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9 魔法の監査役
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黙って俯いてしまった私を見て、ディード様が慌てて謝ってくる。
「何でも正直にいえば良いと言うものではなかったですね。申し訳ございません」
「いえ、本当のことですから」
顔を上げて苦笑してみせると、ディード様は眉尻を下げて口を開く。
「シアさんは元々、自分に自信のない方なのでしょう。そこに、あなたの夫の発言です。弱っている心に魅了のような魔法をかけられたのであれば、余計に効いてしまったのでしょう」
「では、私が今、ヤバス様に対して冷静になれているのは、ディード様がかけてくださった魔法のおかげなのでしょうか」
「そうですね。僕がかけた魔法は、僕よりも魔力が多い人間でない限り、あなたに害をなす魔法はどんな魔法でも効きません」
「ディード様よりも魔力が多い方は、どれくらいいらっしゃるのでしょうか」
「今のところ、母しかいません。父は王家の血筋ですが脳筋なので、母が女王になっています」
ディード様は苦笑したあと、真剣な顔になって話を続ける。
「本来なら、人の心を操る魔法を使うことは国内外で禁止されています。魔道具を国外に持ち出すことも駄目です。あ、僕は王太子なので特例です」
それって、ディード様が悪い心に染まってしまったら恐ろしいわよね。
そう思っていると、ディード様は私の思考を読んだかのように教えてくれる。
「僕は国民が好きです。それに誰かを傷つけたりすることも好きではありません」
「失礼いたしました」
座ったまま頭を下げると、ディード様は手を振って笑う。
「いいえ。こう思っているのかなと思って言ってみたんですけど、やっぱり当たっていたんですね」
「申し訳ございません」
「謝らなくても良いですよ。そう思うことはおかしいことではありません。それから、もし、今の僕が悪の心に染まった場合は、攻撃魔法は母上に敵いませんから、一瞬で消されます」
「ま、まさか、自分の息子をそんな簡単に殺すだなんて」
「国民を守るためなら、それくらいの決断はしないといけないんです。それに、正気の僕はそんなことはしませんが、誰かに操られた場合、自分の力で人を傷つけたくないので消してもらったほうが良いんです」
笑顔で言っているけれど、王太子殿下という立場が、とても重い立場であるということは伝わってきた。
「私にかけていた魔法を解いてくださったようですが、それは良かったのですか?」
「他国の方で初めて会う方ですから、人となりがわかりませんし保険をかけさせていただいただけです。話を聞いていると、あなたは人を傷つけるタイプではなく、逆に傷つけられてしまうタイプでしょう」
まさに、今までそんな状態だったのだから、ディード様の言葉は間違っていない。
「あの、シアさん。魔法が悪いことに使われているのであれば、魔道士として放っておくわけにはいきません。ですので、近いうちにエビン公爵邸に招待していただけないでしょうか。できれば、僕の正体は告げないでもらえると助かります」
「ですが、ディード様に失礼なことをするかもしれません。正体は伝えておいたほうが良いのではないでしょうか」
「あなたの知り合いだと言ったら、僕も何かされる恐れがあるということですか?」
「はい。ヤバス様もそうですが、バニャ様が黙っていないと思います。どんな手を使ってでも、私から離そうとするはずです」
「シアさんを孤独にさせたいわけですね」
「そうじゃないかと思います」
冷静に考えてみれば、学園に通わせてもらえなくなってから、友人たちとの交流が一切なくなった。
私に友人がいれば、どこかで自分の悪事がバラされてしまうという恐怖があったのかもしれない。
ロイだけなら、抑えつけることができても、他の令嬢だと難しいのかもしれないわ。
「良いじゃないですか。僕に嫌なことをしてもらいましょう」
ディード様がとんでもないことを笑顔で言ったので、驚いて聞き返す。
「はい?」
「これは! となるくらいまで、僕に嫌なことをしてもらいましょう。そして、最終的に僕の正体を伝えたら楽しそうじゃないですか? そうすれば、シアさんの義母からの攻撃も少しはマシになるでしょう。というか、離婚もできますよ」
「ですが、ディード様にそこまでしてもらうわけにはいきません! それに、私は人妻ですから、いきなり男性の友人ができたと言ったら世間体が良くないかと思います」
「では、友人ではなく魔法の監査役が来たということにしましょうか。先日の会合で、あなたから魔法の気配を感じ取ったということにして、ヤバス邸に手紙を送ります。他国間になりますから、そちらの国王陛下にも連絡をいれておきますね」
ディード様は爽やかな笑みを浮かべて言った。
私にとっては有り難い申し出だ。
でも、ここまでしてもらっても良いの?
悩んでいるうちに、ディード様の中では話が決まってしまったようで、打ち合わせが始まってしまったのだった。
「何でも正直にいえば良いと言うものではなかったですね。申し訳ございません」
「いえ、本当のことですから」
顔を上げて苦笑してみせると、ディード様は眉尻を下げて口を開く。
「シアさんは元々、自分に自信のない方なのでしょう。そこに、あなたの夫の発言です。弱っている心に魅了のような魔法をかけられたのであれば、余計に効いてしまったのでしょう」
「では、私が今、ヤバス様に対して冷静になれているのは、ディード様がかけてくださった魔法のおかげなのでしょうか」
「そうですね。僕がかけた魔法は、僕よりも魔力が多い人間でない限り、あなたに害をなす魔法はどんな魔法でも効きません」
「ディード様よりも魔力が多い方は、どれくらいいらっしゃるのでしょうか」
「今のところ、母しかいません。父は王家の血筋ですが脳筋なので、母が女王になっています」
ディード様は苦笑したあと、真剣な顔になって話を続ける。
「本来なら、人の心を操る魔法を使うことは国内外で禁止されています。魔道具を国外に持ち出すことも駄目です。あ、僕は王太子なので特例です」
それって、ディード様が悪い心に染まってしまったら恐ろしいわよね。
そう思っていると、ディード様は私の思考を読んだかのように教えてくれる。
「僕は国民が好きです。それに誰かを傷つけたりすることも好きではありません」
「失礼いたしました」
座ったまま頭を下げると、ディード様は手を振って笑う。
「いいえ。こう思っているのかなと思って言ってみたんですけど、やっぱり当たっていたんですね」
「申し訳ございません」
「謝らなくても良いですよ。そう思うことはおかしいことではありません。それから、もし、今の僕が悪の心に染まった場合は、攻撃魔法は母上に敵いませんから、一瞬で消されます」
「ま、まさか、自分の息子をそんな簡単に殺すだなんて」
「国民を守るためなら、それくらいの決断はしないといけないんです。それに、正気の僕はそんなことはしませんが、誰かに操られた場合、自分の力で人を傷つけたくないので消してもらったほうが良いんです」
笑顔で言っているけれど、王太子殿下という立場が、とても重い立場であるということは伝わってきた。
「私にかけていた魔法を解いてくださったようですが、それは良かったのですか?」
「他国の方で初めて会う方ですから、人となりがわかりませんし保険をかけさせていただいただけです。話を聞いていると、あなたは人を傷つけるタイプではなく、逆に傷つけられてしまうタイプでしょう」
まさに、今までそんな状態だったのだから、ディード様の言葉は間違っていない。
「あの、シアさん。魔法が悪いことに使われているのであれば、魔道士として放っておくわけにはいきません。ですので、近いうちにエビン公爵邸に招待していただけないでしょうか。できれば、僕の正体は告げないでもらえると助かります」
「ですが、ディード様に失礼なことをするかもしれません。正体は伝えておいたほうが良いのではないでしょうか」
「あなたの知り合いだと言ったら、僕も何かされる恐れがあるということですか?」
「はい。ヤバス様もそうですが、バニャ様が黙っていないと思います。どんな手を使ってでも、私から離そうとするはずです」
「シアさんを孤独にさせたいわけですね」
「そうじゃないかと思います」
冷静に考えてみれば、学園に通わせてもらえなくなってから、友人たちとの交流が一切なくなった。
私に友人がいれば、どこかで自分の悪事がバラされてしまうという恐怖があったのかもしれない。
ロイだけなら、抑えつけることができても、他の令嬢だと難しいのかもしれないわ。
「良いじゃないですか。僕に嫌なことをしてもらいましょう」
ディード様がとんでもないことを笑顔で言ったので、驚いて聞き返す。
「はい?」
「これは! となるくらいまで、僕に嫌なことをしてもらいましょう。そして、最終的に僕の正体を伝えたら楽しそうじゃないですか? そうすれば、シアさんの義母からの攻撃も少しはマシになるでしょう。というか、離婚もできますよ」
「ですが、ディード様にそこまでしてもらうわけにはいきません! それに、私は人妻ですから、いきなり男性の友人ができたと言ったら世間体が良くないかと思います」
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ディード様は爽やかな笑みを浮かべて言った。
私にとっては有り難い申し出だ。
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