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20.5 (マーニャside)
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※プチざまぁ回ですが、マーニャの話は苦手という方は読み飛ばしくださいませ。
2日後の朝、マーニャは応接室に呼び出された。
彼女がソファーに座るなり、先に座って待っていたレイジが指を2つ立てて言った。
「2つ案を用意したんだが…」
「……どうしても離婚なのですか? 私は本当にあなたの事を…」
「もう諦めろ。離婚は決定事項だ。これ以上はその話題については相手にしない」
(血も涙もない人ね! この2日間は部屋から出ずに、食事だってほとんどとっていないのに!)
反省しているふりをして、マーニャはこの2日間、部屋から出る事もなく、「食欲がない」と言った為に、普通の食事をとる事もできず、メイドが気を使って持ってきてくれたスープや飲み物しか口にしていない。
彼女にしてみれば、誠意を見せたつもりだった。
「あなたは冷たい人なのですね…。こんなに私が謝っているのに…」
「悪いと思うなら離婚をしてくれるはずだ」
そう言った後、大きく息を吐いてから、レイジは改めて口を開く。
「1つ目はノーマン家で伯爵夫人の侍女として働く。2つ目はショー様の婚約者になる」
「ショー様の婚約者がいいです!」
「それはどうしてだ?」
「どうしてって…、だって、私は伯爵令嬢だったんです。侍女の仕事なんてできません」
「今、働いてくれているメイドや侍女だって、最初から仕事が出来ていたわけではないと思うがな」
「私にはそんな仕事は似合いません」
「似合う、似合わないの話をしているんじゃない」
厳しい口調で言われ、マーニャは口を閉ざした。
「本当に君は無能だな」
「む…、無能…?」
「そうだろう? 妻としての役目も果たせず浮気をするし、侍女の仕事もやってみる前からできないという。君には何が出来るんだ?」
「そこまで言う必要はないじゃないですか!」
「そうだな。無能という言葉は言い過ぎか。悪知恵は働くものな」
マーニャはレイジの態度に苛立ちを覚え、立ち上がって叫ぶ。
「離婚します! あなたみたいな冷たい男よりもショー様の方が素敵だわ!」
「そうか」
レイジが横に置いていた契約書と離婚届を手に取り、話しだそうとした時だった。
「ごちゃごちゃ言ってないで渡して下さい! そんなに離婚がお望みなら別れてさしあげます! ショー様と結婚したら、あなたの事を後悔させてあげますから!」
この時のマーニャは頭に血がのぼっており、アザレアの事はどうでも良くなっていた。
マーニャはレイジの手から書類を奪い取ると、そう叫ひ、デーブルの上に置いてあったペンを手に取った。
「出来るものならやってみろ」
レイジはマーニャが内容も確認せずに3枚の紙にサインするのを見て笑顔になった。
(どうして笑うのよ、気持ち悪い!)
「書きました!」
マーニャが3枚の紙を差し出すと、レイジはそれを受け取り、なぜか念押ししてきた。
「一応、確認しておいてあげよう。本当にこれでいいんだな?」
「ええ。かまいません! だから、ショー様に私を迎えに来る様に連絡していただけませんか!?」
「どうしてだ?」
「住み込みの家を用意してくれるんでしょう? なら、ショー様の家に行けってことなんじゃないんですか?」
「そのつもりだったが、君はサインをしてしまったからな」
「……サイン? しましたけど? だから、早く呼んでください!」
マーニャがレイジを睨むと、彼は1枚の紙を取り、トントンと左手の人差し指で紙を叩きながら言う。
「これは契約書で君はサインをした。という事はこの契約を守ってもらわないといけない」
「……どういう事ですか…? 離婚に関する書類じゃなかったんですか?」
マーニャが呆然とした様子で聞き返すと、レイジは苦笑する。
「離婚届にもサインはしてくれたから、離婚に関係するものではあるという事は確かだ。というか、3枚も離婚届なんて必要ないだろう? 考えたらわかる」
「ちょっと待って下さい! じゃあ、私がサインしたものは……?」
「ショー様の婚約者になると承諾したものと、ノーマン伯爵夫人の侍女になると承諾したものだ」
「ちょ、ちょっと待ってください! そんなの聞いていません!」
「話をする前に君が僕から奪って、何も言われていないのに署名したんだ。それに僕は念の為、確認もした」
レイジの冷たい笑みに、マーニャは心から恐怖を覚えた。
(この人、思った以上に私の事を怒ってる。もしかして、それだけ、私の事を好きだったって事…?)
この時のマーニャの考えは間違っていなかった。
彼女を信じて愛していたからこそ、信じたかったし、父の言う世間体というものを盾にして、レイジは密かに離婚をしない道も考えていたのだった。
けれど、怪我をした自分の心配よりも自分の事ばかり考えているマーニャに気付いたレイジは、本当に裏切られたのだと考え、自分の気持ちを切り捨てる事にしたのだ。
それに気が付いたマーニャは慌てて頭を下げる。
「あの…、レイジ様…、やっぱり…、私は、やり直したいです! ですから、チャンスを下さい! お願いします!」
「……話はこれで終わりだ。ノーマン伯爵家とブロット公爵家には連絡を入れておく。ただ、ショー様との婚約は、少し先の話になるだろうけどな。離婚してすぐに婚約者が見つかるだなんて不自然だろうから」
「待って下さい、レイジ様! やっと気付いたんです! 私はあなたが大事だって事を…! ですから…!」
書類を持って部屋から出ていこうとしたレイジを必死に引き止めようとしたマーニャだったが、レイジに一睨みされて動きを止めた。
「……レイジ様…っ…」
「今までありがとう。元気でな」
レイジは、表情を柔らかくして言った後、部屋を出ていった。
「……そんな…、そんな…、嫌よ…。どうして…、どうして、こんな事になるのよっ!」
マーニャは、自分が逃した魚が大きかった事に気付き、残された部屋で泣き叫んだ。
2日後の朝、マーニャは応接室に呼び出された。
彼女がソファーに座るなり、先に座って待っていたレイジが指を2つ立てて言った。
「2つ案を用意したんだが…」
「……どうしても離婚なのですか? 私は本当にあなたの事を…」
「もう諦めろ。離婚は決定事項だ。これ以上はその話題については相手にしない」
(血も涙もない人ね! この2日間は部屋から出ずに、食事だってほとんどとっていないのに!)
反省しているふりをして、マーニャはこの2日間、部屋から出る事もなく、「食欲がない」と言った為に、普通の食事をとる事もできず、メイドが気を使って持ってきてくれたスープや飲み物しか口にしていない。
彼女にしてみれば、誠意を見せたつもりだった。
「あなたは冷たい人なのですね…。こんなに私が謝っているのに…」
「悪いと思うなら離婚をしてくれるはずだ」
そう言った後、大きく息を吐いてから、レイジは改めて口を開く。
「1つ目はノーマン家で伯爵夫人の侍女として働く。2つ目はショー様の婚約者になる」
「ショー様の婚約者がいいです!」
「それはどうしてだ?」
「どうしてって…、だって、私は伯爵令嬢だったんです。侍女の仕事なんてできません」
「今、働いてくれているメイドや侍女だって、最初から仕事が出来ていたわけではないと思うがな」
「私にはそんな仕事は似合いません」
「似合う、似合わないの話をしているんじゃない」
厳しい口調で言われ、マーニャは口を閉ざした。
「本当に君は無能だな」
「む…、無能…?」
「そうだろう? 妻としての役目も果たせず浮気をするし、侍女の仕事もやってみる前からできないという。君には何が出来るんだ?」
「そこまで言う必要はないじゃないですか!」
「そうだな。無能という言葉は言い過ぎか。悪知恵は働くものな」
マーニャはレイジの態度に苛立ちを覚え、立ち上がって叫ぶ。
「離婚します! あなたみたいな冷たい男よりもショー様の方が素敵だわ!」
「そうか」
レイジが横に置いていた契約書と離婚届を手に取り、話しだそうとした時だった。
「ごちゃごちゃ言ってないで渡して下さい! そんなに離婚がお望みなら別れてさしあげます! ショー様と結婚したら、あなたの事を後悔させてあげますから!」
この時のマーニャは頭に血がのぼっており、アザレアの事はどうでも良くなっていた。
マーニャはレイジの手から書類を奪い取ると、そう叫ひ、デーブルの上に置いてあったペンを手に取った。
「出来るものならやってみろ」
レイジはマーニャが内容も確認せずに3枚の紙にサインするのを見て笑顔になった。
(どうして笑うのよ、気持ち悪い!)
「書きました!」
マーニャが3枚の紙を差し出すと、レイジはそれを受け取り、なぜか念押ししてきた。
「一応、確認しておいてあげよう。本当にこれでいいんだな?」
「ええ。かまいません! だから、ショー様に私を迎えに来る様に連絡していただけませんか!?」
「どうしてだ?」
「住み込みの家を用意してくれるんでしょう? なら、ショー様の家に行けってことなんじゃないんですか?」
「そのつもりだったが、君はサインをしてしまったからな」
「……サイン? しましたけど? だから、早く呼んでください!」
マーニャがレイジを睨むと、彼は1枚の紙を取り、トントンと左手の人差し指で紙を叩きながら言う。
「これは契約書で君はサインをした。という事はこの契約を守ってもらわないといけない」
「……どういう事ですか…? 離婚に関する書類じゃなかったんですか?」
マーニャが呆然とした様子で聞き返すと、レイジは苦笑する。
「離婚届にもサインはしてくれたから、離婚に関係するものではあるという事は確かだ。というか、3枚も離婚届なんて必要ないだろう? 考えたらわかる」
「ちょっと待って下さい! じゃあ、私がサインしたものは……?」
「ショー様の婚約者になると承諾したものと、ノーマン伯爵夫人の侍女になると承諾したものだ」
「ちょ、ちょっと待ってください! そんなの聞いていません!」
「話をする前に君が僕から奪って、何も言われていないのに署名したんだ。それに僕は念の為、確認もした」
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(この人、思った以上に私の事を怒ってる。もしかして、それだけ、私の事を好きだったって事…?)
この時のマーニャの考えは間違っていなかった。
彼女を信じて愛していたからこそ、信じたかったし、父の言う世間体というものを盾にして、レイジは密かに離婚をしない道も考えていたのだった。
けれど、怪我をした自分の心配よりも自分の事ばかり考えているマーニャに気付いたレイジは、本当に裏切られたのだと考え、自分の気持ちを切り捨てる事にしたのだ。
それに気が付いたマーニャは慌てて頭を下げる。
「あの…、レイジ様…、やっぱり…、私は、やり直したいです! ですから、チャンスを下さい! お願いします!」
「……話はこれで終わりだ。ノーマン伯爵家とブロット公爵家には連絡を入れておく。ただ、ショー様との婚約は、少し先の話になるだろうけどな。離婚してすぐに婚約者が見つかるだなんて不自然だろうから」
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「……レイジ様…っ…」
「今までありがとう。元気でな」
レイジは、表情を柔らかくして言った後、部屋を出ていった。
「……そんな…、そんな…、嫌よ…。どうして…、どうして、こんな事になるのよっ!」
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