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13  「くだらない手紙だったわ」

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 イエーヌ様の所に行く前に、ロニナにシルバートレイの話をしてみると、異国で流行している武器兼防具だと教えてくれた。

 普通のシルバートレイとは違っていて、少し硬めに作られているらしいから、殴られるとかなりのダメージがありそうだ。

「頭はやめてくださいね。もし、それで私が死んだら殺人犯になりますわよ」
「う、上手くもみ消してもらうわ!」
「夜に枕元に立ちますよ」
「やめてよ! 怖いじゃないの!」
「怖いと思うのであればおやめください」

 これ見よがしに大きなため息を吐くと、イエーヌ様は前触れもなくシルバートレイを、私の顔めがけて振り上げた。

 バイン。

 という鈍い音は聞こえたけど、痛みを感じることはなかった。

「いい加減にしてくれ。こんなことをすれば、子供でも許されないぞ」

 フェイク様がシルバートレイを自分の手のひらで受け止めてくれたのだ。

 慌てて、フェイク様に話しかける。

「あ、ありがとうございます、フェイク様。あの、お怪我はありませんか」
「怪我はないし、大した痛みもない」
「それなら良かったのですが」

 イエーヌ様に視線を送ると、彼女の顔は真っ青になっていた。

 私とイエーヌ様は同等の立場……、ではなく、彼女の中で私は格下だ。
 だけど、相手がフェイク様の場合は違う。

 フェイク様は彼女よりも上の立場にある。

 フェイク様の手を叩いてしまったのだから、お咎めなしだなんてことはありえない。

「謝罪もなしか」

 フェイク様が吐き捨てるように言うと、イエーヌ様は慌てて頭を下げる。

「申し訳ございませんでした! フェイク様に何かしようとしたわけではございません!」
「そういう問題じゃない」

 フェイク様はため息を吐いたあと、後ろで見守っていたキャリーさんに話しかける。

「彼女に資料を渡してくれ」
「……承知しました」

 キャリーさんは顔面蒼白状態のイエーヌさんに書類を差し出す。

「ロエノウ陛下について調べたものをまとめております」
「プランの参考にしてくれ。それから、行程が決まったら連絡してほしい。警備の手配は俺がする」
「……承知いたしました」

 断りたくても断れない状況になったイエーヌ様を見て、自業自得だと思いつつも、少しだけ哀れんでしまう。

「手の件については、また連絡する」

 フェイク様に言われたイエーヌ様の目には涙が浮かんでいた。


*****


 セクハラオヤジのことはイエーヌ様に任せることができたし、しばらくのんびりしてから動こうと思った次の日、ジュリエッタが別宮に訪ねてきた。

「悪いけど、忙しいと言って帰ってもらってくれる?」

 自室で新メニュー開発のための試作品のスイーツを食べながらそう言うと、ロニナは嫌な顔はせずに頷いて部屋から出ていった。

 本を読むことにしたけど集中できず、ジュリエッタは私に何の用事なのかしら。

 なんて考えていると、ロニナが戻ってきた。
 手にはピンク色の封筒が握られている。

「ジュリエッタ様からお手紙をお預かりました。大事なことだから検閲はしないようにと言われました」
「……ありがとう」

 普段は先にロニナに読んでもらうけど、今回はそれができないということだ。
 扉の外ではミルエットが聞き耳を立てているでしょうし、読むくらいはしてあげないと駄目よね。

 さて、どんなことが書かれてあるのか。

 緊張しながら手紙を読むと、すぐに破ってゴミ箱に捨てた。

 ロニナが慌てた顔で尋ねてくる。

「セリーナ様、どうかされましたか?」
「くだらない手紙だったわ」

 ジュリエッタからの手紙には『魚の件からパクト様が冷たいの! 仕事をたくさんまわされるし、捌ききれなくて死にそう。側妃なんだから手伝ってよ。というか、姉でしょう? 妹を助けるべきよ』と書かれていた。

 それだけなら無視すれば良かった。

 でも、続きのせいで、無視もできなくなった。

『パクト様はお姉様が仕事を手伝ってくれるなら、パーティーを欠席しても良いけど、手伝わないならパーティーに出席しろと言っているわ。だから、パーティーに出席したくなければ手伝ってね!』

 裏を返せば、出席すれば手伝わなくて良くなる。
 
 一度手伝ったら、ずっと手伝わなければならない。

 なら、パーティーにはしてあげるわ。





 

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