23 / 45
17
しおりを挟む
ざわざわと会場内が騒がしくなる。
お姉様がこんなに焦っているのを見るなんて初めて見る様な気がする。
「何も…、言ってません…」
お姉様は必死に言い訳を考えている様だけれど、そんな暇を与えてあげる程、わたしは優しくなかった。
「わたしとお義兄様のやり取りは、ごく一般的な会話です。会えて嬉しいという言葉は、他の方にも言います。それが挨拶ですから。もちろん、お義兄様に会えて嬉しいのは確かですけど」
「そうだな。僕もそう思う。マーニャ、君が会った人、もしくは目上の人間に対して、会えて嬉しいという挨拶をしないんだとは知らなかった。この国ではそれがマナーなんだがな」
お義兄様が冷たく言い放つと、お姉様は言い返せないのか唇を震わせ、なぜかわたしの方を睨んだ。
今のわたしは、それくらいでは怯んだりしない。
「お姉様、ショー様とまさか、恋愛関係だったりしませんよね?」
「……ないわよ」
お姉様が答えると、お義兄様がすかさず尋ねる。
「迫られたら、あの時みたいに、と言ってなかったか? あの時とはどの時か聞かせてほしいが」
「いえ…、その…、あのっ…」
お姉様はしどろもどろになった後に叫ぶ。
(こんな所であの時の事なんて言えないわよね?)
「レイジ様! その話は家に帰ってからにしてください」
「え? 何だって?」
「家に帰ってから話します!」
「………」
お義兄様がお姉様を冷たい目で見つめる。
お姉様はびくりと体を震わせた後、頭を下げた。
「お願いします……」
「わかった」
お義兄様は静かに頷くと、わたしに向かって言う。
「君と話しているのを見て、マーニャはなぜか拗ねてしまったようだ。今日はここで失礼する。これ以上、主催者に迷惑をかけてもいけないしな」
「そうですわね。……お姉様、なぜ、お義兄様が厳しい態度を取られているのか、ちゃんと理解してくださいね」
「い、言われなくても理解しているわよ!」
お姉様の表情は険しくて、お姉様の思い通りに事が進んでいないという事がよくわかった。
(本当は今日のパーティーでショー様と仲睦まじいところを、お義兄様に隠れて、わたしに見せたかったんでしょうけど、残念でした。それをしてもらうのは、お義兄様と別れた後でも出来るから)
そこまで考えて、わたしは自分の性格が悪くなっている事に気が付いた。
(今まではこんな事を考えた事なんてなかったのに…。強くなったと思う様にした方がいいのかしら? それにやり遂げるなら、ある程度、強い気持ちでいた方が良いわよね?)
お姉様とお義兄様がこの場を離れると、ギャラリーもバラけていった。
お義兄様が主催のオブライエン伯爵に謝ってから会場を出ていくのを見て、慌てて、わたしも謝りに行くと、「今日の騒ぎについては事前に聞いてあるから気にしなくていいよ」と、小声で言い、少し出ているお腹を揺らして笑ってくださった。
「アザレア」
オブライエン伯爵と別れて、とにかく会場の隅に行こうと歩いていると、ショー様から呼び止められた。
「…ショー様!」
笑顔を見せると、ショー様は貼り付けた様な笑みを浮かべて言う。
「ごめんね。僕は今日は気分が優れないから帰ろうと思うんだ。残りの時間はトーリと一緒に過ごしてくれる?」
「心配です! わたしも一緒に…!」
「付いてくるな、鬱陶しい」
ショー様は耳元で囁く様に言った後、わたしの返事も待たずに会場を去っていく。
その姿が見えなくなってから、安堵の大きなため息を吐くと、トーリ様が近寄ってきてくれた。
「ショーが帰ってこないかは見張らせてるけど、人が多いし、あまり喋れない。でも、お疲れ様」
そう言って、わたしに果実ジュースを渡してくれた。
わたしの国では学生の間はお酒は飲めないので、トーリ様は紅茶だった。
(わたしが紅茶よりもジュースが好きだって事、知ってくださっているのね)
多くの人は紅茶が好きだし、無難だからといって紅茶を持ってきてくれる事が多い。
(嫌いではないんだけど、こういうところのジュースって美味しいのよね)
「ありがとうございます、トーリ様」
「詳しい話は、また帰りの馬車で」
「……はい」
皆の前では、お互いに興味のないふりをしつつも、目指す方向が同じだと運命共同体みたいで嬉しかった。
(考えてみたら、計画がうまくいけば、わたしはトーリ様と結婚するの?)
今更ながら、そんな事を考えた時だった。
「アザレア嬢…」
ジュースを飲んでいたわたしに声を掛けてきたのは、ビトイの弟である、オサヤ様だった。
※次話はマーニャsideです。
お姉様がこんなに焦っているのを見るなんて初めて見る様な気がする。
「何も…、言ってません…」
お姉様は必死に言い訳を考えている様だけれど、そんな暇を与えてあげる程、わたしは優しくなかった。
「わたしとお義兄様のやり取りは、ごく一般的な会話です。会えて嬉しいという言葉は、他の方にも言います。それが挨拶ですから。もちろん、お義兄様に会えて嬉しいのは確かですけど」
「そうだな。僕もそう思う。マーニャ、君が会った人、もしくは目上の人間に対して、会えて嬉しいという挨拶をしないんだとは知らなかった。この国ではそれがマナーなんだがな」
お義兄様が冷たく言い放つと、お姉様は言い返せないのか唇を震わせ、なぜかわたしの方を睨んだ。
今のわたしは、それくらいでは怯んだりしない。
「お姉様、ショー様とまさか、恋愛関係だったりしませんよね?」
「……ないわよ」
お姉様が答えると、お義兄様がすかさず尋ねる。
「迫られたら、あの時みたいに、と言ってなかったか? あの時とはどの時か聞かせてほしいが」
「いえ…、その…、あのっ…」
お姉様はしどろもどろになった後に叫ぶ。
(こんな所であの時の事なんて言えないわよね?)
「レイジ様! その話は家に帰ってからにしてください」
「え? 何だって?」
「家に帰ってから話します!」
「………」
お義兄様がお姉様を冷たい目で見つめる。
お姉様はびくりと体を震わせた後、頭を下げた。
「お願いします……」
「わかった」
お義兄様は静かに頷くと、わたしに向かって言う。
「君と話しているのを見て、マーニャはなぜか拗ねてしまったようだ。今日はここで失礼する。これ以上、主催者に迷惑をかけてもいけないしな」
「そうですわね。……お姉様、なぜ、お義兄様が厳しい態度を取られているのか、ちゃんと理解してくださいね」
「い、言われなくても理解しているわよ!」
お姉様の表情は険しくて、お姉様の思い通りに事が進んでいないという事がよくわかった。
(本当は今日のパーティーでショー様と仲睦まじいところを、お義兄様に隠れて、わたしに見せたかったんでしょうけど、残念でした。それをしてもらうのは、お義兄様と別れた後でも出来るから)
そこまで考えて、わたしは自分の性格が悪くなっている事に気が付いた。
(今まではこんな事を考えた事なんてなかったのに…。強くなったと思う様にした方がいいのかしら? それにやり遂げるなら、ある程度、強い気持ちでいた方が良いわよね?)
お姉様とお義兄様がこの場を離れると、ギャラリーもバラけていった。
お義兄様が主催のオブライエン伯爵に謝ってから会場を出ていくのを見て、慌てて、わたしも謝りに行くと、「今日の騒ぎについては事前に聞いてあるから気にしなくていいよ」と、小声で言い、少し出ているお腹を揺らして笑ってくださった。
「アザレア」
オブライエン伯爵と別れて、とにかく会場の隅に行こうと歩いていると、ショー様から呼び止められた。
「…ショー様!」
笑顔を見せると、ショー様は貼り付けた様な笑みを浮かべて言う。
「ごめんね。僕は今日は気分が優れないから帰ろうと思うんだ。残りの時間はトーリと一緒に過ごしてくれる?」
「心配です! わたしも一緒に…!」
「付いてくるな、鬱陶しい」
ショー様は耳元で囁く様に言った後、わたしの返事も待たずに会場を去っていく。
その姿が見えなくなってから、安堵の大きなため息を吐くと、トーリ様が近寄ってきてくれた。
「ショーが帰ってこないかは見張らせてるけど、人が多いし、あまり喋れない。でも、お疲れ様」
そう言って、わたしに果実ジュースを渡してくれた。
わたしの国では学生の間はお酒は飲めないので、トーリ様は紅茶だった。
(わたしが紅茶よりもジュースが好きだって事、知ってくださっているのね)
多くの人は紅茶が好きだし、無難だからといって紅茶を持ってきてくれる事が多い。
(嫌いではないんだけど、こういうところのジュースって美味しいのよね)
「ありがとうございます、トーリ様」
「詳しい話は、また帰りの馬車で」
「……はい」
皆の前では、お互いに興味のないふりをしつつも、目指す方向が同じだと運命共同体みたいで嬉しかった。
(考えてみたら、計画がうまくいけば、わたしはトーリ様と結婚するの?)
今更ながら、そんな事を考えた時だった。
「アザレア嬢…」
ジュースを飲んでいたわたしに声を掛けてきたのは、ビトイの弟である、オサヤ様だった。
※次話はマーニャsideです。
42
お気に入りに追加
3,868
あなたにおすすめの小説
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる