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「お仕置きが必要だなんて思いません! それに何をされても、トーリ様はお姉様に渡しませんから!」

 叫ぶと、ショー様はわたしの腕をつかんで立ち上がらせた。

「もういい。たくさんだ。トーリの何がいいんだよ! どうせ君は脅しているだけと思っているんだろ? 実際に痛い目にあわせてあげるよ」
「トーリ様とわたしを引き離して何があるというんですか!?」

 抵抗しながら叫ぶと、今度はお姉様が笑顔で答える。

「私はあなたの悲しい顔を見れるから満足よ?」
「僕はトーリの悔しがる顔を見れるから満足だよ」

 ショー様も笑顔でそう言うと、わたしを無理やり引きずっていこうとする。

「やりすぎないように気を付けようと思ってたけど、もういいか。言う通りにしないなら殺してしまおう。僕に従わなかった事を後悔すればいい。楽には殺してあげないから、覚悟しておいてくれよ」

 そう言ったショー様の目が恐ろしくて、言葉をなくした時だった。

「恐ろしい弟を持ったものだよ、まったく…」
 
 廊下に続く扉が開かれ、そう話しながら入ってきたのは、髪色と瞳はトーリ様と同じだけれど、ショー様の背を少し高くして、もう少し年齢を重ねたといった顔立ちの男性だった。

「あ、あ、兄上!?」

 ショー様は声を震わせて叫んだ後、慌ててつかんでいた、わたしの腕をはなした。

「アザレア!」

 ハンス様の後から入ってきたのはトーリ様で、今までに見た事のないくらい辛そうな顔をしていたので、彼の名を呼んで彼の方に近付く。

「トーリ様!」
「大丈夫じゃないよな…、本当にごめん」

 トーリ様はわたしの所に駆け寄ってきて頬に触れようとして、寸前で止めた。

「大丈夫です。これくらいは覚悟していましたから…」
「ごめんね、アザレア嬢。トーリが動こうとしたんだけど、まだ早いって止めたんだ。痛かったよね」

 ハンス様が申し訳なさげな顔をしていうので、わたしは首を横に振る。

「いいえ。大丈夫です」

(それくらいしなければ、言い逃れされる可能性もあったわ。さっき、音がしたのは、トーリ様が動こうとしてくれた音だったのね…)

「どうして兄上が…。しかも、トーリまで…。まさか、僕を騙したのか!?」

 ショー様がわたしを睨んできたけれど、トーリ様がわたしを抱き寄せて言う。

「アザレアは何も悪くない。悪いのはお前達だろ」
「そういう事だね。それにしても、マーニャ嬢、この何日間か黙って様子を見ていたら好き勝手やってくれてたね。まあ、それは終わった事にして、今はおいておくけど」

 ハンス様は貼り付けた様な笑みを浮かべたまま、ショー様とお姉様に近付いていく。

「アザレア嬢を拷問するつもりだったのかい?」
「ち、違います! 言う事をきかないから脅そうとしただけです」
「この部屋は当主の許可がなければ入れないはずだけど?」
「そ、それは…、父上には、後から言うつもりで…」

 ショー様はかなり動揺していた。

 トーリ様から聞いた話では、ショー様はトーリ様だけでなく、ハンス様に対しても対抗意識を燃やしていたそうだけど、ハンス様は年上という事もあり、次期公爵としての教育を幼い頃から受けていた為、全く勝てるものがなかったのだそう。

 そのせいか、ショー様はハンス様の事が苦手らしかった。

「父上の許可は下りないと思うし、もし、今から許可が必要というなら、僕に聞いてもらった方がいいね。もちろん、許可なんてしないけど」
「……どういう意味ですか?」

 ショー様が焦った顔で尋ねると、ハンス様は苦笑して答える。

「今日の夜会で重大発表をするって話をしてただろ? ショーは聞いてなかった? さっき、父上が発表したけどさ」
「何の話ですか!?」

 重大発表の話といっても、自分には関係ない話だと思っていたのか、ショー様は急かす様に叫んだ。
 するとハンス様がにっこりと笑って答える。

「今日付で僕がブロット公爵家の後を継いだ。だから、ショー、君はもう公爵令息じゃない。ショーに伯爵の爵位を授けるかどうかについても僕に判断が委ねられた。今のところ、僕はショーには伯爵の爵位なんて授けたくないんだよね。となると、ショーは平民になるのかな?」
「――!?」

 ハンス様の言葉に、ショー様だけでなく、お姉様も声にならない声を上げた。

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