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お姉様がビトイの家に行ってから、10日が経った。
話を聞いたところによると、ノーマン伯爵夫人とは上手くやっているようで、仕事自体は失敗はあるけれど、何とかこなしているとの事だった。
私達が考えていたよりも、お姉様はキトロフ伯爵との離婚がこたえているらしく、今は態度は大人しくなっているのだそう。
(お姉様は昔から要領が良かったし、やろうと思えば侍女の仕事だって簡単に出来ちゃうんでしょうね)
キトロフ伯爵は離婚してから眼鏡をかけはじめたところ、一部の眼鏡男子好きの令嬢から人気が出て、新しい奥様選びも困ることはなさそうだった。
元々は眼鏡をかけたかったそうなのだけど、お姉様が好みじゃないといったからかけていなかったらしい。
(キトロフ伯爵にはお姉様よりも、もっと良い人がいるはずだわ。素敵な方と出会ってほしい)
順調にいっている様に思えたけれど、お姉様の件で困った事も起きていた。
それはビトイとオサヤ様の事だった。
あのパーティー後に家に帰ったオサヤ様は、素直にノーマン伯爵に、わたしにビトイを許す様にお願いした話をしたらしく、ノーマン伯爵からこっぴどく叱られた様だった。
もちろん、わたしの元にもノーマン伯爵から謝罪の連絡があった。
後継者としての教育を厳しくしすぎたのかもしれないと反省され、社交場で出会う事があっても、二度とあの様な馬鹿な事を言わせないと約束してくださった。
かといって、オサヤ様の性格が簡単に直るわけもなく、オサヤ様は今度はお姉様に文句を言っているらしい。
どんな文句かというと、浮気なんかせずに、最初からビトイと結婚していれば良かったのだとか…。
(ビトイだって本当はそれを望んでいたはずだものね。
そうならなかったのは、キトロフ伯爵がお姉様との婚約を望んだから…)
ビトイはお姉様に遊ばれたのだと気が付き、今は、お姉様に見向きもしないという。
それは、わたしにとって困った事だった。
わたしはどちらかというと気が弱く、お姉様は気が強い。
私以外には姉御肌のお姉様と人前では何も言わずに俯く事の多かった私では、お姉様の事を好きになる男性が多くてもおかしくはない。
もし、お姉様がビトイの家を追い出されたら、婚約者である、ショー様の元に行く事になっている。
そうなると、ショー様とお姉様の距離が近付く。
という事は、お姉様とトーリ様の距離も同じ屋敷に住む事になるのだから、近付くという事になる。
(ただ、純粋な気持ちで、お姉様がトーリ様を好きになってしまったら…? そして、トーリ様もお姉様を好きになってしまったら……)
放課後、馬車の乗降場で私の家の馬車が来るのを待っている間に、そんな事を考えていると、オサヤ様が近付いてきた。
学年は違うけれど、彼も同じ学園に通っているから、偶然、出会う事があってもおかしくはなかった。
「先日は申し訳ございませんでした」
「お気になさらないで下さい。もう二度とあの様な事を言わないでくだされば良いんです」
笑顔で言うと、オサヤ様は目を泳がせた。
(何なの? また、何か言うつもりなの? もし、また、前の様な事を頼んできたら、また、ノーマン伯爵に抗議しないといけなくなるわ…)
「オサヤ様、もう、よろしいでしょうか?」
彼が変な事を言い出す前に話を切り上げようとすると、彼は叫ぶ。
「すいません! 本当にこれは伝言だけです! お兄様はただ純粋にアザレア様を愛しているんだそうです! トーリ様がマーニャ様に奪われて、どうしようもなくなったら、僕の所に来てくれるのを待ってると…」
今まさに考えていた不安だったので、オサヤ様の言葉を聞いて、余計に現実味を帯びてしまった気がした。
「では、失礼します!」
わたしが何か言葉を返す前に、オサヤ様は一礼すると、待たせていた馬車に向かって走っていく。
(……大丈夫。トーリ様はお姉様に引っかかったりしない。今の状態であれば、お姉様とトーリ様が接触する機会なんてないもの。まだ、大丈夫…。それまでに、もっとわたしとトーリ様が仲良くなれれば…)
「アザレア」
背後からかけられた声は、トーリ様のものによく似ていた。
だから、緊張感をといてから振り返ると、すぐに後悔した。
トーリ様の声真似をしたショー様が笑顔で話しかけてくる。
「声を低くすると、トーリの声に似ているらしいね」
そう言って、ショー様は笑顔を作ったつもりなのでしょうけれど、目が全く笑えていなかった。
(……一体、何の用かしら…?)
まだ、公にはされていないけれど、ショー様はお姉様の婚約者になったので、もう、わたしの婚約者ではない。
それに、あの時から、わたしはショー様に話しかけるのをやめたから、あまり接点もなくなった。
(それが気に食わなかった…?)
何も言えずにショー様を見つめていると、彼は近付いてくると、耳元で囁いてくる。
「今の状態だと、僕は君にフラレた事になる。そんな事は許せない」
「何を言ってらっしゃるんですか…?」
ショー様は、わたしの顎を掴んでから答える。
「わからないか? トーリの婚約者は誰であろうと僕のものだ。トーリが幸せになるなんて許せない」
わたしを見つめるショー様の目がギラギラとしていて、恐怖を感じたわたしは、何も言葉が発せなくなってしまった。
※次話はマーニャ視点です。
手首について温かいコメントをいただき、本当にありがとうございました。
話を聞いたところによると、ノーマン伯爵夫人とは上手くやっているようで、仕事自体は失敗はあるけれど、何とかこなしているとの事だった。
私達が考えていたよりも、お姉様はキトロフ伯爵との離婚がこたえているらしく、今は態度は大人しくなっているのだそう。
(お姉様は昔から要領が良かったし、やろうと思えば侍女の仕事だって簡単に出来ちゃうんでしょうね)
キトロフ伯爵は離婚してから眼鏡をかけはじめたところ、一部の眼鏡男子好きの令嬢から人気が出て、新しい奥様選びも困ることはなさそうだった。
元々は眼鏡をかけたかったそうなのだけど、お姉様が好みじゃないといったからかけていなかったらしい。
(キトロフ伯爵にはお姉様よりも、もっと良い人がいるはずだわ。素敵な方と出会ってほしい)
順調にいっている様に思えたけれど、お姉様の件で困った事も起きていた。
それはビトイとオサヤ様の事だった。
あのパーティー後に家に帰ったオサヤ様は、素直にノーマン伯爵に、わたしにビトイを許す様にお願いした話をしたらしく、ノーマン伯爵からこっぴどく叱られた様だった。
もちろん、わたしの元にもノーマン伯爵から謝罪の連絡があった。
後継者としての教育を厳しくしすぎたのかもしれないと反省され、社交場で出会う事があっても、二度とあの様な馬鹿な事を言わせないと約束してくださった。
かといって、オサヤ様の性格が簡単に直るわけもなく、オサヤ様は今度はお姉様に文句を言っているらしい。
どんな文句かというと、浮気なんかせずに、最初からビトイと結婚していれば良かったのだとか…。
(ビトイだって本当はそれを望んでいたはずだものね。
そうならなかったのは、キトロフ伯爵がお姉様との婚約を望んだから…)
ビトイはお姉様に遊ばれたのだと気が付き、今は、お姉様に見向きもしないという。
それは、わたしにとって困った事だった。
わたしはどちらかというと気が弱く、お姉様は気が強い。
私以外には姉御肌のお姉様と人前では何も言わずに俯く事の多かった私では、お姉様の事を好きになる男性が多くてもおかしくはない。
もし、お姉様がビトイの家を追い出されたら、婚約者である、ショー様の元に行く事になっている。
そうなると、ショー様とお姉様の距離が近付く。
という事は、お姉様とトーリ様の距離も同じ屋敷に住む事になるのだから、近付くという事になる。
(ただ、純粋な気持ちで、お姉様がトーリ様を好きになってしまったら…? そして、トーリ様もお姉様を好きになってしまったら……)
放課後、馬車の乗降場で私の家の馬車が来るのを待っている間に、そんな事を考えていると、オサヤ様が近付いてきた。
学年は違うけれど、彼も同じ学園に通っているから、偶然、出会う事があってもおかしくはなかった。
「先日は申し訳ございませんでした」
「お気になさらないで下さい。もう二度とあの様な事を言わないでくだされば良いんです」
笑顔で言うと、オサヤ様は目を泳がせた。
(何なの? また、何か言うつもりなの? もし、また、前の様な事を頼んできたら、また、ノーマン伯爵に抗議しないといけなくなるわ…)
「オサヤ様、もう、よろしいでしょうか?」
彼が変な事を言い出す前に話を切り上げようとすると、彼は叫ぶ。
「すいません! 本当にこれは伝言だけです! お兄様はただ純粋にアザレア様を愛しているんだそうです! トーリ様がマーニャ様に奪われて、どうしようもなくなったら、僕の所に来てくれるのを待ってると…」
今まさに考えていた不安だったので、オサヤ様の言葉を聞いて、余計に現実味を帯びてしまった気がした。
「では、失礼します!」
わたしが何か言葉を返す前に、オサヤ様は一礼すると、待たせていた馬車に向かって走っていく。
(……大丈夫。トーリ様はお姉様に引っかかったりしない。今の状態であれば、お姉様とトーリ様が接触する機会なんてないもの。まだ、大丈夫…。それまでに、もっとわたしとトーリ様が仲良くなれれば…)
「アザレア」
背後からかけられた声は、トーリ様のものによく似ていた。
だから、緊張感をといてから振り返ると、すぐに後悔した。
トーリ様の声真似をしたショー様が笑顔で話しかけてくる。
「声を低くすると、トーリの声に似ているらしいね」
そう言って、ショー様は笑顔を作ったつもりなのでしょうけれど、目が全く笑えていなかった。
(……一体、何の用かしら…?)
まだ、公にはされていないけれど、ショー様はお姉様の婚約者になったので、もう、わたしの婚約者ではない。
それに、あの時から、わたしはショー様に話しかけるのをやめたから、あまり接点もなくなった。
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「何を言ってらっしゃるんですか…?」
ショー様は、わたしの顎を掴んでから答える。
「わからないか? トーリの婚約者は誰であろうと僕のものだ。トーリが幸せになるなんて許せない」
わたしを見つめるショー様の目がギラギラとしていて、恐怖を感じたわたしは、何も言葉が発せなくなってしまった。
※次話はマーニャ視点です。
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