あなたに捧げる愛などありません

風見ゆうみ

文字の大きさ
上 下
24 / 27

23 一つの嘘

しおりを挟む
 パオラさんが出て行ってから、新聞記者には現在、バニャ様は屋敷内にはいないこと。
 違法の魔道具を持っていたせいで魔道士協会が取り調べをしようとしたところ、バニャ様が逃げたので指名手配されたという説明をした。

 ディード様がいるからか、今日のところはその話だけで新聞記者たちは大人しく帰ってくれた。
 新聞記者が帰る際に、ディード様が何人かの記者と話をしていたけれど、何を話していたかはミラさんと話をしていたため聞こえなかった。

「シア様、ヤバス様との離婚は少しでも早めにしたほうがよろしいかと思いますわ」
「そうですね。もう一度、お願いしに行こうと思います」

 ミラさんに促され、ディード様と合流して、ヤバス様の部屋へ向かうことにした。
 廊下ですれ違う使用人たちが不安そうにしているので、ヤバス様は不敬罪には問われないけれど、バニャ様は魔道士協会の人に捕まることになるだろうと伝えると浮かない表情になった。

 魔道士協会にはマジルカ王国では逮捕権が与えられているため、こちらの警察に捕まったあとは、魔道士協会に引き渡されるので、必然的にバニャ様はマジルカ王国に送られる。

 使用人たちには罪はないし、今のところ、ヤバス様が捕まるということはないでしょうから、使用人たちの紹介状をヤバス様にお願いする、もしくは執事にお願いしてヤバス様の名前で書いてもらったほうが良いのかもしれない。

「紹介状を用意するから心配しないで」

 紹介状を書いて暇を出してあげないと、彼女たちが新しい働き口を見つけるのは難しくなる。
 執事には紹介状の用意をするように伝え、執事の分は私が書くと伝えた。

 それにしても、ヤバス様が部屋から出てこない理由がわからなかった。
 バニャ様は自ら逃げたことで罪を自白したようなものだけれど、それだけでエビン公爵家が没落するとは思えない。
 それなのに、どうしてここまで怯えているのかしら。

 ヤバス様の部屋の扉をノックして話しかける。

「ヤバス様、開けてください!」
「嫌だ。僕を捕まえるつもりなんだろう? それに、離婚届も書きたくない」
「ヤバス様にはパオラさんもいらっしゃいますし、私にこだわる必要はないでしょう」
「こんな状態になった以上、君と離婚なんてしたら、僕の立場はもっと悪くなるじゃないか」
「もう十分悪いと思いますわ。あなたとパオラさんの話も新聞記者にしてしまいましたから」

 しれっと伝えてみると、ヤバス様が部屋の扉を開けた。

「シア、君は今、なんて言ったんだ?」
「ヤバス様とパオラさんが愛人関係であることを新聞記者に伝えたと申しましたが?」
「そ、そんな!」

 ヤバス様は真っ青な表情になって頭を抱えた。

「どうしよう。このままじゃ僕は! 何て言い訳したらいいんだ! シア、頼む。助けてくれないか!」
「意味がわかりません。何から助けると言うのです?」

 愛人を持つことは貴族の間では禁止行為ではない。
 だから、怯えるほどではないと思う。
 バニャ様が何かもっと悪いことでもしていたのかしら。

 訝しんでいると、後ろに立っていたディード様が「あ」と声を上げたので振り返る。

「シアさん。今、王族を追っている記者の方からの情報を、先程、門の前にいた記者の方から連絡をいただいたのですが」
「いつですか?」
「今です。封をすれば僕にすぐに届くようになっている封筒をお渡ししていたんですよ。で、その手紙に書いてあったのですが、レティカ王国の第二王女殿下がこちらに向かっているそうですよ。一体、何の用事なんですかね」
「第二王女殿下が?」
「うわああああ」

 私がディード様に聞き返したと同時に、ヤバス様が両耳を押さえて叫んだ。

「どういうことなんでしょうか」
「見てください」

 ディード様に手紙を手渡されたので、内容を確認してみる。
 そこには、ヤバス様に愛人がいるという情報が流れるとすぐに、第二王女殿下が動き出したと書かれていた。

「まさか、ヤバス様は第二王女殿下とも関係があったということでしょうか」
「その可能性が高いです。シアさんがストレートヘアになる前に、妻とは別れるつもりなんだとか言って、第二王女殿下を誑かしたのかもしれませんよ。ヤバスさんの中では遊びだったんでしょうけど、お相手はそうじゃなかったのかもしれません」
「もし、それが本当でしたら、私の離婚も裁判で勝ち取れそうですね」
「第二王女殿下が証言してくださるなら、絶対に勝てるでしょうね」

 笑顔で言うと、ディード様も笑顔を返してくれた。
 第二王女殿下がいらしたら、どんな修羅場になるかはわからない。
 ヤバス様が第二王女殿下に手を出したことをバニャ様は知っていたのかしら。
 それに、もしかしたら、ヤバス様の浮気相手はパオラさんと第二王女殿下だけではないのかもしれない。
 今のうちに言えることは言っておきましょう。

「ヤバス様、裁判に持ち込んでも結果は一緒です。今のうちに離婚届にサインをお願い致します。そうすれば、一つの嘘は本当になりますわよ?」

 私の言葉を聞いたヤバス様は頭を抱えたまま、涙目で私を見つめた。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。 そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

【完結】正妃に裏切られて、どんな気持ちですか?

かとるり
恋愛
両国の繁栄のために嫁ぐことになった王女スカーレット。 しかし彼女を待ち受けていたのは王太子ディランからの信じられない言葉だった。 「スカーレット、俺はシェイラを正妃にすることに決めた」

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

[完]出来損ない王妃が死体置き場に捨てられるなんて、あまりにも雑で乱暴です

小葉石
恋愛
 国の周囲を他国に囲まれたガーナードには、かつて聖女が降臨したという伝承が残る。それを裏付ける様に聖女の血を引くと言われている貴族には時折不思議な癒しの力を持った子供達が生まれている。  ガーナードは他国へこの子供達を嫁がせることによって聖女の国としての威厳を保ち周辺国からの侵略を許してこなかった。      各国が虎視眈々とガーナードの侵略を図ろうとする中、かつて無いほどの聖女の力を秘めた娘が侯爵家に生まれる。ガーナード王家はこの娘、フィスティアを皇太子ルワンの皇太子妃として城に迎え王妃とする。ガーナード国王家の安泰を恐れる周辺国から執拗に揺さぶりをかけられ戦果が激化。国王となったルワンの側近であり親友であるラートが戦場から重傷を負って王城へ帰還。フィスティアの聖女としての力をルワンは期待するが、フィスティアはラートを癒すことができず、ラートは死亡…親友を亡くした事と聖女の力を謀った事に激怒し、フィスティアを王妃の座から下ろして、多くの戦士たちが運ばれて来る死体置き場へと放り込む。  死体の中で絶望に喘ぐフィスティアだが、そこでこその聖女たる力をフィスティアは発揮し始める。  王の逆鱗に触れない様に、身を隠しつつ死体置き場で働くフィスティアの前に、ある日何とかつての夫であり、ガーナード国国王ルワン・ガーナードの死体が投げ込まれる事になった……………!   *グロテスクな描写はありませんので安心してください。しかし、死体と言う表現が多々あるかと思いますので苦手な方はご遠慮くださいます様によろしくお願いします。

〖完結〗その愛、お断りします。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った…… 彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。 邪魔なのは、私だ。 そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。 「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。 冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない! *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

父が転勤中に突如現れた継母子に婚約者も家も王家!?も乗っ取られそうになったので、屋敷ごとさよならすることにしました。どうぞご勝手に。

青の雀
恋愛
何でも欲しがり屋の自称病弱な義妹は、公爵家当主の座も王子様の婚約者も狙う。と似たような話になる予定。ちょっと、違うけど、発想は同じ。 公爵令嬢のジュリアスティは、幼い時から精霊の申し子で、聖女様ではないか?と噂があった令嬢。 父が長期出張中に、なぜか新しい後妻と連れ子の娘が転がり込んできたのだ。 そして、継母と義姉妹はやりたい放題をして、王子様からも婚約破棄されてしまいます。 3人がお出かけした隙に、屋根裏部屋に閉じ込められたジュリアスティは、精霊の手を借り、使用人と屋敷ごと家出を試みます。 長期出張中の父の赴任先に、無事着くと聖女覚醒して、他国の王子様と幸せになるという話ができれば、イイなぁと思って書き始めます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...