あなたに捧げる愛などありません

風見ゆうみ

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22 不敬罪

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 その後、パオラさんはディード様の問いに答えることもなく荷物を持って逃げ出してしまった。

 逃げても一緒だ。
 ディード様は追跡魔法を使える。
 彼女の使っていた部屋に髪の毛が一本も落ちていないわけがない。
 それに逃げるといっても、実家に帰っただけでしょうから追わなくても良いと判断した。

 頭を下げていた記者たちはディード様の許可を得て顔を上げた。

 記者には私とディード様の関係性を話し理解を求めた。
 すると、食事に数人で行ったくらいでは浮気とはみなせないとわかってくれた。

 不敬罪に問われるのかと不安そうにしている新聞記者たちにディード様がお願いする。

「シアさんはヤバスさんとの離婚を望んでいるんですが、彼に拒否されています。決定的な証拠がほしいのですが、何か知っておられる方はいますか? 僕に恩を売っても損はないかと思いますよ」
「あの、ディード殿下。一つ質問してもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「どうして、エビン公爵夫人にそこまで肩入れされるのですか? それで浮気だと疑われたのではないでしょうか」

 攻めた質問だなと思いながら、ディード様の代わりに私が記者に答える。

「先日、王族と筆頭公爵家のみが集まる会合があったのはご存知ですわよね。その会合にはヤバス様は出席されず、私だけが出席しました。その際にマジルカ王国の女王陛下にお声がけいただき、ディード様ともお近づきになれたのです」
「それは失礼いたしました。無礼をお許しください」

 記者は慌てた顔をして言うと頭を下げた。
 すると、ディード様が口を開く。

「許したくないなあ」
「ディード様?」
 
 ディード様なら許してあげると思っていただけに驚いて、ディード様を見つめる。

「色恋沙汰が絡まないと人助けをしないと思われるのが嫌なんですよ。僕は弱くて善良な人を助けたい。ただそれだけなんです」
「申し訳ございません!」

 周りにいた記者たちも慌てて頭を下げた。
 すると、ミラさんまでもが頭を下げる。

「申し訳ございません、ディード様。私も色恋沙汰かもしれないと思っていましたわ」
「一緒に仕事をしているのに酷くないですか!?」
「だって、珍しいことでしたから」
「僕は女性にモテませんので、女性と関わる機会がなかっただけですよ」

 ディード様は拗ねたような顔をしたあと記者たちに言う。

「とにかく、シアさんのことを新聞に載せてしまったところがあるなら、すぐに訂正の記事を出してください」

 ディード様の言葉を聞いた記者たちが特に反応しなかったので、まだ記事にはなっていないのかもしれない。
 もし、載せようとしていたとしても馬鹿じゃなければ、ゴシップ誌であっても王族を敵に回したくないだろうから、すぐに取りやめてくれるでしょう。
 ある程度名のしれた貴族から聞いた話だから、根拠があると思ったのかも知れないけれど、もっと調べてから来るべきよね。

 その後、噂を流した貴族は特定され、芋づる式にパオラさんの家族、そしてパオラさんは不敬罪で捕まることになった。

 少し先の話になるが貴族のほうは捕まったけれど、お金を払うことにより保釈された。
 パオラさんが家族に「シア様が浮気をしている」という話しかしていなかったため、相手が誰だか知らず、ディード様に対しての不敬が認められなかったということもある。
 でも、この話は公になったため、社交界に属している人間が、この貴族と関わることを拒んだ。
 そのため噂を流した貴族の家は没落することになった。

 そして、パオラさんたち家族は、私やディード様が命まで取る必要はないと認めたため、多大な罰金だけで済んだ。
 けれど、商売は信用があって成り立つものでもあるので、店を再開しても客は来なかった。
 商品の支払いもできなくなり、最終的に罰金も支払い期限までに支払えなくなったため、家族三人揃って刑務所に入ることになった。

 パオラさんも家族も「馬鹿にするつもりではなかった」と口を揃えて言っていたけれど、貴族や王族相手にそんな言い訳が通じるわけがなかった。
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