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1 世界一、懐が深い人
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私が嫁いでから、義母となったバニャ様の嫌がらせは激しくなった。
相変わらず、誰かに見られないところで意地悪をしてくるから、ヤバス様に言っても何の意味がなかった。
「母上が意地悪なんかするわけがない。人を貶めようとするのはやめるんだ。君の被害妄想だよ」
そう言って、ヤバス様は私の言葉を信じてくれなかった。
心が疲弊していた私は、反論することさえもしなかった。
とある日の夜、ヤバス様たちと一緒に夕食をとっていると、突然、バニャ様が食事の手を止めて大きく息を吐いた。
「結婚は失敗だったわね」
「どうかされましたか、母上?」
「だって、見なさいよ! この不吉な黒い髪の女を!」
斜向かいに座るバニャ様は私を指差して叫んだ。
「しょうがないじゃないですか。シアは使えます。婚約破棄するにはもったいなかったんです」
「使える人間なら他にもいるでしょう! このままでは、あんな縮れ毛を受け継いだ子供が、この家の跡継ぎになるのかもしれないのよ!」
バニャ様は金色のサラサラの横髪を後ろにはらって、話を聞いていた私を睨みつけた。
バニャ様は私たちに体の関係がないことを知らないから、そう言っているのね。
「大丈夫ですよ。そんなことは絶対にありえませんから」
ヤバス様はバニャ様にそう言ったあと、ダイニングテーブルを挟んだ向かい側に座る私に話しかけてくる。
「シア、悪いけど、10日後に隣国で王家や筆頭公爵家の代表が集まる会議があるんだ。僕の代わりに行ってきてくれないか」
「それは構わないのですが、当主のヤバス様が出席されなくても大丈夫なのですか?」
「会議の議題は君のほうが詳しいと思うから行ってもらうんだよ。それに、僕はどうしても外せない用事があってね」
ヤバス様は優しい笑顔を見せて、私にお願いしてくる。
「頼むよ、シア。君しかいないんだ」
君しかいないという言葉を聞いて胸が躍った。
ヤバス様に必要とされていると思うだけで嬉しかった。
「承知しました」
私が頷くと、ヤバス様は満足そうな顔をして、隣に座るバニャ様に話しかける。
「これで、跡継ぎの問題は解決すると思います」
「どういうことなの?」
バニャ様が眉間のシワを深くして尋ねると、ヤバス様はバニャ様に何か耳打ちした。
すると、バニャ様の顔は満面の笑みに変わり、ヤバス様を抱きしめた。
「なんて賢い子なの! そうよ! その手があったわね!」
「でしょう? 僕もかなり悩んで出した答えなんです。これで、母上も少しは安心でしょう?」
「ええ! 本当に外せない用事だわ!」
バニャ様は手を叩いて喜んだ。
私が二人を訝しげに見つめると、ヤバス様とバニャ様は笑う。
「シア、君の髪は本当に醜い髪だね。髪留めで止めても意味がないんだな」
「……申し訳ございません」
前髪のクセが特に強いので、髪留めでサイドに止めているのだけれど、それでもヤバス様は気に入らないらしい。
「食事が不味くなるけれど、今日は気分が良いから許してあげるわ。いい、シアさん? あなたには言ってくれる人がいないから私が言ってあげてるのよ? 嫌なことをされているだなんて思わないでね?」
バニャ様はそう前置きしてから、話を続ける。
「あなたは本当に醜いわ。ヤバスがいなければ、あなたは一生独身だったでしょう。もらってもらえただけ有り難く思いなさい」
「……承知しました」
ヤバス様のほうを見ると、胸の前で腕を組んで私を見つめていた。
だから、深々と頭を下げる。
「ヤバス様、私を妻にしていただき、本当にありがとうございます」
「そうだね。その謙虚な気持ちを忘れないように」
「あら、ヤバス、何を言っているの。謙虚じゃないわ。当たり前のことよ」
「そうですね」
あはは、うふふと、ヤバス様とバニャ様は笑った。
私は醜い。
だから、ヤバス様にしか妻にしてもらえない。
こんな私を妻にしてくれるヤバス様は、世界一、懐が深い人なのだ。
まるで、洗脳されているみたいに、この時の私はそう信じて疑わなかった。
相変わらず、誰かに見られないところで意地悪をしてくるから、ヤバス様に言っても何の意味がなかった。
「母上が意地悪なんかするわけがない。人を貶めようとするのはやめるんだ。君の被害妄想だよ」
そう言って、ヤバス様は私の言葉を信じてくれなかった。
心が疲弊していた私は、反論することさえもしなかった。
とある日の夜、ヤバス様たちと一緒に夕食をとっていると、突然、バニャ様が食事の手を止めて大きく息を吐いた。
「結婚は失敗だったわね」
「どうかされましたか、母上?」
「だって、見なさいよ! この不吉な黒い髪の女を!」
斜向かいに座るバニャ様は私を指差して叫んだ。
「しょうがないじゃないですか。シアは使えます。婚約破棄するにはもったいなかったんです」
「使える人間なら他にもいるでしょう! このままでは、あんな縮れ毛を受け継いだ子供が、この家の跡継ぎになるのかもしれないのよ!」
バニャ様は金色のサラサラの横髪を後ろにはらって、話を聞いていた私を睨みつけた。
バニャ様は私たちに体の関係がないことを知らないから、そう言っているのね。
「大丈夫ですよ。そんなことは絶対にありえませんから」
ヤバス様はバニャ様にそう言ったあと、ダイニングテーブルを挟んだ向かい側に座る私に話しかけてくる。
「シア、悪いけど、10日後に隣国で王家や筆頭公爵家の代表が集まる会議があるんだ。僕の代わりに行ってきてくれないか」
「それは構わないのですが、当主のヤバス様が出席されなくても大丈夫なのですか?」
「会議の議題は君のほうが詳しいと思うから行ってもらうんだよ。それに、僕はどうしても外せない用事があってね」
ヤバス様は優しい笑顔を見せて、私にお願いしてくる。
「頼むよ、シア。君しかいないんだ」
君しかいないという言葉を聞いて胸が躍った。
ヤバス様に必要とされていると思うだけで嬉しかった。
「承知しました」
私が頷くと、ヤバス様は満足そうな顔をして、隣に座るバニャ様に話しかける。
「これで、跡継ぎの問題は解決すると思います」
「どういうことなの?」
バニャ様が眉間のシワを深くして尋ねると、ヤバス様はバニャ様に何か耳打ちした。
すると、バニャ様の顔は満面の笑みに変わり、ヤバス様を抱きしめた。
「なんて賢い子なの! そうよ! その手があったわね!」
「でしょう? 僕もかなり悩んで出した答えなんです。これで、母上も少しは安心でしょう?」
「ええ! 本当に外せない用事だわ!」
バニャ様は手を叩いて喜んだ。
私が二人を訝しげに見つめると、ヤバス様とバニャ様は笑う。
「シア、君の髪は本当に醜い髪だね。髪留めで止めても意味がないんだな」
「……申し訳ございません」
前髪のクセが特に強いので、髪留めでサイドに止めているのだけれど、それでもヤバス様は気に入らないらしい。
「食事が不味くなるけれど、今日は気分が良いから許してあげるわ。いい、シアさん? あなたには言ってくれる人がいないから私が言ってあげてるのよ? 嫌なことをされているだなんて思わないでね?」
バニャ様はそう前置きしてから、話を続ける。
「あなたは本当に醜いわ。ヤバスがいなければ、あなたは一生独身だったでしょう。もらってもらえただけ有り難く思いなさい」
「……承知しました」
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だから、深々と頭を下げる。
「ヤバス様、私を妻にしていただき、本当にありがとうございます」
「そうだね。その謙虚な気持ちを忘れないように」
「あら、ヤバス、何を言っているの。謙虚じゃないわ。当たり前のことよ」
「そうですね」
あはは、うふふと、ヤバス様とバニャ様は笑った。
私は醜い。
だから、ヤバス様にしか妻にしてもらえない。
こんな私を妻にしてくれるヤバス様は、世界一、懐が深い人なのだ。
まるで、洗脳されているみたいに、この時の私はそう信じて疑わなかった。
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