わたしの婚約者の好きな人

風見ゆうみ

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 3つ年上のお姉様は、昨年に婚約者であるレイジ・キトロフ様の元に嫁いだ。

 レイジ様は候爵家の次男で、ご自身は伯爵の爵位を持っており、結婚と共に家を出られ、新しい屋敷でお姉様と住む事になったのだけれど、その際、お姉様が実家に帰りやすい様にと、実家近くに家を建てられた。

 それは、わたしにとっては迷惑な話だった。
 お義兄にい様が悪くない事くらいわかっている。

 お義兄様は、ビトイがお姉様の事を好きだという事は知らないはずだから、子供が出来た時などに、すぐに実家に帰れる方が良いという配慮もあったのだと思う。

 お姉様が近くに住むと聞いたビトイの顔が明るくなった事を今でも鮮明に思い出せる。

 わたしに対して見せてくれた事のない、幸せそうな笑顔だった。

 悔しいけれど、そんな笑顔にときめいてしまう程、彼の事が好きだった。

 だって、お姉様の事を考えていない時のビトイは、わたしにとても優しかったし、わたしの事を一番に考えてくれていた。
 
 お姉様のようになって、ビトイに好きになってもらおうと考えたけれど、どうしたって、わたしはお姉様にはなれなかった。

 お姉様はシルバーブロンドの髪に透き通る様な青色の瞳。
 活発で明るくて、少しワガママで勝ち気なところもあるけれど、皆に愛される存在。

 わたしはお姉様とは逆で、言いたい事があってものみこんでしまう様な弱虫だった。
 だけど、お姉様のようになりたくて、わたしなりに頑張りもした。

 だから、幼い頃よりもずっと、わたしは強くなったと思う。

 けれど、やはり、お姉様の代わりにはなれなかった。

 結婚式でのお姉様はとても綺麗だった。

 みんなに祝福されて、とても良い挙式だった。

 喜びムードの中、ビトイだけは、わたしの隣で泣きそうな顔をして、ウェディングドレス姿のお姉様を見ていた。

「ビトイ…、わたしのお姉様の結婚式なのよ? 祝ってあげられないの…?」

 返ってくる答えがわかっていながらも、ビトイに尋ねると、彼はすぐに笑顔を作って言った。

「いや、嬉しいよ。嬉しいに決まってるじゃないか」

(嘘よ…。そんな表情には見えない)

「そう。なら良かった」

 否定の言葉は口に出せず、ただ、泣き出したくなるのを必死にこらえて頷いた。

 結婚式の場で嬉し泣きならまだしも、悲しい涙なんて流してはいけない。

「あら、アザレアったら、泣きそうな顔してるじゃない! どうしたの? 私が家からいなくなるのがそんなに寂しいの?」

 お姉様は幸せいっぱいの笑顔を見せて話しかけてきた。

「そうですね。寂しくなります」
「あら、可愛い事を言えるようになったじゃない! あなた達も幸せになるのよ!」

 お姉様に言われ、ビトイは表情を引きつらせながら頷いた。

 わたしはお姉様の事は苦手だった。

 昔のお姉様はわたしの事が嫌いだった。
 今は嫌いとまではいかないけれど、好きでもないに変化している。

 お姉様がわたしに対して、そんな感情を持つのは、幼い頃に泣き虫だったわたしが鬱陶しくてしょうがなかったからだと思う。

 嫌いから、好きではない、に変わったのは、わたしが昔のように泣かなくなったから。

 お姉様がわたしのものを欲しがった時は、子供の頃は泣いて拒んでいたけれど、大きくなるにつれて「欲しいのならあげる」になってしまっていた。

 それが嫌いから好きでもないに変化した理由だと思う。

「あら、ビトイも表情が暗いわ。ちゃんと祝ってちょうだい?」
「は、はい。すみません」

 お姉様は口癖なのか、話し始める際に、よく「あら」と言う。

 昔、その事をビトイに笑いながら話すと「そんな事を笑うなんて良くない! 次にそんな事を言ったら、僕はアザレアの事を嫌いになる」と叱られた。

 今となれば、言ってはいけない事を言ったのだと理解は出来る。

 けれど、その前にビトイの方が他の人の口癖を笑いながら話していた。
 だからわたしも、ビトイが笑ってくれると思って言っただけだった。

(お姉様を馬鹿にする人間は許さないって事よね。それは、昔だけじゃない。今もそう。だけど、今日で終わりよ)

 その時のわたしは、お姉様が結婚した事により、今度こそ、ビトイがお姉様を諦めて、わたしだけを見てくれるだろうと期待していた。

 けれど、実際は、会えなくなった時間や障害が、彼の恋心にもっと火を点けただけだった。
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