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24 「もちろんです」
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「……フェイク、どうしてお前がここにいるんだ!」
皇帝陛下は掴まれている手を振り払うと、フェイク様に向き直って叫んだ。
「それはこちらのセリフですよ。質問に先に答えますが、兄上の側近が、兄上がこちらに来ていると教えに来てくれたんです。まさか、自分の妻に手を上げるために来ているだなんて思いもしませんでした。急いで見に来て良かったですよ」
そう言ったフェイク様の視線の先には皇帝陛下の側近とロニナの姿があった。
側近が話をしてくれて、こちらに向かっている時にロニナと合流したんでしょう。
ロニナはフェイク様に助けを求めに行ってくれていたのね。
あとでお礼を言わなくちゃ。
私がロニナに気を取られている間も、フェイク様と皇帝陛下の会話は続いている。
「どうしてオレからセリーナを奪おうとするんだ? そんなにオレが嫌いなのか!」
「奪おうとした覚えは、一切ありません」
「セリーナはお前のことを好きだと言っている! それは奪おうとしていることと同然だろう!」
同然なのかはわからないけど、フェイク様が答えを求めるかのように無言で私を見つめた。
「フェイク様のことは尊敬しておりますし、いつも感謝しています。ですから、好きかと言われれば好きです」
「だが、兄上が思っている好きではないということだな」
「そうです。私は皇帝陛下の側妃ですから、そんな気持ちは持ちません。皇帝陛下に浮気を疑われるような態度をとっていたようですし、そちらは謝罪いたしますが、決して浮気などしていません」
友人としての好きは恋愛感情とは違う。
夫がいるのに他の男の人を好きになってしまえば、それこそ浮気だ。
私の場合はフェイク様に恋愛感情を持っているわけではない。
私たちの間に浮気を疑われるようなことなんて一切ないのよね。
となると、嘘をついたとわかった時、ジーナリア様は処分される可能性がある。
……人のことを考えている前に皇帝陛下の思い込みを何とかしないと、私が処分されてしまうわね。
「じゃあ、どうしてジーナリアはそんな嘘をついたんだ」
フェイク様が来たことで、皇帝陛下も少し冷静になってきたらしい。
「少し考えたらわかるでしょう」
フェイク様がため息を吐くと、皇帝陛下はハッとした顔になる。
「……嫉妬か」
それが皇帝陛下へのものなのか、フェイク様へのものなのかわからない。
でも、皇帝陛下は自分へのものだと判断した。
「……そういうことだったのか。だが、お前たちの仲が良いことは確かだ。これからは誤解されないように気をつけろ」
側近は私に平謝りしていたけど、皇帝陛下は私の頬を打った出来事などなかったかのように、言いたいことだけ言って去って行った。
皇帝陛下を見送ったあと、フェイク様に頭を下げる。
「フェイク様、ありがとうございました」
「いや、俺のせいですまない」
フェイク様は珍しく眉尻を下げて私の頬を見た。
どうなるかわからないという緊張感があったため、感じなくなっていた頬の痛みをそれで思い出した。
「フェイク様は悪くありません」
悪いのは思い込みで私の頬を打った皇帝陛下と嘘をついたジーナリア様だ。
皇帝陛下を責める発言は不敬と取られるため、ここでは控えたほうがいい。
それなら――
「ジーナリア妃の所へ行くつもりだが、君も来るか」
「もちろんです」
フェイク様に尋ねられ、迷うことなく頷いた。
事なかれ主義の私だけど、さすがにこんなことをされたら黙っていられないわ。
皇帝陛下は掴まれている手を振り払うと、フェイク様に向き直って叫んだ。
「それはこちらのセリフですよ。質問に先に答えますが、兄上の側近が、兄上がこちらに来ていると教えに来てくれたんです。まさか、自分の妻に手を上げるために来ているだなんて思いもしませんでした。急いで見に来て良かったですよ」
そう言ったフェイク様の視線の先には皇帝陛下の側近とロニナの姿があった。
側近が話をしてくれて、こちらに向かっている時にロニナと合流したんでしょう。
ロニナはフェイク様に助けを求めに行ってくれていたのね。
あとでお礼を言わなくちゃ。
私がロニナに気を取られている間も、フェイク様と皇帝陛下の会話は続いている。
「どうしてオレからセリーナを奪おうとするんだ? そんなにオレが嫌いなのか!」
「奪おうとした覚えは、一切ありません」
「セリーナはお前のことを好きだと言っている! それは奪おうとしていることと同然だろう!」
同然なのかはわからないけど、フェイク様が答えを求めるかのように無言で私を見つめた。
「フェイク様のことは尊敬しておりますし、いつも感謝しています。ですから、好きかと言われれば好きです」
「だが、兄上が思っている好きではないということだな」
「そうです。私は皇帝陛下の側妃ですから、そんな気持ちは持ちません。皇帝陛下に浮気を疑われるような態度をとっていたようですし、そちらは謝罪いたしますが、決して浮気などしていません」
友人としての好きは恋愛感情とは違う。
夫がいるのに他の男の人を好きになってしまえば、それこそ浮気だ。
私の場合はフェイク様に恋愛感情を持っているわけではない。
私たちの間に浮気を疑われるようなことなんて一切ないのよね。
となると、嘘をついたとわかった時、ジーナリア様は処分される可能性がある。
……人のことを考えている前に皇帝陛下の思い込みを何とかしないと、私が処分されてしまうわね。
「じゃあ、どうしてジーナリアはそんな嘘をついたんだ」
フェイク様が来たことで、皇帝陛下も少し冷静になってきたらしい。
「少し考えたらわかるでしょう」
フェイク様がため息を吐くと、皇帝陛下はハッとした顔になる。
「……嫉妬か」
それが皇帝陛下へのものなのか、フェイク様へのものなのかわからない。
でも、皇帝陛下は自分へのものだと判断した。
「……そういうことだったのか。だが、お前たちの仲が良いことは確かだ。これからは誤解されないように気をつけろ」
側近は私に平謝りしていたけど、皇帝陛下は私の頬を打った出来事などなかったかのように、言いたいことだけ言って去って行った。
皇帝陛下を見送ったあと、フェイク様に頭を下げる。
「フェイク様、ありがとうございました」
「いや、俺のせいですまない」
フェイク様は珍しく眉尻を下げて私の頬を見た。
どうなるかわからないという緊張感があったため、感じなくなっていた頬の痛みをそれで思い出した。
「フェイク様は悪くありません」
悪いのは思い込みで私の頬を打った皇帝陛下と嘘をついたジーナリア様だ。
皇帝陛下を責める発言は不敬と取られるため、ここでは控えたほうがいい。
それなら――
「ジーナリア妃の所へ行くつもりだが、君も来るか」
「もちろんです」
フェイク様に尋ねられ、迷うことなく頷いた。
事なかれ主義の私だけど、さすがにこんなことをされたら黙っていられないわ。
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