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24 あなたに捧げる愛などありません
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「離婚届を書いたら、僕を助けてくれるのか?」
「……どういう意味でしょう」
「そのままの意味だよ! このままでは僕は詐欺罪で捕まってしまうだろう!?」
「まさか、本当に第二王女殿下に私との離婚と、第二王女殿下との結婚をほのめかしていたのですか?」
「う……、それは、その、パオラと出会う前の話だよ! パオラも母上が気に入って選んだんだ!」
ヤバス様は焦った顔で叫ぶ。
そんなに仲が良さそうに思えなかったのに、愛人関係になった理由はそれだったのね。
「君が会合に出かけた日、本当は第二王女殿下に会う予定だったんだ。だけど、母上がパオラを連れてきて」
「ちょっと待ってください!」
パオラさんを連れてきたのがバニャ様だと納得できても、第二王女殿下に会う予定だったというのは納得できない。
「ヤバス様はあの時、自分から跡継ぎ問題は解決すると言われていましたわよね?」
「……そうだったかな?」
「そうです。それを聞いたバニャ様は最初は驚いていらっしゃいましたが、あなたの話を聞いて納得された様子でした」
一度言葉を区切ってから、ヤバス様に尋ねる。
「あなたはあの時、第二王女殿下を思い浮かべておられたのですか?」
「え、いや」
「第二王女殿下と会う予定だったと、先程おっしゃいましたわね?」
「言ってない!」
ヤバス様は失言だったと気づいたのか否定してきた。
「そう言っているのを聞きましたよ」
「聞きましたわ」
ディード様とミラさんが頷くと、今になってヤバス様はディード様たちに気がついたようだった。
「ま、魔道士じゃない!?」
ヤバス様はディード様を見て驚愕の声を上げた。
「魔道士ですよ」
「だ、だって、あなたはディード殿下ではないですか!」
「そうです! マジルカ王国の王太子です!」
ディード様は気づいてもらえたことを、とても喜んで何度も首を縦に振っている。
そんなディード様にヤバス様は尋ねる。
「どうしてあなたがここに!?」
「魔道士だからですよ。あなただって一瞬かもしれませんが出迎えてくれましたよ」
「え」
ヤバス様はしっかりと見ていなかったらしい。
名前を聞いたらわかりそうなものだけれど、興味がなかったから聞き逃したんでしょうね。
「あなたがシアさんの浮気相手だと思い込んでいたのは僕のことですから、あなたのことを名誉毀損で訴えても良いですかね。不敬罪でも良いのですが、不敬罪のほうが罪は重いでしょうし」
「そんな! 僕はあなたを侮辱するつもりはありませんでした!」
「その言葉を信じるとしましょう。でも、罪は罪です。ですから、その罪を問わない代わりに、今すぐに離婚届にサインをお願いいたします」
ディード様が笑顔でお願いすると、ヤバス様は助けを求めるように私を見た。
「さんざん馬鹿にしていた私と別れられるのですから、良いではないですか」
「シア、君は僕に従順で、僕が酷いことを言っても許して、愛してくれていたじゃないか」
手を伸ばしてきたヤバス様だったけれど、ディード様の魔法が働いて鼻の穴に水が噴射された。
「い、痛いっ!」
鼻を押さえて苦しむヤバス様に告げる。
「申し訳ございませんが、ヤバス様。あなたに捧げる愛などありません」
「シア……」
懲りずにヤバス様が私に片手を伸ばしてきたけれど、その手をディード様が掴んだ。
「早く離婚届を書いてください」
「うっ」
ヤバス様は眉尻を下げたあと、部屋に戻り、離婚届にサインをして持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「シア、今の君は本当に魅力的だ。何度だって謝るからやり直せないだろうか」
離婚届を私に手渡す際に、ヤバス様はそう言ってきた。
「やり直す気なんて一切ありません」
「ヤバス、今の発言はどういうことなの?」
私が答えたところで、第二王女殿下が現れたのだった。
「……どういう意味でしょう」
「そのままの意味だよ! このままでは僕は詐欺罪で捕まってしまうだろう!?」
「まさか、本当に第二王女殿下に私との離婚と、第二王女殿下との結婚をほのめかしていたのですか?」
「う……、それは、その、パオラと出会う前の話だよ! パオラも母上が気に入って選んだんだ!」
ヤバス様は焦った顔で叫ぶ。
そんなに仲が良さそうに思えなかったのに、愛人関係になった理由はそれだったのね。
「君が会合に出かけた日、本当は第二王女殿下に会う予定だったんだ。だけど、母上がパオラを連れてきて」
「ちょっと待ってください!」
パオラさんを連れてきたのがバニャ様だと納得できても、第二王女殿下に会う予定だったというのは納得できない。
「ヤバス様はあの時、自分から跡継ぎ問題は解決すると言われていましたわよね?」
「……そうだったかな?」
「そうです。それを聞いたバニャ様は最初は驚いていらっしゃいましたが、あなたの話を聞いて納得された様子でした」
一度言葉を区切ってから、ヤバス様に尋ねる。
「あなたはあの時、第二王女殿下を思い浮かべておられたのですか?」
「え、いや」
「第二王女殿下と会う予定だったと、先程おっしゃいましたわね?」
「言ってない!」
ヤバス様は失言だったと気づいたのか否定してきた。
「そう言っているのを聞きましたよ」
「聞きましたわ」
ディード様とミラさんが頷くと、今になってヤバス様はディード様たちに気がついたようだった。
「ま、魔道士じゃない!?」
ヤバス様はディード様を見て驚愕の声を上げた。
「魔道士ですよ」
「だ、だって、あなたはディード殿下ではないですか!」
「そうです! マジルカ王国の王太子です!」
ディード様は気づいてもらえたことを、とても喜んで何度も首を縦に振っている。
そんなディード様にヤバス様は尋ねる。
「どうしてあなたがここに!?」
「魔道士だからですよ。あなただって一瞬かもしれませんが出迎えてくれましたよ」
「え」
ヤバス様はしっかりと見ていなかったらしい。
名前を聞いたらわかりそうなものだけれど、興味がなかったから聞き逃したんでしょうね。
「あなたがシアさんの浮気相手だと思い込んでいたのは僕のことですから、あなたのことを名誉毀損で訴えても良いですかね。不敬罪でも良いのですが、不敬罪のほうが罪は重いでしょうし」
「そんな! 僕はあなたを侮辱するつもりはありませんでした!」
「その言葉を信じるとしましょう。でも、罪は罪です。ですから、その罪を問わない代わりに、今すぐに離婚届にサインをお願いいたします」
ディード様が笑顔でお願いすると、ヤバス様は助けを求めるように私を見た。
「さんざん馬鹿にしていた私と別れられるのですから、良いではないですか」
「シア、君は僕に従順で、僕が酷いことを言っても許して、愛してくれていたじゃないか」
手を伸ばしてきたヤバス様だったけれど、ディード様の魔法が働いて鼻の穴に水が噴射された。
「い、痛いっ!」
鼻を押さえて苦しむヤバス様に告げる。
「申し訳ございませんが、ヤバス様。あなたに捧げる愛などありません」
「シア……」
懲りずにヤバス様が私に片手を伸ばしてきたけれど、その手をディード様が掴んだ。
「早く離婚届を書いてください」
「うっ」
ヤバス様は眉尻を下げたあと、部屋に戻り、離婚届にサインをして持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「シア、今の君は本当に魅力的だ。何度だって謝るからやり直せないだろうか」
離婚届を私に手渡す際に、ヤバス様はそう言ってきた。
「やり直す気なんて一切ありません」
「ヤバス、今の発言はどういうことなの?」
私が答えたところで、第二王女殿下が現れたのだった。
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