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クボン侯爵がわたし達に提示した条件は、仰っておられた通り2つ。
1つ目は、婚約破棄をする本当の理由を絶対に外には漏らさない事。
お姉様がキトロフ家の使用人達に話をしている可能性があり、そちらの口止めはしてくださるとの事で、ミノン家の使用人にも絶対に情報を漏らさせないようにとの事だった。
そして、2つ目が問題だった。
クボン候爵がわたしに婚約者候補を2人紹介するので、どちらか1人を選ぶ事だった。
しかも、2人共、わたしと同じ年の17歳。
かなり年上の方か、後妻になれと言われるのかと思ったのだけれど、全然、違った。
けれど、逆に問題があるとも言える。
「アザレア嬢と同じ年で、婚約者を2人共に探している。なぜ、婚約者がいないかというと、2人共、性格に難があるからだ。いや、1人は慣れてしまえば大した事はないと思うが……」
応接室の1人用のソファーに座り、長い足を組んで話すクボン侯爵に問いかける。
「お2人がわたしを選ばない可能性もあるのでは?」
「そうなった時は強制的に、どちらかと結婚だ」
「それは、お相手の方の気持ちはどうなるんです!?」
驚きの声を上げたわたしに、クボン侯爵は大きく息を吐いてから言う。
「アザレア嬢、君は婚約破棄をしたいんだろう?」
「……したいです」
「なら、条件をのんでもらう」
(どんな相手かもわからないのに返事をしろと…? でも、選択肢はないわ。お父様達にこれだけさせたんだもの。何の収穫もなしでは終われない)
「あの、お相手はどちらの…?」
お父様が聞いてくださると、クボン侯爵は背もたれにもたれかかって答える。
「ショー様とトーリ様だ」
「――!?」
答えを聞いたわたし達は声にならない声を上げた。
(まさか、わたしと同じ年でショー様とトーリ様って……)
「ま、まさか、ブロット公爵家の…?」
恐る恐る聞いてみると、クボン侯爵は大きく頷く。
「そうだ」
ブロット公爵家のショー様とトーリ様は双子で、2人共に顔は整っているけれど、婚約者がいない事は、貴族の間でも一時期、噂にはなっていた。
兄のトーリ様は口数が少なくて無愛想で、冷たい性格で有名。
ショー様は爽やかな外見で優しいと噂だけれど、実は裏では……という黒い噂がある。
婚約者がいない事が、その噂に信憑性をもたらしている気がした。
「2人は次男と三男だが、伯爵家以上の爵位は引き継ぐ事になっているから、将来的なものは心配しなくてもいいだろう」
(か、簡単に言ってくださるわね。他人事だからかしら)
クボン公爵はにやりと笑って聞いてくる。
「で、どうする?」
「どうすると聞かれましても、選択肢は2つですわよね。その内の1つは絶対に嫌なものです。ですから、ブロット公爵令息のお2人と、お会いしてみたいです」
(まだ、希望のある方に賭けてみよう)
そう言い聞かせて答えると、お父様が尋ねる。
「なぜ、ブロット公爵家の令息の婚約者をクボン候爵閣下が…?」
「ブロット公爵とは友人なんだ。年頃の令嬢で誰かを紹介しろと言われていた」
(納得いくといえば納得いくけれど、よっぽどの相手って事じゃないの。それに、この方がそこまでする必要あるの?)
決めた事を取り消す訳にもいかないし、腹をくくる事に決めると、クボン候爵がわたしに言う。
「レイジと結婚させる前に簡単に調べさせたが、どうやら、マーニャはアザレア嬢の婚約者が好きなようだな」
「……どういう事ですか? お姉様もビトイの事を好きなんですか…?」
「いや、違う。君の婚約者が好きなんだ」
「……という事は…」
口をおさえて呟くと、クボン候爵は頷く。
「マーニャはまたやるだろう。その時は……」
「クボン侯爵閣下…、あなたはアザレアを…」
お父様はそこまで言って、お姉様も自分の娘である事に気が付いてやめ、わたしの方を見た。
「アザレア…」
「……やってみます」
(クボン候爵は本当に悪い人だわ。なにかの理由で婚約者を探すように言われていたのね? そこにちょうど良い人間がいたといったところ…? しかも、自分の家的にもかなりメリットになる…)
「婚約破棄の理由を決められたら教えてくれ。必ず、婚約破棄させてやろう。相手の有責で」
「もちろんです。アザレア自身は悪くありません」
お父様が強い口調で言うと、クボン候爵は笑う。
「わかった、わかった。意地悪な事を言って済まなかったな。今のところは親戚として繋がりがあるのだから、これ以上は何も言わん」
クボン侯爵は立ち上がって続ける。
「理由だけ考えてくれ。その理由で良いかはこちらが判断し、先方に伝えよう」
そう言って、こちらが何も言えないでいる内に、部屋から出て行ってしまった。
※次話はビトイsideのマーニャとの話になります。
1つ目は、婚約破棄をする本当の理由を絶対に外には漏らさない事。
お姉様がキトロフ家の使用人達に話をしている可能性があり、そちらの口止めはしてくださるとの事で、ミノン家の使用人にも絶対に情報を漏らさせないようにとの事だった。
そして、2つ目が問題だった。
クボン候爵がわたしに婚約者候補を2人紹介するので、どちらか1人を選ぶ事だった。
しかも、2人共、わたしと同じ年の17歳。
かなり年上の方か、後妻になれと言われるのかと思ったのだけれど、全然、違った。
けれど、逆に問題があるとも言える。
「アザレア嬢と同じ年で、婚約者を2人共に探している。なぜ、婚約者がいないかというと、2人共、性格に難があるからだ。いや、1人は慣れてしまえば大した事はないと思うが……」
応接室の1人用のソファーに座り、長い足を組んで話すクボン侯爵に問いかける。
「お2人がわたしを選ばない可能性もあるのでは?」
「そうなった時は強制的に、どちらかと結婚だ」
「それは、お相手の方の気持ちはどうなるんです!?」
驚きの声を上げたわたしに、クボン侯爵は大きく息を吐いてから言う。
「アザレア嬢、君は婚約破棄をしたいんだろう?」
「……したいです」
「なら、条件をのんでもらう」
(どんな相手かもわからないのに返事をしろと…? でも、選択肢はないわ。お父様達にこれだけさせたんだもの。何の収穫もなしでは終われない)
「あの、お相手はどちらの…?」
お父様が聞いてくださると、クボン侯爵は背もたれにもたれかかって答える。
「ショー様とトーリ様だ」
「――!?」
答えを聞いたわたし達は声にならない声を上げた。
(まさか、わたしと同じ年でショー様とトーリ様って……)
「ま、まさか、ブロット公爵家の…?」
恐る恐る聞いてみると、クボン侯爵は大きく頷く。
「そうだ」
ブロット公爵家のショー様とトーリ様は双子で、2人共に顔は整っているけれど、婚約者がいない事は、貴族の間でも一時期、噂にはなっていた。
兄のトーリ様は口数が少なくて無愛想で、冷たい性格で有名。
ショー様は爽やかな外見で優しいと噂だけれど、実は裏では……という黒い噂がある。
婚約者がいない事が、その噂に信憑性をもたらしている気がした。
「2人は次男と三男だが、伯爵家以上の爵位は引き継ぐ事になっているから、将来的なものは心配しなくてもいいだろう」
(か、簡単に言ってくださるわね。他人事だからかしら)
クボン公爵はにやりと笑って聞いてくる。
「で、どうする?」
「どうすると聞かれましても、選択肢は2つですわよね。その内の1つは絶対に嫌なものです。ですから、ブロット公爵令息のお2人と、お会いしてみたいです」
(まだ、希望のある方に賭けてみよう)
そう言い聞かせて答えると、お父様が尋ねる。
「なぜ、ブロット公爵家の令息の婚約者をクボン候爵閣下が…?」
「ブロット公爵とは友人なんだ。年頃の令嬢で誰かを紹介しろと言われていた」
(納得いくといえば納得いくけれど、よっぽどの相手って事じゃないの。それに、この方がそこまでする必要あるの?)
決めた事を取り消す訳にもいかないし、腹をくくる事に決めると、クボン候爵がわたしに言う。
「レイジと結婚させる前に簡単に調べさせたが、どうやら、マーニャはアザレア嬢の婚約者が好きなようだな」
「……どういう事ですか? お姉様もビトイの事を好きなんですか…?」
「いや、違う。君の婚約者が好きなんだ」
「……という事は…」
口をおさえて呟くと、クボン候爵は頷く。
「マーニャはまたやるだろう。その時は……」
「クボン侯爵閣下…、あなたはアザレアを…」
お父様はそこまで言って、お姉様も自分の娘である事に気が付いてやめ、わたしの方を見た。
「アザレア…」
「……やってみます」
(クボン候爵は本当に悪い人だわ。なにかの理由で婚約者を探すように言われていたのね? そこにちょうど良い人間がいたといったところ…? しかも、自分の家的にもかなりメリットになる…)
「婚約破棄の理由を決められたら教えてくれ。必ず、婚約破棄させてやろう。相手の有責で」
「もちろんです。アザレア自身は悪くありません」
お父様が強い口調で言うと、クボン候爵は笑う。
「わかった、わかった。意地悪な事を言って済まなかったな。今のところは親戚として繋がりがあるのだから、これ以上は何も言わん」
クボン侯爵は立ち上がって続ける。
「理由だけ考えてくれ。その理由で良いかはこちらが判断し、先方に伝えよう」
そう言って、こちらが何も言えないでいる内に、部屋から出て行ってしまった。
※次話はビトイsideのマーニャとの話になります。
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