あなたに捧げる愛などありません

風見ゆうみ

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21 マジルカ王国のディード殿下

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 パオラさんが準備を終えたというので、私たちは揃って屋敷を出た。
 私たちは門の外には出ずに、パオラさんだけ通用門から出てもらうと、新聞記者の半分はパオラさんのほうに近寄っていき、もう半分は私に問いかけてくる。

「エビン公爵夫人ですね! 浮気をされていたというのは本当なのでしょうか」
「いいえ。誰かが勝手に流した悪意のある噂ですわ。そんな話は誰から聞きましたの?」
「それは教えられません」

 ニュースソースを教えられないというのは常套句だし、これについてはわからないでもない。
 ペラペラ話す人間に大事なことを打ち明ける気にはならないでしょう。

 彼らにしてみれば、私の浮気の話はバニャ様の事件のついでだとわかった。
 私に話を聞いてきている人たちの腕章を見てみると、全てがゴシップ紙の名前だったからだ。
 出て行ったパオラさんのほうにはバニャ様の行方について知らないかと尋ねている人が多い。

 ディード様は種明かしをすることにしたようで口を開く。

「パオラさん」

 ディード様が声を掛けると、パオラさんを囲んでいた新聞記者の一部が身を避けて、彼女の顔を見せてくれた。

「何でしょうか」

 パオラさんがディード様を睨み付けて聞き返した時、レティカ王国の中では一番大きな新聞社の腕章を付けた男性がディード様を見て目を見開いた。
 そして、その近くにいた記者もディード様を凝視している。

 さすがに貴族を追いかけている記者だけあって、他国の王族のことも知っているのか、ディード様のことが誰だかわかったようだった。

「あなたはシアさんと僕が浮気していたと言っていましたが、そんな事実はありません」
「そんなの知らないわ! 二人で出かけていたんなら浮気じゃないの!」
「二人で出かけたという事実はありません」
「だって食事に出かけていたじゃないの!」
「私もおりましたわよ? それから同僚もいましたので二人きりではございません」

 ミラさんがきっぱりと告げると、パオラさんが焦った顔になった。

「あの、よろしいでしょうか」

 一番最初にディード様に気が付いた記者が恐る恐る手を挙げた。

「どうぞ」
 
 ディード様が笑顔で頷くと、新聞記者は尋ねる。

「あなたはマジルカ王国のディード殿下でいらっしゃいますか?」
「そうですよ。知っていてくれて嬉しいです。パオラさんは僕のことを知らなかったようですから」

 パチパチと手を叩いて喜ぶディード様だったけれど、それを聞いた記者たちは慌ててひれ伏せた。

 他国の王族だと分かれば、そうなるのが普通よね。
 パオラさんは呆気にとられた顔をして、ディード様に尋ねる。

「え? うそ、マジルカ王国の王子?」
「そうですよ。話を変えますが、新聞記者に話したのはあなたではなくても、噂のでどころはあなた、もしくはあなたが嘘を教えた誰かですよね?」

 ディード様に尋ねられたパオラさんの顔は、みるみるうちに青くなっていった。


 
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