あなたに捧げる愛などありません

風見ゆうみ

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14 普通のお守り

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 マジルカ王国の住人ではない私たちには魔法が使えない。
 動きを止められてしまったバニャ様は何の抵抗もできずに、問題の魔導具は押収されることになった。

「今、この場で鑑定まではできませんので、持ち帰らせていただきます」

 ディード様が笑顔で言うと、バニャ様は彼を睨みつけて叫ぶ。

「返しなさいよ! 何もやましいことはないわ! 別に魔導具を持っていることは罪ではないでしょう! 人の物を奪うだなんて泥棒と一緒よ」
「泥棒と一緒にされるのはどうかと思いますが……。まあ、そうですね。普通の魔導具なら誰が持っていても罪には問われません。ですが、人の心を操るような魔導具であれば、それを持っているだけでも、かなり重い罪になりますよ」
「私の国には魔導具の使用についての罰則はないのよ!」
 
 ディード様にバニャ様が勝ち誇ったような笑みを浮かべて言った。

「この国にはなくても、魔導具についての使用契約書の違反になりますから、マジルカ王国の罰則が適用されますよ」
「そ、そんなことって……」

 バニャ様は知らなかったのか、焦った表情になる。

「ど、どういうことですか、シア様」

 今まで黙っていたパオラさんも、雲行きが怪しくなってきたことに気がついたのか、私に話しかけてきたので答える。

「パオラさんは商会の娘なのだから、魔導具についての販売規則を知っているでしょう?」

 パオラさんは少し考えたあと、手を打って話し始めた。

「そういえば魔導具を仕入れるときに契約書にサインをさせられるわ。もし、使用用途とは違う魔法の効果が判明したら、ただちに客に返品させること。商店側もマジルカ王国に連絡して魔導具を返して、正しい使用用途のものに交換してもらうって。客側にもそれを承諾するというサインをさせてる」
「そういうことよ」

 頷いてから、バニャ様のほうに顔を向けて尋ねる。

「バニャ様の持っていらした魔導具の効果はどんなものなのです?」
「普通のお守りよ。自分を守るためのね」

 バニャ様は魔道士が持っている手のひらサイズの人形を見て答えた。

 人形は人の形をしていて、くるくるの長い髪の毛に私と同じ髪色と瞳だった。
 年季が入っているようで、かなり薄汚れている。

 私を呪っているようにしか思えない。

「普通のお守りかどうかは、こちらで確認させていただきます。何か違う魔法が見つかった場合にどうなるかは過去の事例でも調べて確認してくださいね」

 ディード様はバニャ様にそう言ってから、私に笑顔を向ける。

「ヤバスさんとの離婚に向けてのお手伝いをいたしますので、その打ち合わせをするために一緒に食事をしませんか。二人きりではなく部下もいますので浮気にはならないでしょう」

 ディード様が言い終えると、他の魔道士の人が私に向かってぺこりと頭を下げた。

「駄目に決まっているでしょう! シア様、食事になんて行ったら、浮気しているって噂を流しますよ!」
「ちょっとパオラ、それはやめなさい!」 
 
 パオラさんとバニャ様が喧嘩を始めたので、ディード様はパオラさんにも動けなくなる魔法をかけた。

「この家を出て少し離れた所で解除しますね。とにかく行きましょうか」
「は、はい」

 ディード様に促されるまま、私は彼らが予約しているというレストランに向かったのだった。

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