6 / 27
5 離婚してください
しおりを挟む
「ちょっとなんて恰好なの! ヤバス! あなた、服くらい着て出てきなさい!」
バニャ様が両手で顔を覆って叫んだ。
「申し訳ございません! でも、母上だって覗くのはどうかと思いますよ!」
ヤバス様は慌てて部屋の奥に戻っていき、ガウンを羽織って戻ってきた。
「一体、何があったんです?」
そう言って、ヤバス様の後ろから、シーツで体を隠しながら現れたのは顔見知りの女性だった。
仕事で関わり合いのあるテンプ商会という大きな商店の娘だ。
彼女の父が経営している商店は日用品から珍しいものまで多くの商品を取り揃えている。
彼女が、店の商品を売りつけるために、よくこの屋敷に出入りしているのは知っていた。
でも、ヤバス様とここまでの関係になるくらいに近しい関係だとは思っていなかった。
「あら? そこにいらっしゃるのは……」
金色のストレートの長い髪を揺らして小首を傾げたテンプ商会の女性、たしか、パオラさんという名前だったか。
彼女は青色の瞳を私に向けて叫ぶ。
「大変です、ヤバス様! 奥様が戻られてますよ! しかも髪がストレートになっています!」
「ん? 何をって……、ま、まさか、シアなのか?」
ヤバス様は目を見開いて、私を見つめた。
そして、なぜか体を震わせながら近付いていくる。
「なんて美しいんだ」
ヤバス様は喜びで打ち震えているようだった。
髪の毛がストレートになったというだけで、そんなに感動するものなの?
わたしだって感動したのは確かだけれど、ここまでじゃなかった。
ヤバス様に、こんなにも喜んでもらえているのに、なぜだか私はちっとも嬉しくない。
そんな私の様子などおかまいなしに、ヤバス様は笑顔で話しかけてくる。
「シア、僕のために変わってくれたんだな。母上、これで跡継ぎの問題はなくなりましたよ!」
「何を言っているの! シアさんは魔法で髪の毛をストレートにしてもらったのよ! だから、生まれてくる子供は醜い髪の毛になるに決まっているじゃないの!」
「僕に似れば大丈夫ですよ」
ヤバス様は今までに見せたことのないような幸せそうな表情を浮かべて、私に手を差し出してくる。
「今までは悪かったよ。これからは一緒に眠って、一緒に子供を作ろう」
「ちょっと待ってください! わたしはどうなるんですか!?」
パオラさんが食ってかかると、ヤバス様は肩をすくめた。
「君にはもう用はないかな」
「なんですって!」
「待ちなさい、ヤバス! 子供は彼女に生んでもらわないと駄目よ!」
バニャ様がヤバス様に叫ぶと、パオラさんが同意する。
「そうです! わたしは初めてをあなたに捧げたんですよ! それに、公爵家で贅沢な暮らしができると聞いたから身を売ったのに捨てるなんて許せません!」
パオラさんがヤバス様に詰め寄っている間に、バニャ様の怒りの矛先は私に変わる。
「あなたが余計なことをするからいけないのよ! 髪の毛を戻してもらいなさい!」
なぜかしら。
ヤバス様に対して、急に冷めてしまった。
私にはヤバス様しかいないと思っていた。
それは、ヤバス様には私しかいないと思っていたからというのもある。
でも、ヤバス様は私だけじゃなかった。
他の女性と体の関係を持った。
しかも、私がいない間、ずっとだと言う。
信じられないし気持ち悪い。
深呼吸してから口を開く。
「あの、ヤバス様」
「ん? どうかしたのか?」
パオラさんに睨まれているというのに、ヤバス様は笑顔でこちらに顔を向けた。
「離婚してください」
「「「えっ」」」
ヤバス様だけでなく、パオラさんとバニャ様までもが聞き返してきた。
だから、もう一度言う。
「申し訳ございませんが、離婚していただけないでしょうか」
バニャ様が両手で顔を覆って叫んだ。
「申し訳ございません! でも、母上だって覗くのはどうかと思いますよ!」
ヤバス様は慌てて部屋の奥に戻っていき、ガウンを羽織って戻ってきた。
「一体、何があったんです?」
そう言って、ヤバス様の後ろから、シーツで体を隠しながら現れたのは顔見知りの女性だった。
仕事で関わり合いのあるテンプ商会という大きな商店の娘だ。
彼女の父が経営している商店は日用品から珍しいものまで多くの商品を取り揃えている。
彼女が、店の商品を売りつけるために、よくこの屋敷に出入りしているのは知っていた。
でも、ヤバス様とここまでの関係になるくらいに近しい関係だとは思っていなかった。
「あら? そこにいらっしゃるのは……」
金色のストレートの長い髪を揺らして小首を傾げたテンプ商会の女性、たしか、パオラさんという名前だったか。
彼女は青色の瞳を私に向けて叫ぶ。
「大変です、ヤバス様! 奥様が戻られてますよ! しかも髪がストレートになっています!」
「ん? 何をって……、ま、まさか、シアなのか?」
ヤバス様は目を見開いて、私を見つめた。
そして、なぜか体を震わせながら近付いていくる。
「なんて美しいんだ」
ヤバス様は喜びで打ち震えているようだった。
髪の毛がストレートになったというだけで、そんなに感動するものなの?
わたしだって感動したのは確かだけれど、ここまでじゃなかった。
ヤバス様に、こんなにも喜んでもらえているのに、なぜだか私はちっとも嬉しくない。
そんな私の様子などおかまいなしに、ヤバス様は笑顔で話しかけてくる。
「シア、僕のために変わってくれたんだな。母上、これで跡継ぎの問題はなくなりましたよ!」
「何を言っているの! シアさんは魔法で髪の毛をストレートにしてもらったのよ! だから、生まれてくる子供は醜い髪の毛になるに決まっているじゃないの!」
「僕に似れば大丈夫ですよ」
ヤバス様は今までに見せたことのないような幸せそうな表情を浮かべて、私に手を差し出してくる。
「今までは悪かったよ。これからは一緒に眠って、一緒に子供を作ろう」
「ちょっと待ってください! わたしはどうなるんですか!?」
パオラさんが食ってかかると、ヤバス様は肩をすくめた。
「君にはもう用はないかな」
「なんですって!」
「待ちなさい、ヤバス! 子供は彼女に生んでもらわないと駄目よ!」
バニャ様がヤバス様に叫ぶと、パオラさんが同意する。
「そうです! わたしは初めてをあなたに捧げたんですよ! それに、公爵家で贅沢な暮らしができると聞いたから身を売ったのに捨てるなんて許せません!」
パオラさんがヤバス様に詰め寄っている間に、バニャ様の怒りの矛先は私に変わる。
「あなたが余計なことをするからいけないのよ! 髪の毛を戻してもらいなさい!」
なぜかしら。
ヤバス様に対して、急に冷めてしまった。
私にはヤバス様しかいないと思っていた。
それは、ヤバス様には私しかいないと思っていたからというのもある。
でも、ヤバス様は私だけじゃなかった。
他の女性と体の関係を持った。
しかも、私がいない間、ずっとだと言う。
信じられないし気持ち悪い。
深呼吸してから口を開く。
「あの、ヤバス様」
「ん? どうかしたのか?」
パオラさんに睨まれているというのに、ヤバス様は笑顔でこちらに顔を向けた。
「離婚してください」
「「「えっ」」」
ヤバス様だけでなく、パオラさんとバニャ様までもが聞き返してきた。
だから、もう一度言う。
「申し訳ございませんが、離婚していただけないでしょうか」
106
お気に入りに追加
1,358
あなたにおすすめの小説

【完結】正妃に裏切られて、どんな気持ちですか?
かとるり
恋愛
両国の繁栄のために嫁ぐことになった王女スカーレット。
しかし彼女を待ち受けていたのは王太子ディランからの信じられない言葉だった。
「スカーレット、俺はシェイラを正妃にすることに決めた」

〖完結〗その愛、お断りします。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った……
彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。
邪魔なのは、私だ。
そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。
「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。
冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない!
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。
加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。
そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

大嫌いなんて言ってごめんと今さら言われても
はなまる
恋愛
シルベスタ・オリヴィエは学園に入った日に恋に落ちる。相手はフェリオ・マーカス侯爵令息。見目麗しい彼は女生徒から大人気でいつも彼の周りにはたくさんの令嬢がいた。彼を独占しないファンクラブまで存在すると言う人気ぶりで、そんな中でシルベスタはファンクアブに入り彼を応援するがシルベスタの行いがあまりに過激だったためついにフェリオから大っ嫌いだ。俺に近づくな!と言い渡された。
だが、思わぬことでフェリオはシルベスタに助けを求めることになるが、オリヴィエ伯爵家はシルベスタを目に入れても可愛がっており彼女を泣かせた男の家になどとけんもほろろで。
フェリオの甘い誘いや言葉も時すでに遅く…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる