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31 「楽しみにしておりますわ」
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私が睨み返すと、皇帝陛下は慌てて表情を柔らかなものに変える。
「……それは、そうだな。ジーナリアは何かトラブルにでも巻き込まれたんだろう」
「宮殿の敷地内でですか?」
「……ああ、そうだ。ジュリエッタ、お前が嫉妬に駆られて、ジーナリアをどこかに連れ去ったんじゃないのか?」
「酷いです! わたしはそんなことはしていません!」
ジュリエッタは焦った顔で何度も首を横に振った。
ここで、ジュリエッタが皇帝陛下の浮気相手はジーナリア様ではないか、と疑ってくれれば良かったけど、そこまで頭がまわらないようで、彼女は話を戻してしまう。
「ジーナリア様の心が離れてしまったから、逃げたんじゃないのですか。それって皇帝陛下がいなくても生きていけるということですよね!」
「ふざけたことを言うな! 俺がいるから、帝国民は幸せに暮らせているんだぞ! 俺が皇帝じゃなければ、今頃、どうなっていたかわからないんだ!」
私や多くの国民にしてみれば、別に皇帝はパクト様でなくても良い。
自分が皇帝になりたいと思う人間は少ないだろうけど、誰かふさわしい人間が皇帝になると言うのであれば、帝国民も納得はするでしょう。
それは、ジュリエッタもそうだと思う。
だからか、さすがのジュリエッタも呆れた顔をして皇帝陛下を見つめている。
ジュリエッタも皇帝陛下も自分が一番だということは共通しているみたいだから、お似合いのカップル、いや、逆にそれが合わないのかもしれない。
自分を優先しないと気に入らないということだものね。
皇帝陛下に、あなたがいないほうが幸せな帝国になるかもしれません。
という本音を口に出すわけにはいかず、笑顔で頷く。
「皇帝陛下を否定しているわけではございません。ただ、オレ無しではという発言に、ジュリエッタ様は引っかかってしまったのだと思います」
「そうなのかもしれないが、おい、ジュリエッタ、オレに何か文句でもあるのか」
「……いいえ」
さすがのジュリエッタも皇帝陛下に逆らう気はないらしい。
ジュリエッタが首を横に振ると、皇帝陛下は私に目を向ける。
「細かいことはもう良い。それよりもセリーナ、お前に話がある」
「……なんでしょうか」
「今晩、オレの寝室に来るんだ」
「……どのようなご用件でしょうか」
「寝室に誘うんだから、やることは決まっているだろう」
「わかりませんわ」
「じゃあ、今晩、教えてやるから、寝室に来るんだ」
覚悟はしていたつもりだったけど、いざとなると本当に嫌ね。
でも、嫌だなんて口にしてはいけない。
自然に嫌われる方向に持っていかなくては――
それに、ちょうど良い機会だわ。
「皇帝陛下」
「なんだ」
「せっかくですので、皇帝陛下のお部屋を見学したいですわ」
「駄目だ!」
皇帝陛下は声を荒らげると、私に指を突きつける。
「どうして、いきなり俺の部屋を見たいだなんて言い出すんだ」
「興味を持ってはいけませんか。側妃とはいえ、あなたの妻なのですよ」
「オレはお前の夫だが、部屋を見たいだなんて思わない」
「見たいのは私だけではありません。ジュリエッタもですわ」
ジュリエッタを見ると、無言で何度も頷いた。
それを確認してから、皇帝陛下に話しかける。
「どうして、そんなに嫌がっておられるのかわかりませんわ。陛下の部屋にはメイドが掃除に入るはずです。それなら、見られたら困るようなものなど置いていないでしょう?」
「い、犬がいるから駄目なんだ」
「そうでしたわね。犬を飼ったとお聞きしましたわ。ぜひ、その犬も見たいものです」
「俺の部屋には犬小屋しかない! 犬小屋なんて見ても楽しくないだろう!」
普通ならば、犬専用の部屋があるもので、皇帝陛下の部屋に犬小屋があること自体がおかしいのよ。
「私は見たいですわ!」
ジュリエッタも手を挙げて叫ぶ。
私を助けているつもりが全くないでしょうけど、ジュリエッタの援護は本当に助かる。
「……わかった。夜まで待て。部屋を見せたあとは、どうなるか楽しみだな」
「楽しみにしておりますわ」
挑戦的な笑みを浮かべる陛下に、私は微笑んで頷いた。
簡単にあなたのものになるつもりはないけどね。
「……それは、そうだな。ジーナリアは何かトラブルにでも巻き込まれたんだろう」
「宮殿の敷地内でですか?」
「……ああ、そうだ。ジュリエッタ、お前が嫉妬に駆られて、ジーナリアをどこかに連れ去ったんじゃないのか?」
「酷いです! わたしはそんなことはしていません!」
ジュリエッタは焦った顔で何度も首を横に振った。
ここで、ジュリエッタが皇帝陛下の浮気相手はジーナリア様ではないか、と疑ってくれれば良かったけど、そこまで頭がまわらないようで、彼女は話を戻してしまう。
「ジーナリア様の心が離れてしまったから、逃げたんじゃないのですか。それって皇帝陛下がいなくても生きていけるということですよね!」
「ふざけたことを言うな! 俺がいるから、帝国民は幸せに暮らせているんだぞ! 俺が皇帝じゃなければ、今頃、どうなっていたかわからないんだ!」
私や多くの国民にしてみれば、別に皇帝はパクト様でなくても良い。
自分が皇帝になりたいと思う人間は少ないだろうけど、誰かふさわしい人間が皇帝になると言うのであれば、帝国民も納得はするでしょう。
それは、ジュリエッタもそうだと思う。
だからか、さすがのジュリエッタも呆れた顔をして皇帝陛下を見つめている。
ジュリエッタも皇帝陛下も自分が一番だということは共通しているみたいだから、お似合いのカップル、いや、逆にそれが合わないのかもしれない。
自分を優先しないと気に入らないということだものね。
皇帝陛下に、あなたがいないほうが幸せな帝国になるかもしれません。
という本音を口に出すわけにはいかず、笑顔で頷く。
「皇帝陛下を否定しているわけではございません。ただ、オレ無しではという発言に、ジュリエッタ様は引っかかってしまったのだと思います」
「そうなのかもしれないが、おい、ジュリエッタ、オレに何か文句でもあるのか」
「……いいえ」
さすがのジュリエッタも皇帝陛下に逆らう気はないらしい。
ジュリエッタが首を横に振ると、皇帝陛下は私に目を向ける。
「細かいことはもう良い。それよりもセリーナ、お前に話がある」
「……なんでしょうか」
「今晩、オレの寝室に来るんだ」
「……どのようなご用件でしょうか」
「寝室に誘うんだから、やることは決まっているだろう」
「わかりませんわ」
「じゃあ、今晩、教えてやるから、寝室に来るんだ」
覚悟はしていたつもりだったけど、いざとなると本当に嫌ね。
でも、嫌だなんて口にしてはいけない。
自然に嫌われる方向に持っていかなくては――
それに、ちょうど良い機会だわ。
「皇帝陛下」
「なんだ」
「せっかくですので、皇帝陛下のお部屋を見学したいですわ」
「駄目だ!」
皇帝陛下は声を荒らげると、私に指を突きつける。
「どうして、いきなり俺の部屋を見たいだなんて言い出すんだ」
「興味を持ってはいけませんか。側妃とはいえ、あなたの妻なのですよ」
「オレはお前の夫だが、部屋を見たいだなんて思わない」
「見たいのは私だけではありません。ジュリエッタもですわ」
ジュリエッタを見ると、無言で何度も頷いた。
それを確認してから、皇帝陛下に話しかける。
「どうして、そんなに嫌がっておられるのかわかりませんわ。陛下の部屋にはメイドが掃除に入るはずです。それなら、見られたら困るようなものなど置いていないでしょう?」
「い、犬がいるから駄目なんだ」
「そうでしたわね。犬を飼ったとお聞きしましたわ。ぜひ、その犬も見たいものです」
「俺の部屋には犬小屋しかない! 犬小屋なんて見ても楽しくないだろう!」
普通ならば、犬専用の部屋があるもので、皇帝陛下の部屋に犬小屋があること自体がおかしいのよ。
「私は見たいですわ!」
ジュリエッタも手を挙げて叫ぶ。
私を助けているつもりが全くないでしょうけど、ジュリエッタの援護は本当に助かる。
「……わかった。夜まで待て。部屋を見せたあとは、どうなるか楽しみだな」
「楽しみにしておりますわ」
挑戦的な笑みを浮かべる陛下に、私は微笑んで頷いた。
簡単にあなたのものになるつもりはないけどね。
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