あなたに捧げる愛などありません

風見ゆうみ

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2  マジルカ王国の女王陛下

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「信じられませんよ。王族や各国の筆頭公爵家しか集まらない会合に、当主本人が行かずに妻を行かせるだなんて」

 二つ年下の私の可愛い弟である、ロイが整った顔を歪めて言った。

 今、私とロイは隣国の城に向かっていた。

 会合が行われる隣国の城までは馬車で3日かかるので、弟のロイが心配だと言って付いてきてくれたのだ。

「しょうがないわ。ヤバス様には大切な用事があるみたいなの」
「王族が集まる会合より大切な用事ってなんですか!?」
「そんなに怒らないでちょうだい。どんな用事なのか私には教えてもらえなかったのよ」
「姉上が怒らないから、僕が怒っているんですよ! もっと文句を言っても良いと思います!」

 ロイは長くて細い足を組むと、そっぽを向くかのように馬車の外を流れる景色を眺め始めた。

 今日はとても天気の良い日で、馬車の中から窓の外に広がる空を見上げると、雲一つない青空だ。

 彼はお父様似だから黒髪ではあるけれど、ストレートだから、小さな頃はロイのことがとても羨ましかった。

 私もロイのような髪質なら、ヤバス様やバニャ様に優しくしてもらえていたかもしれないと思ったから。

 ロイは昔から、ヤバス様のことを良く思っていなかった。
 結婚も最後まで反対してくれていた。

 ヤバス様と結婚したことで愛想を尽かされるかと思っていたけれど、ロイは私を見捨てなかった。
 
 バミュ様からの嫌がらせに耐えられるのは、ロイがいてくれるからであり、ロイに迷惑をかけたくないからでもある。

 バミュ様から受けている仕打ちをロイに話したら、社交界に噂を流すはずだ。

 そんなことになったら、今度はロイがヤバス様に潰されてしまう。
 それだけは駄目。

 それに、こんなことを思っていることは馬鹿だとわかってはいるけれど、まだ、ヤバス様が私のことを大事にしてくれていると信じていたかった。

 私も黙って外を見つめていると、ロイが話しかけてきた。

「シア姉さま」
「何かしら」
「シア姉さまは、ヤバス様に自分を卑下するように誘導されているということを忘れないでください」
「そんな! ヤバス様はそんな人じゃないわ。私が駄目な人間なのは本当のことなんだもの」
「目を覚ましてください。シア姉さま」

 ロイが悲しげな顔でそう言った時、目的地に着いた馬車が停まった。



*****


 ロイにはゲスト用に用意された部屋に行ってもらい、私は少し早い時間だったけれど、会合が行われる会場に向かった。

 廊下には騎士が数人と誰かの側近なのか、黒のローブを着た若い男性が立っていた
 ダークブルーのストレートの短髪の美少年で、ヤバス様が好みそうな綺麗な髪の持ち主だった。
 
 彼は私と目が合うと微笑んで頭を軽く下げてくれたので、私も一礼して部屋の中に入った。

 部屋に入ってすぐの場所に、大人数用の長テーブルが置かれていた。
 座る席があらかじめ決まっているのか、テーブルの上には等間隔に名札が置かれていた。

 この部屋にやって来たのは私が一番かと思ったけれどそうではなく、扉から一番離れた奥のほうの席に、ウェーブのかかった長いダークブルーの髪を背中におろした美しい女性が座っていた。

 マジルカ王国の女王陛下だとすぐにわかった。
 マジルカ王国は世界の中で、魔法使いが存在する唯一の国だ。
 王族の中で、一番魔力の高い人が国王、もしくは女王になると言われている。
 そして、現在は女王陛下で、名はメミナ様だったかと思う。

 メミナ様は私のほうに顔を向けると、大きな目を瞬かせた。

 たしか、年齢は40歳を過ぎているはずなのだけれど、魔法の力なのか、20代にしか見えないくらいに若々しい。

 綺麗な緑色の瞳に見つめられた私は、慌ててカーテシーをする。

「マジルカ王国の女王陛下にお会いできて光栄です」
「驚かせてごめんなさい。女性が来るとは思っていなかったから私も驚いてしまったの」

 メミナ様は立ち上がって、わざわざ、私のほうに近づいてきて話しかけてくる。

「あなたの黒髪は艶があるし、とても綺麗で羨ましいわ。しかも、ふわふわの髪質なのね。私もふわふわにしたいのだけど、自然には上手くできなくて魔法でたまにウェーブをかけてもらうのよ」
「……魔法で、ですか」
「ええ。良かったらお話をしない? 会合が始まるまでは時間があるでしょう? 私の周りは男性ばかりで女性とお話がしたかったの」
「私なんかでよろしければ」
「私が誘ったんだから、私なんかと言うのはおかしいわよ?」

 メミナ様は眉根を寄せて私に注意すると、すぐに笑顔になって、私を連れて会場の外に出た。


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