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16 (マーニャside)
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(嘘でしょう!? さっきまで向こうで人と話をして、私に興味なんてなかったじゃないの!)
レイジが突然、現れた事に、マーニャはパニックになりそうになった。
その上、どこからどこまでを聞かれていたのかはわからないが、少なくとも、最後の方の台詞は聞かれていたとわかり、かなり焦る。
アザレアの婚約者を奪う事は、彼女にとって、ただの趣味みたいなものだった。
だからこそ、今の生活を捨ててまで執着したいと思っていなかった。
(どうしよう。ショー様が完全に私の虜になっているのならまだしも、まだどうだかわからないわ。たぶん、そうだとは思うけれど、まだ動くには早すぎる。それに、今、離婚されてしまったら行く場所がないわ! 実家は私を家には入れないでしょうから。せめて、ショー様を自分のものにして、私をお嫁さんにしてくれるという約束を取り付けるまでは、レイジ様と一緒にいなければいけないのよ!)
マーニャは必死に笑顔を作って、レイジにすり寄る。
「何の話かしら? ここはパーティの場ですよ? そんな怖い顔しないでくださいませんか?」
「……アザレア、彼女は自分で言った事を覚えてないようだから、君が彼女から言われた内容を話してくれるか」
「もちろんです」
アザレアが頷くと、マーニャが叫ぶ。
「アザレア! あなた、私の幸せを祈ってはくれないの!?」
「お姉様は私の幸せを祈ってくれた事はありますか?」
マーニャの中では、人前では大人しい印象しかなかったアザレアが自分に噛み付いてきた事に驚き、眉根を寄せる。
「当たり前でしょう。あなたは私の妹なんだから」
アザレアが何か答える前にレイジが言う。
「そうだよな。だから、婚約者を見極めてあげるはずだったよな。だけど、本当の理由は君の浮気相手を探していただけか? それとも、アザレアをいじめたかっただけか?」
「レイジ様! そんな酷い事を仰らないでください! 私にはあなただけ」
そこまで言って、強い視線を感じて、マーニャは後ろを振り返った。
そこには人混みにまぎれて、マーニャを見つめているショーとトーリの姿があった。
(どうして、私を見てるのよ! こんなところで下手な事は言えない! あとから、あなただけだとショー様に言っても信じてもらえるかどうかわからないもの)
マーニャは場所を移動する事を考えた。
「とにかく、こんな所で話はできないわ。家に帰ってから話をしましょう?」
「そうだな。まだ、今のところは何も起こっていない様だからな」
「ね? 帰りましょう?」
縋り付くマーニャの手を払い、レイジは考えるように視線をさまよわせる。
(大人しく頷いておけばいいのに…! どうして悩むのよ!? まだ、浮気してないんだから許すべきだわ!)
「まあいい。仮定の話だからな…」
レイジは冷たい笑みを浮かべてマーニャを見たあと、アザレアには優しい表情で話しかける。
「嫌な思いをさせて済まないな」
「とんでもございません。お義兄様に会えて嬉しいですわ」
「ありがとう。僕も義妹に会えて嬉しいよ」
(なんなのよ。この2人、そんなに仲が良かったの!? まさか…、あの件から連絡を取ってるとかじゃないわよね!? そんな事をされていたら困るわ。屋敷の使用人達から話を聞かないと…!)
そこまで考えて、マーニャは自分なりの良い考えが思いつき、アザレアに向かって言う。
「アザレア、悲しいわ…」
「……何の話です?」
「もしかして、あなた、レイジ様の事が……」
「お義兄様が何です?」
アザレアが訝しげな顔で聞き返すと、マーニャは周りの視線が自分達に集まっているのを感じながら、涙を拭うふりをしてから答える。
「いいのよ。あなたは失恋して誰かに助けを求めていたのよね? だから、レイジ様と逢引を…」
「お姉様…、私がいつレイジ様と逢引したって言うんですか? 間違っていた場合、ちゃんと責任を取る覚悟があって、そんな事を言われてるんですよね?」
「え…? 覚悟…?」
問い返すと、アザレアが厳しい表情で言う。
「ありもしない話を作り上げて、わたしやお義兄様を浮気者にさせようとしてるんですから、もし、違った時はどうされるおつもりですか?」
「そ、それは…、もちろん謝るわよ…。でも、あなた達も悪いのよ! 私の目の前でそんなに仲良さげにするなんて!」
「では、言わせてもらいますがお姉様。わたしの婚約者に迫られたら、なんて言っておられました? お手紙をもらったりだとか、色々と言っておられましたよね? 婚約者がそんな事をしていたと知って、わたしが傷付かないとでも仰るんですか?」
「そっ…、それはっ!」
マーニャは焦って周りを見回す。
先程よりも人が集まっているので、下手な事は言えなかった。
ショーの事を話題に出せば、どうして妹の婚約者と連絡をとっているのか疑問に思われるだろうし、この場にショーがいる事もネックだった。
なぜなら、彼女はショーに、主人と上手くいっていないと伝えていたからだ。
ショーの前ではレイジだけが好きだとは言えず、無難な言葉を選ぶ。
(どうせ、アザレアだけの言葉じゃ、誰も信じないわ。だって、私の方が人望があるんだから)
「何も言ってないわ!」
「言っていただろ。僕にはちゃんと聞こえてた。アザレアの婚約者と何かあったら許してね。いや、その前の台詞から言おうか?」
「やめて下さい!」
レイジの言葉にマーニャが必死の形相で叫んだ。
レイジが突然、現れた事に、マーニャはパニックになりそうになった。
その上、どこからどこまでを聞かれていたのかはわからないが、少なくとも、最後の方の台詞は聞かれていたとわかり、かなり焦る。
アザレアの婚約者を奪う事は、彼女にとって、ただの趣味みたいなものだった。
だからこそ、今の生活を捨ててまで執着したいと思っていなかった。
(どうしよう。ショー様が完全に私の虜になっているのならまだしも、まだどうだかわからないわ。たぶん、そうだとは思うけれど、まだ動くには早すぎる。それに、今、離婚されてしまったら行く場所がないわ! 実家は私を家には入れないでしょうから。せめて、ショー様を自分のものにして、私をお嫁さんにしてくれるという約束を取り付けるまでは、レイジ様と一緒にいなければいけないのよ!)
マーニャは必死に笑顔を作って、レイジにすり寄る。
「何の話かしら? ここはパーティの場ですよ? そんな怖い顔しないでくださいませんか?」
「……アザレア、彼女は自分で言った事を覚えてないようだから、君が彼女から言われた内容を話してくれるか」
「もちろんです」
アザレアが頷くと、マーニャが叫ぶ。
「アザレア! あなた、私の幸せを祈ってはくれないの!?」
「お姉様は私の幸せを祈ってくれた事はありますか?」
マーニャの中では、人前では大人しい印象しかなかったアザレアが自分に噛み付いてきた事に驚き、眉根を寄せる。
「当たり前でしょう。あなたは私の妹なんだから」
アザレアが何か答える前にレイジが言う。
「そうだよな。だから、婚約者を見極めてあげるはずだったよな。だけど、本当の理由は君の浮気相手を探していただけか? それとも、アザレアをいじめたかっただけか?」
「レイジ様! そんな酷い事を仰らないでください! 私にはあなただけ」
そこまで言って、強い視線を感じて、マーニャは後ろを振り返った。
そこには人混みにまぎれて、マーニャを見つめているショーとトーリの姿があった。
(どうして、私を見てるのよ! こんなところで下手な事は言えない! あとから、あなただけだとショー様に言っても信じてもらえるかどうかわからないもの)
マーニャは場所を移動する事を考えた。
「とにかく、こんな所で話はできないわ。家に帰ってから話をしましょう?」
「そうだな。まだ、今のところは何も起こっていない様だからな」
「ね? 帰りましょう?」
縋り付くマーニャの手を払い、レイジは考えるように視線をさまよわせる。
(大人しく頷いておけばいいのに…! どうして悩むのよ!? まだ、浮気してないんだから許すべきだわ!)
「まあいい。仮定の話だからな…」
レイジは冷たい笑みを浮かべてマーニャを見たあと、アザレアには優しい表情で話しかける。
「嫌な思いをさせて済まないな」
「とんでもございません。お義兄様に会えて嬉しいですわ」
「ありがとう。僕も義妹に会えて嬉しいよ」
(なんなのよ。この2人、そんなに仲が良かったの!? まさか…、あの件から連絡を取ってるとかじゃないわよね!? そんな事をされていたら困るわ。屋敷の使用人達から話を聞かないと…!)
そこまで考えて、マーニャは自分なりの良い考えが思いつき、アザレアに向かって言う。
「アザレア、悲しいわ…」
「……何の話です?」
「もしかして、あなた、レイジ様の事が……」
「お義兄様が何です?」
アザレアが訝しげな顔で聞き返すと、マーニャは周りの視線が自分達に集まっているのを感じながら、涙を拭うふりをしてから答える。
「いいのよ。あなたは失恋して誰かに助けを求めていたのよね? だから、レイジ様と逢引を…」
「お姉様…、私がいつレイジ様と逢引したって言うんですか? 間違っていた場合、ちゃんと責任を取る覚悟があって、そんな事を言われてるんですよね?」
「え…? 覚悟…?」
問い返すと、アザレアが厳しい表情で言う。
「ありもしない話を作り上げて、わたしやお義兄様を浮気者にさせようとしてるんですから、もし、違った時はどうされるおつもりですか?」
「そ、それは…、もちろん謝るわよ…。でも、あなた達も悪いのよ! 私の目の前でそんなに仲良さげにするなんて!」
「では、言わせてもらいますがお姉様。わたしの婚約者に迫られたら、なんて言っておられました? お手紙をもらったりだとか、色々と言っておられましたよね? 婚約者がそんな事をしていたと知って、わたしが傷付かないとでも仰るんですか?」
「そっ…、それはっ!」
マーニャは焦って周りを見回す。
先程よりも人が集まっているので、下手な事は言えなかった。
ショーの事を話題に出せば、どうして妹の婚約者と連絡をとっているのか疑問に思われるだろうし、この場にショーがいる事もネックだった。
なぜなら、彼女はショーに、主人と上手くいっていないと伝えていたからだ。
ショーの前ではレイジだけが好きだとは言えず、無難な言葉を選ぶ。
(どうせ、アザレアだけの言葉じゃ、誰も信じないわ。だって、私の方が人望があるんだから)
「何も言ってないわ!」
「言っていただろ。僕にはちゃんと聞こえてた。アザレアの婚約者と何かあったら許してね。いや、その前の台詞から言おうか?」
「やめて下さい!」
レイジの言葉にマーニャが必死の形相で叫んだ。
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