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29  「おねえさまじゃないわよね」

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 その後、イエーヌ様の樣子が気になったので、ロニナを連れて宮殿に向かった。

 広い宮殿なので、どうやって見つけ出そうか考えていたけれど、イエーヌ様は出入り口近くにいて、私の姿を見つけると、笑顔で駆け寄ってくる。

「あなたも犬を触りに来たの? 今はいないけど、とても可愛かったわよ」
「どうしているのか気になって見に来ましたが、余計な心配だったようで良かったです。私はこのまま、今日の夕食の準備をしようかと思います」
「あら、もうそんな時間?」

 イエーヌ様は呑気な口調で尋ねてきた。

「ええ。少し早いですけどね」
「そう。なら、私も残るわ! 今日も美味しい料理を作るわよ!」
「……そうですわね」

 犬を無事に触ることができたからか、イエーヌ様はご機嫌そうだ。
 どんな犬だったのか聞いてみようかと思った時、ジュリエッタがやって来た。

「おねえさま! お話があるの!」
「申し訳ございませんが、今からジュリエッタ様の夕食を作りに向かわねばなりません」
「そんなの後回しで良いわ!」

 よっぽど急ぎで話したいのか、イエーヌ様やロニナがいるのに、難しい顔をして続ける。

「とにかく、今すぐ一緒に来てちょうだい」
「食事の時では駄目なのでしょうか」
「……二人で話がしたいんです」

 ジュリエッタは頷くと、私からイエーヌ様に視線を移す。

「悪いけれど、姉を借りても良いかしら」
「もちろんですわ」

 イエーヌ様は本当のジュリエッタを知らないから、いつもと違う雰囲気に圧倒されてしまい、逃げるように去って行った。

「どのようなご用件でしょうか」

 イエーヌ様の背中を見送ったあとに私が尋ねると、ジュリエッタは一瞬だけ眉根を寄せた。

 でも、ロニナがいることに気づいて笑顔を見せる。

「お姉さまに相談したいことがあるんです。他人には聞かれたくないので、場所を移動しても良いかしら」
「食事の準備が」
「遅くなってもかまわないと言ってるでしょう」

 私にだって予定が……、ってないわね。
 ジュリエッタに食事を出したら、自分も食事をする。
 その後は湯浴みをして、ベッドに横になって本を読むだけだもの。

 自分時間って大事な時間よね。
 ……でも、ジュリエッタにしてみれば暇な時間となるんでしょうね。

 それに の言うことはきかなくちゃいけないわ。

 困った顔をして私の横に立っているロニナに話しかける。

「ロニナ、悪いけど、厨房で待っていてくれる? 話が終わったら向かうわ」
「お一人で大丈夫ですか」
「ジュリエッタ様と話をするだけだもの。危険はないわよ。ですわよね?」

 微笑んで尋ねると、ジュリエッタは可愛らしい笑顔を見せる。

「もちろんですわ」
「もし、私が帰ってこなかったりしたら、ジュリエッタ様を疑って良いそうよ」
「そんなこと言っていないわ」
「でも、そういうことでしょう? あなたと話すと言って別れたのが最後になるんだから、一番怪しいのはあなただわ」
「そんなことにはならないから安心してちょうだい」

 ジュリエッタは芝居を忘れて強い口調でそう言うと、私の返事を待たずに歩き出す。

 ロニナは部屋の前まで一緒に行って、その後は厨房に行き、すぐに戻ってきて廊下で待っていると言った。

 赤やピンク色の調度品が置かれたジュリエッタの部屋の中に入ると、ピンク色のソファに座るように促される。

 私が素直に腰を下ろしたところで、向かいに座っているジュリエッタが話し始めた。

「皇帝陛下が浮気しているみたいなんだけど、おねえさまじゃないわよね」
「浮気?」

 ジーナリア様のことを言っているのかもしれない。

 皇帝陛下の浮気には興味はないけれど、ジーナリア様の情報がつかめるかもしれないので、話を聞いてみることにした。
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