来たのだ。
「お姉さま! 調べてみたけれど、あんな人にお姉さまはもったいないわ! だから、お父さまに縁談を断ってもらう様にお願いしておいたから!」
「そんな…、何を言ってるの?」
「心配しないで、お姉さま。私達はずーっと一緒ですからね!」
シェールは、まるで私に褒めてもらえると思っているかの様に笑顔を見せた。
どうして、そんな事を笑顔で言えるの?
もしかして、冗談なのかしら?
この時の私は、呑気な事を考えてしまったけれど残念ながら、冗談ではなかった。
この日、婚約は私の意思なく解消された。
そして、私が新たに婚約者を決めようとする度に、シェールは邪魔をしてきた。
どんなにお願いしても、シェールは私に婚約者を作る事を認めなかった。
両親は姉なのだから妹のために我慢しなさいと、訳のわからない事を言ってきていた。
意味がわからなかった。
こんな事に姉だから、という事は関係するのだろうか?
その頃には弟のラングも物心がついてきたせいか、シェールの私への執着とシェールへの両親の愛は異常だと慰めてくれる様になった。
ラングだけが屋敷内での癒やしだったけれど、そのラングは両親には好かれておらず、後継ぎとしての教育はされていたけれど、全く愛情をかけてもらえなかった。
なぜなら、シェールがラングを嫌っていたからだ。
私を独り占めできないという馬鹿げた理由からだった。
けれど、そんなシェールも私に婚約者が出来る事を認めざるを得なくなった日が来た。
侯爵家の長男が私を見初めたというのだ。
私の住んでいる国には、黒髪を持つ人は少ない。
私は母の遺伝でストレートの黒髪、鳶色の瞳を持っていた。
侯爵家の長男は、私の黒髪に惹かれたらしかった。
さすがの両親も侯爵家からの縁談を断る事が出来なかった為、7年ぶりに私に婚約者が出来た。
婚約者からの誘いを受け、私はお互いを知る為にという理由で、半年ほど侯爵家に滞在する事になったのだけれど、私が侯爵家に滞在すると知ったシェールは、私の婚約者であるロブス・フェイロンに頼み込み、自分も一緒にフェイロン侯爵家に滞在するという話をつけてしまった。
シェールはすれ違った男性が思わず振り返って2度見してしまうほど、美しく育っていた為、婚約者は上手く丸め込まれてしまったようだった。
シェールは楽しげにその話を聞かせてくれた後、こう言った。
「ずっと一緒って言いましたよね?」
幸せそうな笑顔を見せてくれたけれど、私の心の中は恐怖と不安でいっぱいだった。
2つ下の妹、シェールは彼女が5歳の頃から、姉である私、ミュア・ブギンズの事を大好きと言ってくれて、どこに行くにも引っ付いてきていた。
私はブギンズ伯爵家に生まれ、妹と弟が1人ずついる。
幼い頃から普通の伯爵家とは少し違った生活をしていたけれど、他の家の事を知らなかった幼い頃の私は、自分の家がおかしいという事に気が付いてはいなかった。
何がおかしかったと言うと、両親は私の事を可愛がってくれてはいたけれど、妹のシェールの事は辟易してしまうくらいに熱愛していた。
そう、姉と妹に対する両親の愛情に格差があったのだ。
姉の私に比べても、世継ぎである弟はもっと放ったらかしにされる事が多く、両親がシェールを可愛がっている間は、私はメイドと一緒に弟の相手をしていた。
そして、両親の愛情の差を埋めると言わんばかりに、シェールは私の事が本当に好きだった。
昔は透き通るような白い肌にピンク色の頬を持つ、大くて丸い青の瞳を持つシェールをとても可愛く思っていたけれど、成長していくにつれて、シェールからの私への愛情が異常だと思う様になった。
そう思う様になったのは、私が13歳でシェールが11歳になった時の出来事からだった。
シェールが私の部屋に訪ねてくるなり叫んだ。
「お姉さま、婚約者が決まったって本当?」
「本当よ」
「結婚したらどうなるの? どんな人のところに嫁ぐの?」
「伯爵家に嫁ぐの。結婚したら、この家を出ないといけなくなるわね。でも、私と同じ様にシェールもいつかは誰かのお嫁さんになるのよ?」
「嫌よ! 私はお姉さまとずっと一緒にいたい!」
シェールは可愛らしい顔を歪めて頬を膨らませた。
「ごめんね、シェール。私がお嫁に行くまでは、ずっとシェールと一緒だからね」
「そんなの嫌! 私はずっとお姉さまと一緒にいるの! 誰にも邪魔はさせないわ!」
シェールはゆるやかなウェーブがかかったストロベリーブロンドの長い髪を揺らして、何度も首を横に振った。
「シェール、もう決まった事なの。ワガママを言わないでちょうだい?」
「嫌よ、嫌! ねぇ、お姉さま。婚約が駄目になったら、お姉さまはずっとシェールと一緒にいてくれる?」
「ずっとは無理だわ」
「でも、結婚しなければ一緒にいられるわよね?」
この時の私は、シェールがまた聞き分けの悪いを言っている、と苦笑するしかなかった。
シェールの事は可愛い妹だと思っていたけれど、ずっと一緒にいたいかと聞かれると、大人になれば、それぞれの道を進むものだと思っていたから。
泣きながらシェールが去っていく背中を見送りながら、しばらく時間を置いてから、また改めて話をしにいこうと思っていた。
けれど、数時間後、シェールは私の部屋に笑顔でやって来たのだ。
「お姉さま! 調べてみたけれど、あんな人にお姉さまはもったいないわ! だから、お父さまに縁談を断ってもらう様にお願いしておいたから!」
「そんな…、何を言ってるの?」
「心配しないで、お姉さま。私達はずーっと一緒ですからね!」
シェールは、まるで私に褒めてもらえると思っているかの様に笑顔を見せた。
どうして、そんな事を笑顔で言えるの?
もしかして、冗談なのかしら?
この時の私は、呑気な事を考えてしまったけれど残念ながら、冗談ではなかった。
この日、婚約は私の意思なく解消された。
そして、私が新たに婚約者を決めようとする度に、シェールは邪魔をしてきた。
どんなにお願いしても、シェールは私に婚約者を作る事を認めなかった。
両親は姉なのだから妹のために我慢しなさいと、訳のわからない事を言ってきていた。
意味がわからなかった。
こんな事に姉だから、という事は関係するのだろうか?
その頃には弟のラングも物心がついてきたせいか、シェールの私への執着とシェールへの両親の愛は異常だと慰めてくれる様になった。
ラングだけが屋敷内での癒やしだったけれど、そのラングは両親には好かれておらず、後継ぎとしての教育はされていたけれど、全く愛情をかけてもらえなかった。
なぜなら、シェールがラングを嫌っていたからだ。
私を独り占めできないという馬鹿げた理由からだった。
けれど、そんなシェールも私に婚約者が出来る事を認めざるを得なくなった日が来た。
侯爵家の長男が私を見初めたというのだ。
私の住んでいる国には、黒髪を持つ人は少ない。
私は母の遺伝でストレートの黒髪、鳶色の瞳を持っていた。
侯爵家の長男は、私の黒髪に惹かれたらしかった。
さすがの両親も侯爵家からの縁談を断る事が出来なかった為、7年ぶりに私に婚約者が出来た。
婚約者からの誘いを受け、私はお互いを知る為にという理由で、半年ほど侯爵家に滞在する事になったのだけれど、私が侯爵家に滞在すると知ったシェールは、私の婚約者であるロブス・フェイロンに頼み込み、自分も一緒にフェイロン侯爵家に滞在するという話をつけてしまった。
シェールはすれ違った男性が思わず振り返って2度見してしまうほど、美しく育っていた為、婚約者は上手く丸め込まれてしまったようだった。
シェールは楽しげにその話を聞かせてくれた後、こう言った。
「ずっと一緒って言いましたよね?」
幸せそうな笑顔を見せてくれたけれど、私の心の中は恐怖と不安でいっぱいだった。
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