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24.5 ショーとトーリの過去(トーリside)

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 それは、トーリが8歳の頃、当たり前だが同じく8歳のショーに好きな人が出来た。

 相手は、トーリに付いてくれている専属メイドでスージーという名前の若くて可愛らしい少女だった。
 トーリから見ても可愛らしいお姉さんであり、見た目だけでなく性格も良かった為、他の使用人からも好かれていて、とても人気があった。

 かといって、トーリの中では彼女は専属メイドにしか過ぎず、恋愛感情を持つ事はなかったし、スージーも自分が仕えている相手、しかも子供相手に敬愛はあれど、恋愛感情など芽生える事がなかった。

 トーリとスージーは主人とメイドとして良い関係を保っていたが、ある日、ショーがスージーを自分の専属メイドにしたいと言い出した。 

「トーリはスージーの事を好きじゃないんだろ? なら、僕にくれてもいいじゃないか!」
「スージーは物じゃない。あげるあげないの問題じゃないんだ。大体、俺が決める事じゃない。そんなにスージーに自分の専属メイドになって欲しいなら、父上に頼めばいいじゃないか。頼みにくいなら、俺も一緒にいってあげるよ」

 この頃のトーリとショーは普通の兄弟だった。
 だから、ショーにはトーリのものを奪いたいだなんて様子は一切なかった。

 ショーとトーリは、父に素直にその事を伝えてみたが、メイドに恋愛感情を持つ事など許せるわけもなく、何より、スージーに婚約者がいる事を知っていた父は、そのお願いを却下した。

 その時に、ショーは父にこう尋ねた。

「トーリがいなければ、スージーは僕のメイドになっていたんですか」
「そんな事はわからない。トーリだからこそ、スージーはメイドになったのかもしれない」

 ブロット公爵にしてみれば、遠回しに諦めろと伝えたつもりだったが、8歳の子供にそれが理解できるわけがなかった。

「トーリがいるから…、トーリのせいで、僕は自分の欲しいものが手に入らないんだ…!」
「俺のせいにするなよ」
「だって、そうだろ! トーリがいなければ、スージーは僕のメイドになっていたのかもしれないのに!」
「そんな事はわからないだろ!」
「絶対にそうだ! トーリは僕の邪魔ばっかりする! トーリなんて生まれてこなければ良かったんだ!」
「いいかげんにしろ、ショー! 嘘でもそんな事を言うな!」

 子供とはいえ、酷い発言だと感じたブロット公爵は、ショーを叱ると、ショーは言い返した。

「嘘なんかじゃない! だって、そうじゃないですか! 今だってトーリがこの世にいなければ、僕は怒られなくて済んだ! トーリのせいで、僕は嫌な思いや損ばかりしてる!」

 ショーはトーリを睨みつけてから、呼び止める声を無視して部屋から出て行った。

「カッとなって言っただけだ。気にするなよ?」

 父にそう言われ、トーリは静かに首を縦に振った。

 そして、自分の部屋に戻ったトーリは、部屋の前で待ってくれていたスージーに尋ねた。

「スージーはショーの専属メイドになりたい?」
「いきなりどうされたんです? こんな事を言ってはショー様には失礼になるかもしれませんが、私はトーリ様の専属メイドである事に誇りを持っておりますから、ショー様の専属メイドになりたいとは思いません」
「そうか…」

 本人がそう言う以上、トーリはこれ以上、何も言うつもりはなかった。
 だから、ショーが自分を見る度に不機嫌そうにして睨んできても気にしない様にしていた。

 いつか機嫌が直ると思っていたから。

 けれど、実際は違った。

 その日から、ショーはトーリが持つものは全て、自分のものだと思う様になった。
 なぜなら、トーリがいなければ自分のものになっていた可能性が高いからだ。

 年を重ねていくにつれ、彼はトーリから奪う事を考え、今に至る。
 ただ、彼が本当に欲していたスージーは、ショーがトーリの婚約者を奪ったとわかった時、トーリが辛い目にあっているのは自分のせいだと言って自主退職し、ブロット公爵家から去っていった。

 その後、婚約者と結婚し、ショーに追われない様にと隣国に逃げ、今は消息不明になっている。

 スージー達を隣国に逃したのは、ブロット公爵なのだが、ショーはそれを知らない。

 そして、ショーの恋心は消えたけれど、トーリへの恨みだけは未だに消える事はなく、トーリのものを奪う事が、ショーの生き甲斐になった。





※今週中に完結予定ですが、延びた場合は申し訳ございません。
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