わたしの婚約者の好きな人

風見ゆうみ

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 2人に連れて行かれた場所は地下だった。
 予想はしていたけれど、実際に連れて行かれるとなると、恐怖を感じた。

 わたしの家にもあるけれど、使われているのを見るどころか、近付きもしなかった場所。

「どうして、こんな所に…?」
「助けを求めても気付かれない場所だから。この部屋は滅多に使われないし、使用人も近付かないんだ」

(でしょうね…)

 連れてこられたのは拷問部屋の手前にある一室だった。
 簡易の応接セットがあり、拷問部屋を目の前にして、相手と話す仕様になっているようだった。

(ある意味、脅しにはなると思うけれど悪趣味よね)

 拷問部屋に続く鉄の扉は今は開け放たれていて、扉の向こうは重々しい雰囲気が感じ取れた。

 だから、そちらの方はあまり見ない様にして、ソファーには近付かずに、入ってきた扉の前で立ち止まって、2人に話しかける。

「そんな事を聞いて、このままゆっくりと話をすると思いますか? それに、わたしがいなくなれば誰かが気付きます。すでに気付いているかも」
「大丈夫だよ。使用人を買収して、トーリには嘘の居場所を伝えているから」
「では、トーリ様は使用人の言う通りの場所にわたしを探しに行かれるわけですね?」
「そうだよ。今頃は探しに行ってるかもしれない」
「そんな嘘をついたら、使用人は罰されるのでは?」
「そんな事は知った事じゃないよ」

 ショー様は鼻で笑い、私の腕をつかんで引っ張ると、投げ捨てるようにして、わたしをソファーに座らせた。

「立ち話もなんだからゆっくりしなよ」
「ゆっくりなんて出来るわけありません。ここで何をするおつもりなんですか?」
「大人しくしてくれたら手荒な真似はしない。反抗するようなら、痛い目を見させるかも。あ、もちろん、拷問の器具は使ったりしないよ。間違えて殺しちゃったら大変だから」

 ショー様は恐ろしい事をさらりと言ってのけた。
 何を言われるのかわからなくて、恐怖で体が震えるのがわかった。

(大丈夫。話の内容はわからないけれど、トーリ様はショー様が買収したという使用人になんか騙されない。だって、騙す事なんて出来ないんだから)

 震えてはいるものの、私の目が怯えているものに見えなかったのか、お姉様が不満そうに言う。

「まだ余裕そうね。まあ、いいわ。これから私とショー様が言う事を黙って聞きなさい」
「聞くだけでいいんですね?」
「次にそんな反抗的な態度を取ったら殴るからな」

 お姉様と話していたのに、ショー様がわって入ってきて、身をかがめ、私に顔を近付けてくる。

「思ったよりも冷静でつまらないな」
「気を…張っているだけです…」

 意図していないのに声も震えた。
 けれど、ショー様はそれで満足してくれたのか、わたしから一度身を離したかと思うと、すぐに右横に座り、わたしの肩に腕を回してきた。

「やめて下さい」
「反抗的な態度をしたら殴ると言っただろ!?」

 わたしが腕をはらいのけた瞬間、ショー様はわたしの頬を平手打ちした。
 ジンジンと痛む頬をおさえて、彼を睨みながら言う。

「本題に入って下さい」
「もっとゆっくり話してもいいんだよ?」
「……本題に入っていただけませんか」
 
 お願いすると、お姉様がわたしの左隣に座って言う。

「簡単な事よ。トーリ様はわたしのものだからあきらめなさい。あなたにはビトイがいるわ」
「トーリ様はお姉様のものではありません!」
「これからそうなるの。もう、トーリ様は私の虜よ?」

(嘘つき!)

 そう叫びたいけれど我慢した。

(もう少し、もう少しで終わる…!)

「トーリ様に確認してから」
「トーリ様、トーリ様ってうるさいんだよ!」
 
 ショー様は背中におろしていたわたしの髪をつかんで言う。

「ここにアザレアがいる事は僕達しか知らない。このまま君をここに閉じ込めて、行方不明にしてやってもいいんだよ? さっきも言ったが、この部屋を使っている所を見た事がないから、君が生きている間では、誰も発見してくれないだろうね。まさか、アザレアがこんな所に迷い込むだなんて思わないから」
「わたしが助からなくても、誰かに連れてこられたのだと思われると思いますが?」
 
 言い返すと、ショー様はまた、わたしの頬を叩く。

「僕がそんなミスをするわけないだろ」

 わたしが叩かれたと同時に扉の向こうで音が聞こえたけれど、お姉様もショー様も気付いていない様だった。

 そして、お姉様が口を開く。

「ねえ、ショー様、もういいんじゃないでしょうか?」
「……いいとは?」
「ちょっとくらい脅しても良いと思います」

 そう言って、お姉様が指差したのは、拷問器具のある部屋だった。

「ねえ、アザレア。言う事を聞いてくれないのなら、お仕置きが必要だと思うの。それって間違っていないわよね?」

 お姉様はわたしを見て微笑んだ。
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