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怖くて動けなくなってしまっていると、先生がやって来て、わたしとショー様を引き離してくれた。
「別に喧嘩していたわけじゃないですよ。元婚約者なんだから、話すくらいするでしょう」
ショー様は先生から注意されると、そう言って、この場から離れ、待たせていた馬車に乗って去っていかれた。
(今までは、わたしの事なんて見向きもしなかったのに、トーリ様の感情は関係なく、トーリ様の婚約者だから奪おうだなんてどうかしてるわ。そこまで、トーリ様のものを奪おうとする感情が理解できない…)
「大丈夫だったか?」
トーリ様はまだ学園内にいたみたいで、焦った顔で私の所へやって来てくれた。
「大丈夫です。先生が来てくれたので…」
「なら良かった」
「あ、の…」
「ん?」
ショー様の話もそうだけれど、オサヤ様の話をしておきたくて、ここで話をしても良いか迷っていると、トーリ様が促してくれる。
「ショーに何を言われたのか気になるし、話をしてくれると有り難い。他にも何かあるなら言ってくれ」
「えっと…、いいんですか?」
「ああ。何か気になる事があるんだろ? もう、俺と君が仲良い仲良くないは関係なくなってきた感じがするし、あまり無関心すぎてもおかしいだろ」
「……ありがとうございます」
「こちらこそ、巻き込んで悪い」
トーリ様はわたしが嫌な思いをするのは、自分のせいだと思っていらっしゃるけれど、わたしはそうは思っていなかった。
(元々はお姉様とビトイの件があったからで、ショー様とお姉様を会わせようとしたのは、クボン候爵だから、トーリ様が謝られる事ではないって、何度か言ってるんだけど気にされてしまうのよね…。それだけ、トーリ様も今までの事が心の傷になっているのかもしれないけれど…)
不躾に見つめてしまったからか、トーリ様が少しだけ焦った顔で聞いてくる。
「どうかしたのか? ショーに何を言われたんだ? 顔色が悪いぞ?」
「申し訳ございません。ショー様の事もそうなんですが、オサヤ様から言われた事が気になりまして、その話もしてもよろしいでしょうか?」
「ノーマン卿…?」
トーリ様は訝しげな表情で聞き返してきた後、わたしをブロット公爵夫人の行きつけだという、カフェに誘ってくれた。
家まで送ってくださるというので、わたしの家の馬車は帰らせて、トーリ様の家の馬車でカフェに向かった。
お店の人は、トーリ様を見て、恭しく頭を下げてから、わたしを見て一瞬、驚いた顔をされたけれど、すぐに笑顔になって歓迎してくれた。
貴族向けのカフェだからか、個室まであって、わたし達はそちらに案内された。
カフェのメニューを見て、何を頼もうか迷っていると、さっきまでの恐怖もなくなってしまった。
(思った以上にわたしったら単純な性格だわ)
そう思いつつも、甘い物の誘惑に負けて、ケーキを食べる事に決めた。
「ビトイといったか…。彼は何を考えてるんだろうな…」
注文してから、オサヤ様に言われた事を話すと、トーリ様は大きく息を吐いた。
「わかりません。わたしと上手くいけば、ミノン家に養ってもらえると思っているのかもしれません」
「ノーマン家では養ってもらえないのか?」
「オサヤ様があとを継げばどうなるかわかりませんが、そうならなかった場合、彼は屋敷から追い出される可能性があります」
「……そういう事か…。親戚の誰かに継がせる案が出ているのかもしれないな」
「それに彼は、わたしとの婚約破棄がきっかけで、誰とも結婚できない状態です。となると…」
「君に責任を取れと言いたいのか。ふざけた奴だな」
トーリ様がまた、大きく息を吐く。
そんな彼にお願いする。
「ビトイの事は、わたしが無視をすれば良いだけです。ただ、他に気になる事があって…」
俯いて言葉を止めると、トーリ様がテーブルに身を乗り出して聞いてくる。
「どうした?」
「お姉様がトーリ様を誘惑するかもしれません…」
「……」
「そうなった時、トーリ様がお姉様の事を好きになる事をわたしは止められません」
「俺がマーニャ嬢を好きになる? ありえないだろう。君から彼女の話を聞いているし、父やクボン候爵からも聞いてる。俺にとっては嫌な話しかない。それから…」
トーリ様はそこで言葉を止めた。
すると、俯いていたわたしの頬に大きな手が触れた。
「――!?」
驚いて顔を上げると、トーリ様はわたしの頬から手を離した。
「勝手に触ってすまない。あと、身を乗り出すような真似も」
「いっ、いえ、大丈夫です!」
首を何度も横に振ると、トーリ様は席に座り直してから言う。
「こっちも後手後手で動くつもりはない。だから、君にも協力してもらいたい。もちろん、君の身に危険が及ばない様にするつもりだ」
「……何を考えておられるのですか?」
尋ねると、トーリ様はこれからの事についての話を教えてくれたのだった。
「別に喧嘩していたわけじゃないですよ。元婚約者なんだから、話すくらいするでしょう」
ショー様は先生から注意されると、そう言って、この場から離れ、待たせていた馬車に乗って去っていかれた。
(今までは、わたしの事なんて見向きもしなかったのに、トーリ様の感情は関係なく、トーリ様の婚約者だから奪おうだなんてどうかしてるわ。そこまで、トーリ様のものを奪おうとする感情が理解できない…)
「大丈夫だったか?」
トーリ様はまだ学園内にいたみたいで、焦った顔で私の所へやって来てくれた。
「大丈夫です。先生が来てくれたので…」
「なら良かった」
「あ、の…」
「ん?」
ショー様の話もそうだけれど、オサヤ様の話をしておきたくて、ここで話をしても良いか迷っていると、トーリ様が促してくれる。
「ショーに何を言われたのか気になるし、話をしてくれると有り難い。他にも何かあるなら言ってくれ」
「えっと…、いいんですか?」
「ああ。何か気になる事があるんだろ? もう、俺と君が仲良い仲良くないは関係なくなってきた感じがするし、あまり無関心すぎてもおかしいだろ」
「……ありがとうございます」
「こちらこそ、巻き込んで悪い」
トーリ様はわたしが嫌な思いをするのは、自分のせいだと思っていらっしゃるけれど、わたしはそうは思っていなかった。
(元々はお姉様とビトイの件があったからで、ショー様とお姉様を会わせようとしたのは、クボン候爵だから、トーリ様が謝られる事ではないって、何度か言ってるんだけど気にされてしまうのよね…。それだけ、トーリ様も今までの事が心の傷になっているのかもしれないけれど…)
不躾に見つめてしまったからか、トーリ様が少しだけ焦った顔で聞いてくる。
「どうかしたのか? ショーに何を言われたんだ? 顔色が悪いぞ?」
「申し訳ございません。ショー様の事もそうなんですが、オサヤ様から言われた事が気になりまして、その話もしてもよろしいでしょうか?」
「ノーマン卿…?」
トーリ様は訝しげな表情で聞き返してきた後、わたしをブロット公爵夫人の行きつけだという、カフェに誘ってくれた。
家まで送ってくださるというので、わたしの家の馬車は帰らせて、トーリ様の家の馬車でカフェに向かった。
お店の人は、トーリ様を見て、恭しく頭を下げてから、わたしを見て一瞬、驚いた顔をされたけれど、すぐに笑顔になって歓迎してくれた。
貴族向けのカフェだからか、個室まであって、わたし達はそちらに案内された。
カフェのメニューを見て、何を頼もうか迷っていると、さっきまでの恐怖もなくなってしまった。
(思った以上にわたしったら単純な性格だわ)
そう思いつつも、甘い物の誘惑に負けて、ケーキを食べる事に決めた。
「ビトイといったか…。彼は何を考えてるんだろうな…」
注文してから、オサヤ様に言われた事を話すと、トーリ様は大きく息を吐いた。
「わかりません。わたしと上手くいけば、ミノン家に養ってもらえると思っているのかもしれません」
「ノーマン家では養ってもらえないのか?」
「オサヤ様があとを継げばどうなるかわかりませんが、そうならなかった場合、彼は屋敷から追い出される可能性があります」
「……そういう事か…。親戚の誰かに継がせる案が出ているのかもしれないな」
「それに彼は、わたしとの婚約破棄がきっかけで、誰とも結婚できない状態です。となると…」
「君に責任を取れと言いたいのか。ふざけた奴だな」
トーリ様がまた、大きく息を吐く。
そんな彼にお願いする。
「ビトイの事は、わたしが無視をすれば良いだけです。ただ、他に気になる事があって…」
俯いて言葉を止めると、トーリ様がテーブルに身を乗り出して聞いてくる。
「どうした?」
「お姉様がトーリ様を誘惑するかもしれません…」
「……」
「そうなった時、トーリ様がお姉様の事を好きになる事をわたしは止められません」
「俺がマーニャ嬢を好きになる? ありえないだろう。君から彼女の話を聞いているし、父やクボン候爵からも聞いてる。俺にとっては嫌な話しかない。それから…」
トーリ様はそこで言葉を止めた。
すると、俯いていたわたしの頬に大きな手が触れた。
「――!?」
驚いて顔を上げると、トーリ様はわたしの頬から手を離した。
「勝手に触ってすまない。あと、身を乗り出すような真似も」
「いっ、いえ、大丈夫です!」
首を何度も横に振ると、トーリ様は席に座り直してから言う。
「こっちも後手後手で動くつもりはない。だから、君にも協力してもらいたい。もちろん、君の身に危険が及ばない様にするつもりだ」
「……何を考えておられるのですか?」
尋ねると、トーリ様はこれからの事についての話を教えてくれたのだった。
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