3 / 27
2 マジルカ王国の女王陛下
しおりを挟む
「信じられませんよ。王族や各国の筆頭公爵家しか集まらない会合に、当主本人が行かずに妻を行かせるだなんて」
二つ年下の私の可愛い弟である、ロイが整った顔を歪めて言った。
今、私とロイは隣国の城に向かっていた。
会合が行われる隣国の城までは馬車で3日かかるので、弟のロイが心配だと言って付いてきてくれたのだ。
「しょうがないわ。ヤバス様には大切な用事があるみたいなの」
「王族が集まる会合より大切な用事ってなんですか!?」
「そんなに怒らないでちょうだい。どんな用事なのか私には教えてもらえなかったのよ」
「姉上が怒らないから、僕が怒っているんですよ! もっと文句を言っても良いと思います!」
ロイは長くて細い足を組むと、そっぽを向くかのように馬車の外を流れる景色を眺め始めた。
今日はとても天気の良い日で、馬車の中から窓の外に広がる空を見上げると、雲一つない青空だ。
彼はお父様似だから黒髪ではあるけれど、ストレートだから、小さな頃はロイのことがとても羨ましかった。
私もロイのような髪質なら、ヤバス様やバニャ様に優しくしてもらえていたかもしれないと思ったから。
ロイは昔から、ヤバス様のことを良く思っていなかった。
結婚も最後まで反対してくれていた。
ヤバス様と結婚したことで愛想を尽かされるかと思っていたけれど、ロイは私を見捨てなかった。
バミュ様からの嫌がらせに耐えられるのは、ロイがいてくれるからであり、ロイに迷惑をかけたくないからでもある。
バミュ様から受けている仕打ちをロイに話したら、社交界に噂を流すはずだ。
そんなことになったら、今度はロイがヤバス様に潰されてしまう。
それだけは駄目。
それに、こんなことを思っていることは馬鹿だとわかってはいるけれど、まだ、ヤバス様が私のことを大事にしてくれていると信じていたかった。
私も黙って外を見つめていると、ロイが話しかけてきた。
「シア姉さま」
「何かしら」
「シア姉さまは、ヤバス様に自分を卑下するように誘導されているということを忘れないでください」
「そんな! ヤバス様はそんな人じゃないわ。私が駄目な人間なのは本当のことなんだもの」
「目を覚ましてください。シア姉さま」
ロイが悲しげな顔でそう言った時、目的地に着いた馬車が停まった。
*****
ロイにはゲスト用に用意された部屋に行ってもらい、私は少し早い時間だったけれど、会合が行われる会場に向かった。
廊下には騎士が数人と誰かの側近なのか、黒のローブを着た若い男性が立っていた
ダークブルーのストレートの短髪の美少年で、ヤバス様が好みそうな綺麗な髪の持ち主だった。
彼は私と目が合うと微笑んで頭を軽く下げてくれたので、私も一礼して部屋の中に入った。
部屋に入ってすぐの場所に、大人数用の長テーブルが置かれていた。
座る席があらかじめ決まっているのか、テーブルの上には等間隔に名札が置かれていた。
この部屋にやって来たのは私が一番かと思ったけれどそうではなく、扉から一番離れた奥のほうの席に、ウェーブのかかった長いダークブルーの髪を背中におろした美しい女性が座っていた。
マジルカ王国の女王陛下だとすぐにわかった。
マジルカ王国は世界の中で、魔法使いが存在する唯一の国だ。
王族の中で、一番魔力の高い人が国王、もしくは女王になると言われている。
そして、現在は女王陛下で、名はメミナ様だったかと思う。
メミナ様は私のほうに顔を向けると、大きな目を瞬かせた。
たしか、年齢は40歳を過ぎているはずなのだけれど、魔法の力なのか、20代にしか見えないくらいに若々しい。
綺麗な緑色の瞳に見つめられた私は、慌ててカーテシーをする。
「マジルカ王国の女王陛下にお会いできて光栄です」
「驚かせてごめんなさい。女性が来るとは思っていなかったから私も驚いてしまったの」
メミナ様は立ち上がって、わざわざ、私のほうに近づいてきて話しかけてくる。
「あなたの黒髪は艶があるし、とても綺麗で羨ましいわ。しかも、ふわふわの髪質なのね。私もふわふわにしたいのだけど、自然には上手くできなくて魔法でたまにウェーブをかけてもらうのよ」
「……魔法で、ですか」
「ええ。良かったらお話をしない? 会合が始まるまでは時間があるでしょう? 私の周りは男性ばかりで女性とお話がしたかったの」
「私なんかでよろしければ」
「私が誘ったんだから、私なんかと言うのはおかしいわよ?」
メミナ様は眉根を寄せて私に注意すると、すぐに笑顔になって、私を連れて会場の外に出た。
二つ年下の私の可愛い弟である、ロイが整った顔を歪めて言った。
今、私とロイは隣国の城に向かっていた。
会合が行われる隣国の城までは馬車で3日かかるので、弟のロイが心配だと言って付いてきてくれたのだ。
「しょうがないわ。ヤバス様には大切な用事があるみたいなの」
「王族が集まる会合より大切な用事ってなんですか!?」
「そんなに怒らないでちょうだい。どんな用事なのか私には教えてもらえなかったのよ」
「姉上が怒らないから、僕が怒っているんですよ! もっと文句を言っても良いと思います!」
ロイは長くて細い足を組むと、そっぽを向くかのように馬車の外を流れる景色を眺め始めた。
今日はとても天気の良い日で、馬車の中から窓の外に広がる空を見上げると、雲一つない青空だ。
彼はお父様似だから黒髪ではあるけれど、ストレートだから、小さな頃はロイのことがとても羨ましかった。
私もロイのような髪質なら、ヤバス様やバニャ様に優しくしてもらえていたかもしれないと思ったから。
ロイは昔から、ヤバス様のことを良く思っていなかった。
結婚も最後まで反対してくれていた。
ヤバス様と結婚したことで愛想を尽かされるかと思っていたけれど、ロイは私を見捨てなかった。
バミュ様からの嫌がらせに耐えられるのは、ロイがいてくれるからであり、ロイに迷惑をかけたくないからでもある。
バミュ様から受けている仕打ちをロイに話したら、社交界に噂を流すはずだ。
そんなことになったら、今度はロイがヤバス様に潰されてしまう。
それだけは駄目。
それに、こんなことを思っていることは馬鹿だとわかってはいるけれど、まだ、ヤバス様が私のことを大事にしてくれていると信じていたかった。
私も黙って外を見つめていると、ロイが話しかけてきた。
「シア姉さま」
「何かしら」
「シア姉さまは、ヤバス様に自分を卑下するように誘導されているということを忘れないでください」
「そんな! ヤバス様はそんな人じゃないわ。私が駄目な人間なのは本当のことなんだもの」
「目を覚ましてください。シア姉さま」
ロイが悲しげな顔でそう言った時、目的地に着いた馬車が停まった。
*****
ロイにはゲスト用に用意された部屋に行ってもらい、私は少し早い時間だったけれど、会合が行われる会場に向かった。
廊下には騎士が数人と誰かの側近なのか、黒のローブを着た若い男性が立っていた
ダークブルーのストレートの短髪の美少年で、ヤバス様が好みそうな綺麗な髪の持ち主だった。
彼は私と目が合うと微笑んで頭を軽く下げてくれたので、私も一礼して部屋の中に入った。
部屋に入ってすぐの場所に、大人数用の長テーブルが置かれていた。
座る席があらかじめ決まっているのか、テーブルの上には等間隔に名札が置かれていた。
この部屋にやって来たのは私が一番かと思ったけれどそうではなく、扉から一番離れた奥のほうの席に、ウェーブのかかった長いダークブルーの髪を背中におろした美しい女性が座っていた。
マジルカ王国の女王陛下だとすぐにわかった。
マジルカ王国は世界の中で、魔法使いが存在する唯一の国だ。
王族の中で、一番魔力の高い人が国王、もしくは女王になると言われている。
そして、現在は女王陛下で、名はメミナ様だったかと思う。
メミナ様は私のほうに顔を向けると、大きな目を瞬かせた。
たしか、年齢は40歳を過ぎているはずなのだけれど、魔法の力なのか、20代にしか見えないくらいに若々しい。
綺麗な緑色の瞳に見つめられた私は、慌ててカーテシーをする。
「マジルカ王国の女王陛下にお会いできて光栄です」
「驚かせてごめんなさい。女性が来るとは思っていなかったから私も驚いてしまったの」
メミナ様は立ち上がって、わざわざ、私のほうに近づいてきて話しかけてくる。
「あなたの黒髪は艶があるし、とても綺麗で羨ましいわ。しかも、ふわふわの髪質なのね。私もふわふわにしたいのだけど、自然には上手くできなくて魔法でたまにウェーブをかけてもらうのよ」
「……魔法で、ですか」
「ええ。良かったらお話をしない? 会合が始まるまでは時間があるでしょう? 私の周りは男性ばかりで女性とお話がしたかったの」
「私なんかでよろしければ」
「私が誘ったんだから、私なんかと言うのはおかしいわよ?」
メミナ様は眉根を寄せて私に注意すると、すぐに笑顔になって、私を連れて会場の外に出た。
106
お気に入りに追加
1,358
あなたにおすすめの小説

【完結】正妃に裏切られて、どんな気持ちですか?
かとるり
恋愛
両国の繁栄のために嫁ぐことになった王女スカーレット。
しかし彼女を待ち受けていたのは王太子ディランからの信じられない言葉だった。
「スカーレット、俺はシェイラを正妃にすることに決めた」

〖完結〗その愛、お断りします。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った……
彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。
邪魔なのは、私だ。
そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。
「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。
冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない!
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

二人ともに愛している? ふざけているのですか?
ふまさ
恋愛
「きみに、是非とも紹介したい人がいるんだ」
婚約者のデレクにそう言われ、エセルが連れてこられたのは、王都にある街外れ。
馬車の中。エセルの向かい側に座るデレクと、身なりからして平民であろう女性が、そのデレクの横に座る。
「はじめまして。あたしは、ルイザと申します」
「彼女は、小さいころに父親を亡くしていてね。母親も、つい最近亡くなられたそうなんだ。むろん、暮らしに余裕なんかなくて、カフェだけでなく、夜は酒屋でも働いていて」
「それは……大変ですね」
気の毒だとは思う。だが、エセルはまるで話に入り込めずにいた。デレクはこの女性を自分に紹介して、どうしたいのだろう。そこが解決しなければ、いつまで経っても気持ちが追い付けない。
エセルは意を決し、話を断ち切るように口火を切った。
「あの、デレク。わたしに紹介したい人とは、この方なのですよね?」
「そうだよ」
「どうしてわたしに会わせようと思ったのですか?」
うん。
デレクは、姿勢をぴんと正した。
「ぼくときみは、半年後には王立学園を卒業する。それと同時に、結婚することになっているよね?」
「はい」
「結婚すれば、ぼくときみは一緒に暮らすことになる。そこに、彼女を迎えいれたいと思っているんだ」
エセルは「……え?」と、目をまん丸にした。
「迎えいれる、とは……使用人として雇うということですか?」
違うよ。
デレクは笑った。
「いわゆる、愛人として迎えいれたいと思っているんだ」

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。
加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。
そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる