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11 「ぜひ、よろしくお願いいたします!」
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「あの、おっしゃっている意味がわからないのですが」
「わからなくても良いわ! わかろうがわかるまいが、あなたは悪人だということは変わらないからね!」
「悪人と言われるほど、酷いことをした覚えがないのですが、私はどんなことをしたんでしょうか」
ジュリエッタの作り話も酷かったけど、イエーヌ様の作り話も酷かった。
どんなことを言うのか何となく予想はついたけど、本人の口から聞いてみることにした。
すると、イエーヌ様は言葉につまりながらも話し始める。
「そ、そうね。ほら、そうよ。あなたは野蛮な食べ物を食べさせると聞いたわ」
「野蛮、ですか。たとえばどんなものでしょう?」
「む、虫とかよ」
「虫も地域によっては食べ物ですわよ。側妃の一人なのですから、他国を悪く言っているようにも聞こえる発言は控えるべきだと思います」
「うるさいわね、説教しないでよ! この国のルールってものがあるのよ! 他国は関係ないわ!」
「ノベリルノ帝国でも虫を食べることは禁止されておりません。それから、確認したいのですが、食べさせると聞いたということは、私がジュリエッタ様に、そのような食事を出したと言いたいのですか?」
「ち、違うわよ! 昔からそうだったんでしょう!?」
メイドたちが話を聞いているから、自分の言っていたことが作り話だとバレるのは嫌みたいで、イエーヌ様は焦った顔で叫んだ。
「昔から? そんなことがあるわけないではないですか。イエーヌ様は住んでいた国が違いますから、私の過去を知らないかと思いますのでお伝えしますが、私とジュリエッタ様は姉妹です。そして、公爵令嬢なんです」
「そ、それがどうしたって言うのよ!」
「公爵令嬢は料理なんてしません」
実際、私は冷遇されていたから調理場を出入りしていたけど、見ているだけで作らせてもらうことはできなかった。
私がきっぱりと答えただけでなく、それが当たり前のことだと気がついたのか、イエーヌ様は視線を宙に泳がせる。
「お、おかしいわね。あなたから聞いたような気がしたんだけど」
「私とイエーヌ様は雑談をするような仲ではありませんので、私が言ったのではありませんね。人から聞いただけで本人に確認もしていない話を言いふらすのはおやめください。品位を疑われますよ」
「何を偉そうに!」
「私とあなたは側妃です。同等の立場ですよ」
「同等の立場なら、もっと下手に出なさいよ!」
「同等の意味を理解しておられます?」
わざと肩をすくめてみせると、イエーヌ様は顔を真っ赤にして睨みつけてきた。
相手をするのが馬鹿らしくなってきたわ。
ふと、イエーヌ様の後ろに立っているメイドたちを見ると、必死に笑いをこらえているように見えた。
主人が怒られているのに笑っていたら、メイドたちがクビになってしまう。
しょうがないので、ここで切り上げましょう。
……ちょっと待って。
「イエーヌ様は私よりも偉いのですわよね?」
「そうよ」
「貴賓のお相手をするのは偉い方の仕事だと思いませんか」
「そ、そうね。というか、いきなり何なのよ」
「近々、位の高いお客様がやって来られるのです。その方のお相手をしてくださる方を探しておりまして」
「何よ! わたしにやれって言うの!?」
「イエーヌ様にはできませんか?」
イエーヌ様は私の言い方に腹が立ったらしい。
右手にシルバートレイを握りしめたまま、左手を胸に当てて叫ぶ。
「できないわけないでしょう! どんな相手だろうが完璧に対応してみせるわ!」
「ありがとうございます! では、お願いしたい方がいらっしゃいますので、ぜひ、よろしくお願いいたします!」
笑顔でお願いすると、イエーヌ様はしまった、と言わんばかりの顔になった。
「わからなくても良いわ! わかろうがわかるまいが、あなたは悪人だということは変わらないからね!」
「悪人と言われるほど、酷いことをした覚えがないのですが、私はどんなことをしたんでしょうか」
ジュリエッタの作り話も酷かったけど、イエーヌ様の作り話も酷かった。
どんなことを言うのか何となく予想はついたけど、本人の口から聞いてみることにした。
すると、イエーヌ様は言葉につまりながらも話し始める。
「そ、そうね。ほら、そうよ。あなたは野蛮な食べ物を食べさせると聞いたわ」
「野蛮、ですか。たとえばどんなものでしょう?」
「む、虫とかよ」
「虫も地域によっては食べ物ですわよ。側妃の一人なのですから、他国を悪く言っているようにも聞こえる発言は控えるべきだと思います」
「うるさいわね、説教しないでよ! この国のルールってものがあるのよ! 他国は関係ないわ!」
「ノベリルノ帝国でも虫を食べることは禁止されておりません。それから、確認したいのですが、食べさせると聞いたということは、私がジュリエッタ様に、そのような食事を出したと言いたいのですか?」
「ち、違うわよ! 昔からそうだったんでしょう!?」
メイドたちが話を聞いているから、自分の言っていたことが作り話だとバレるのは嫌みたいで、イエーヌ様は焦った顔で叫んだ。
「昔から? そんなことがあるわけないではないですか。イエーヌ様は住んでいた国が違いますから、私の過去を知らないかと思いますのでお伝えしますが、私とジュリエッタ様は姉妹です。そして、公爵令嬢なんです」
「そ、それがどうしたって言うのよ!」
「公爵令嬢は料理なんてしません」
実際、私は冷遇されていたから調理場を出入りしていたけど、見ているだけで作らせてもらうことはできなかった。
私がきっぱりと答えただけでなく、それが当たり前のことだと気がついたのか、イエーヌ様は視線を宙に泳がせる。
「お、おかしいわね。あなたから聞いたような気がしたんだけど」
「私とイエーヌ様は雑談をするような仲ではありませんので、私が言ったのではありませんね。人から聞いただけで本人に確認もしていない話を言いふらすのはおやめください。品位を疑われますよ」
「何を偉そうに!」
「私とあなたは側妃です。同等の立場ですよ」
「同等の立場なら、もっと下手に出なさいよ!」
「同等の意味を理解しておられます?」
わざと肩をすくめてみせると、イエーヌ様は顔を真っ赤にして睨みつけてきた。
相手をするのが馬鹿らしくなってきたわ。
ふと、イエーヌ様の後ろに立っているメイドたちを見ると、必死に笑いをこらえているように見えた。
主人が怒られているのに笑っていたら、メイドたちがクビになってしまう。
しょうがないので、ここで切り上げましょう。
……ちょっと待って。
「イエーヌ様は私よりも偉いのですわよね?」
「そうよ」
「貴賓のお相手をするのは偉い方の仕事だと思いませんか」
「そ、そうね。というか、いきなり何なのよ」
「近々、位の高いお客様がやって来られるのです。その方のお相手をしてくださる方を探しておりまして」
「何よ! わたしにやれって言うの!?」
「イエーヌ様にはできませんか?」
イエーヌ様は私の言い方に腹が立ったらしい。
右手にシルバートレイを握りしめたまま、左手を胸に当てて叫ぶ。
「できないわけないでしょう! どんな相手だろうが完璧に対応してみせるわ!」
「ありがとうございます! では、お願いしたい方がいらっしゃいますので、ぜひ、よろしくお願いいたします!」
笑顔でお願いすると、イエーヌ様はしまった、と言わんばかりの顔になった。
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