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3 念願のストレート
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「まあ! あなた、それは騙されているわよ! 典型的なやつだわ!」
会合が始まる前に少し話をしただけなのに、メミナ様は私のことを気に入ってくださり、会合が終わったあとは夕食に誘ってくれた。
そこで、今日、私がここに来た経緯や今までの出来事を話すと、メミナ様は食事の手を止めて怒り始めたのだ。
「典型的なやつ、ですか?」
「そうよ。あなたは悪くないのに強く言われることによって、自分が悪いと思い込まされているの!」
「ですが、私は本当に役立たずで、見た目もよくありません」
「そういうところが騙されていると言うのよ。見た目なんて関係ないでしょう! それに、あなたの見た目が悪いだなんて、私は思わないわ!」
ふうとメミナ様は大きく息を吐いてから、横に座っているローブを着た美少年、ディード様に問いかける。
「こういう状態になってしまったら、魔法で目を覚ますことはできないのかしら?」
「薄情なことを言うように聞こえるかもしれませんが、本人が自覚しない限りは同じことを繰り返すだけでしょう」
「そうよね」
メミナ様は眉尻を下げて、また大きな息を吐いた。
ディード様はメミナ様専属の魔道士だそうで、使えない魔法のほうが少ないという、すご腕の魔道士なのだそうだ。
女王陛下と、そんなにすごい魔道士の方に悩みを聞いていただけただけでも有り難い。
「メミナ様のそのお気持ちだけで十分でございます」
「あなたはそれで良いかもしれないけれど、私は納得いかないわ。それにあなたの義理のお母様も普通の人とは違っているんじゃない? 言っていることややっていることがおかしいわよ」
ここだけの話ということにしてもらい、メミナ様とディード様には日頃のバミュ様からの仕打ちも話していたので、メミナ様は納得がいかないといった表情で言った。
「それについては私もそうは思っているのですが、私という人間が駄目だからそう言われてしまうのかとも思いますし」
「どうしてあなたは、そんな卑屈なのよ。もっと自分に自信を持ちなさい。今日の会合だって、あなたは男性ばかりの中でしっかり発言できていたわ。そんなあなたが、そこまで自分を卑下する必要はないのよ」
メミナ様は本当に優しい方のようで、まるで自分のことのように怒ってくれた。
「一つ、お聞きしても良いですか?」
ディード様が右手を少しだけ挙げて、私に話しかけてきた。
「どうぞ」
「エビン公爵夫人がそこまで自分を卑下するのは、自分に自信がないからですか? それとも外見や性格が良くないとエビン公爵や義母から言われるからでしょうか?」
「それは両方だと思います。こんな、くりくりの髪の毛じゃなかったら、ヤバス様に愛してもらえていたと思うんです」
「もし、髪の毛がストレートだったら、今の状況とはまた違っていたと思うのですね?」
「はい。ヤバス様はとても真面目な御方ですから、浮気もせず、禁欲もしてくださっているのです。私の容姿が美しくなればヤバス様に、そんな負担をかけずに済みますから」
笑顔で頷くと、ディード様は困った顔になって、メミナ様に話しかける。
「これは重症ですね。ただ、ここまで来ると、良くない魔法をかけられている可能性もあります。自分の言っていることに矛盾があるのに、それに気づけなくなっているようです」
「それは恋愛面に関してだけかしら?」
「恋愛面というよりかは、エビン公爵家の人間に対してだけではないでしょうか」
ディード様はメミナ様との話を止めて、私を見て尋ねてくる。
「あなたの髪をストレートにして差し上げましょうか?」
「そんなことができるのですか?」
「とある御方の命令で、色々な魔法を使えるようになったんです」
ディード様は苦笑したけれど、隣に座るメミナ様はなぜか誇らしげだった。
「ご迷惑でなければ、ストレートにしていただけると嬉しいです。ただ、あまり高いお金は払えません。公爵家のお金を使うわけにはいきませんので」
「お金ははいりません。そのかわり、あなたにとって良くない魔法を退ける守護魔法もかけさせてもらえませんか」
「それは構いませんが、そうなりますと、私にとってメリットなだけで、ディード様には何もメリットがないのではありませんか?」
どうして、ディード様がここまでしてくださるのかわからなくて聞いてみると、柔らかな笑みを浮かべて教えてくれる。
「困っている人を見捨てるわけにはいかないのと、同じ魔道士として許せないんですよ」
同じ魔道士というのはどういう意味なのか聞こうとしたところで、ディード様が右手の手のひらを上に向けた。
すると、手のひらサイズの光の円が浮かび上がり、その円の中を金色の文字がくるくると踊るように舞った。
何の文字か確認しようとしたけれど、見たことのない文字なので、意味はまったくわからない。
そして、すぐにその円も文字も消えてなくなった。
一体何だったのだろうかと訝しげに思っていると、ディード様がローブのポケットの中から手鏡を取り出して、私に差し出してくる。
「どうぞ、確認してみてください」
手鏡を受け取り、鏡の中の自分を見て驚いた。
馬鹿にされていた、くるくるの髪はどこにも見当たらず、ボリュームもまったくない。
私の髪は、念願のストレートの髪になっていた。
会合が始まる前に少し話をしただけなのに、メミナ様は私のことを気に入ってくださり、会合が終わったあとは夕食に誘ってくれた。
そこで、今日、私がここに来た経緯や今までの出来事を話すと、メミナ様は食事の手を止めて怒り始めたのだ。
「典型的なやつ、ですか?」
「そうよ。あなたは悪くないのに強く言われることによって、自分が悪いと思い込まされているの!」
「ですが、私は本当に役立たずで、見た目もよくありません」
「そういうところが騙されていると言うのよ。見た目なんて関係ないでしょう! それに、あなたの見た目が悪いだなんて、私は思わないわ!」
ふうとメミナ様は大きく息を吐いてから、横に座っているローブを着た美少年、ディード様に問いかける。
「こういう状態になってしまったら、魔法で目を覚ますことはできないのかしら?」
「薄情なことを言うように聞こえるかもしれませんが、本人が自覚しない限りは同じことを繰り返すだけでしょう」
「そうよね」
メミナ様は眉尻を下げて、また大きな息を吐いた。
ディード様はメミナ様専属の魔道士だそうで、使えない魔法のほうが少ないという、すご腕の魔道士なのだそうだ。
女王陛下と、そんなにすごい魔道士の方に悩みを聞いていただけただけでも有り難い。
「メミナ様のそのお気持ちだけで十分でございます」
「あなたはそれで良いかもしれないけれど、私は納得いかないわ。それにあなたの義理のお母様も普通の人とは違っているんじゃない? 言っていることややっていることがおかしいわよ」
ここだけの話ということにしてもらい、メミナ様とディード様には日頃のバミュ様からの仕打ちも話していたので、メミナ様は納得がいかないといった表情で言った。
「それについては私もそうは思っているのですが、私という人間が駄目だからそう言われてしまうのかとも思いますし」
「どうしてあなたは、そんな卑屈なのよ。もっと自分に自信を持ちなさい。今日の会合だって、あなたは男性ばかりの中でしっかり発言できていたわ。そんなあなたが、そこまで自分を卑下する必要はないのよ」
メミナ様は本当に優しい方のようで、まるで自分のことのように怒ってくれた。
「一つ、お聞きしても良いですか?」
ディード様が右手を少しだけ挙げて、私に話しかけてきた。
「どうぞ」
「エビン公爵夫人がそこまで自分を卑下するのは、自分に自信がないからですか? それとも外見や性格が良くないとエビン公爵や義母から言われるからでしょうか?」
「それは両方だと思います。こんな、くりくりの髪の毛じゃなかったら、ヤバス様に愛してもらえていたと思うんです」
「もし、髪の毛がストレートだったら、今の状況とはまた違っていたと思うのですね?」
「はい。ヤバス様はとても真面目な御方ですから、浮気もせず、禁欲もしてくださっているのです。私の容姿が美しくなればヤバス様に、そんな負担をかけずに済みますから」
笑顔で頷くと、ディード様は困った顔になって、メミナ様に話しかける。
「これは重症ですね。ただ、ここまで来ると、良くない魔法をかけられている可能性もあります。自分の言っていることに矛盾があるのに、それに気づけなくなっているようです」
「それは恋愛面に関してだけかしら?」
「恋愛面というよりかは、エビン公爵家の人間に対してだけではないでしょうか」
ディード様はメミナ様との話を止めて、私を見て尋ねてくる。
「あなたの髪をストレートにして差し上げましょうか?」
「そんなことができるのですか?」
「とある御方の命令で、色々な魔法を使えるようになったんです」
ディード様は苦笑したけれど、隣に座るメミナ様はなぜか誇らしげだった。
「ご迷惑でなければ、ストレートにしていただけると嬉しいです。ただ、あまり高いお金は払えません。公爵家のお金を使うわけにはいきませんので」
「お金ははいりません。そのかわり、あなたにとって良くない魔法を退ける守護魔法もかけさせてもらえませんか」
「それは構いませんが、そうなりますと、私にとってメリットなだけで、ディード様には何もメリットがないのではありませんか?」
どうして、ディード様がここまでしてくださるのかわからなくて聞いてみると、柔らかな笑みを浮かべて教えてくれる。
「困っている人を見捨てるわけにはいかないのと、同じ魔道士として許せないんですよ」
同じ魔道士というのはどういう意味なのか聞こうとしたところで、ディード様が右手の手のひらを上に向けた。
すると、手のひらサイズの光の円が浮かび上がり、その円の中を金色の文字がくるくると踊るように舞った。
何の文字か確認しようとしたけれど、見たことのない文字なので、意味はまったくわからない。
そして、すぐにその円も文字も消えてなくなった。
一体何だったのだろうかと訝しげに思っていると、ディード様がローブのポケットの中から手鏡を取り出して、私に差し出してくる。
「どうぞ、確認してみてください」
手鏡を受け取り、鏡の中の自分を見て驚いた。
馬鹿にされていた、くるくるの髪はどこにも見当たらず、ボリュームもまったくない。
私の髪は、念願のストレートの髪になっていた。
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