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3 「……承知いたしました」
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別宮はジュリエッタが住む宮殿に比べれば小さいものだった。
かといって、公爵邸とは比べ物にならないほど大きく、近くに立つと、その全貌が見えなくなった。
白亜の壁がとても綺麗で、馬車から降りた瞬間、その大きさと豪華さに圧倒されていると、ミルエットが話しかけてくる。
「ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」
促されて中に入ると、また別の意味で驚いた。
廊下には装飾品は全くなく、必要ないものは何も置かれていないといった感じだった。
こういうことがあるから、側妃は良く思われていないのかもしれないわ。
何だか、区別ではなく差別を受けているみたい。
皇帝の側妃が住む場所なのに、この状況はどうなのよ。
……と、無駄なものでごちゃごちゃしているよりかは良いか。
掃除はしやすいものね。
ミルエットの後をついて歩いていくと、最上階である五階の突き当たりにある部屋の前で立ち止まった。
「他の側妃の方々は二階にお部屋があります。その階には絶対に足を踏み入れないでくださいませ」
「わかったわ」
躊躇うことなく頷くと、ミルエットは眉間のシワを深くした。
やっぱり、ミルエットもジュリエッタの信者みたいだし、早速、任務を解除してあげましょう。
「ミルエット」
「……なんでございましょうか」
扉に手をかけた状態で、不満げな顔をしているミルエットに、私は笑顔で伝える。
「案内してくれてありがとう。感謝するわ。申し訳ないけど、私には侍女は必要ないのよ。だからあなたは今までの仕事に戻ってくれて結構よ」
「は……、はい? 何を言っておられるのですか?」
「そのままの意味だけど、もしかして、ミルエットは世界共通言語のエノイ語は苦手なの?」
ノベリルノ帝国とは五つの国のことを合わせていう。
エノイ語は帝都民が使う言語で、皇帝陛下もこの言葉を話す。
でも、他国民はエノイ語が苦手な人や話せない人もいる。
私は帝都民ではないけど、エノイ語は話すことができる。
今まで話してきた言語がエノイ語なのだから、ミルエットはエノイ語が苦手だということはないんでしょうけど、一応聞いてみたところ、ミルエットは怒りだす。
「そういう問題ではございません! まだ、部屋に案内しただけです。わたくしがいなければセリーナ様はここで暮らしていくことはできませんよ!」
「馬鹿にしたように聞こえたなら謝るわ。だけどね、あなたがいかにも嫌そうな顔をしているから、私が何を言っているのかわからなくて困っているのかと思ったの」
「そ、そういうわけではございません」
「私の世話をしたくないのであれば、してもらわなくて結構よ。食事はお腹が減ったら、メイドに頼んで持ってきてもらうから」
「そのメイドがどこにいるかわからないでしょう!」
ミルエットが叫んだ時、メイド服を着た小柄な女性が近づいてきた。
「あの、何か御用でしょうか」
「ここにいたわ。あとは、この人に頼むから、あなたは戻ってもらって結構よ」
「そういうわけにはいきません! 皇帝陛下に叱られてしまいます!」
「私の侍女を私が決めるのはおかしいことではないでしょう」
「わたくしは皇帝陛下に選ばれた人間なのです! そう簡単に仕事を放棄するわけにはいきません!」
ミルエットは必死だった。
皇帝陛下に私の侍女をクビになったなんて知られたら、彼は彼女をどんな目にあわせるかわからないものね。
うーん。
どうするべきか迷うわ。
ミルエットに痛い目にあってほしいとまでは思わない。
ただ、私に近づかないでほしいだけなのよ。
彼女はきっと、ジュリエッタや皇帝陛下のスパイだもの。
どうして、そこまでするのかわからないけど、ジュリエッタのことだから、皇帝陛下に作り話でもして、私が危険人物だと思わせたのでしょう。
そうだ。
シンプルに良い考えを思いついたわ。
焦った顔をしているミルエットに笑顔で提案する
「じゃあ、勤務時間中は部屋の前にいてくれないかしら。用事があれば呼ぶようにするから」
「で、ですが」
「四六時中、私の側にいないといけないの? そうじゃないでしょう」
「……承知いたしました」
解雇されるよりマシだと思ったのか、ミルエットは渋々といった様子で頷いた。
かといって、公爵邸とは比べ物にならないほど大きく、近くに立つと、その全貌が見えなくなった。
白亜の壁がとても綺麗で、馬車から降りた瞬間、その大きさと豪華さに圧倒されていると、ミルエットが話しかけてくる。
「ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」
促されて中に入ると、また別の意味で驚いた。
廊下には装飾品は全くなく、必要ないものは何も置かれていないといった感じだった。
こういうことがあるから、側妃は良く思われていないのかもしれないわ。
何だか、区別ではなく差別を受けているみたい。
皇帝の側妃が住む場所なのに、この状況はどうなのよ。
……と、無駄なものでごちゃごちゃしているよりかは良いか。
掃除はしやすいものね。
ミルエットの後をついて歩いていくと、最上階である五階の突き当たりにある部屋の前で立ち止まった。
「他の側妃の方々は二階にお部屋があります。その階には絶対に足を踏み入れないでくださいませ」
「わかったわ」
躊躇うことなく頷くと、ミルエットは眉間のシワを深くした。
やっぱり、ミルエットもジュリエッタの信者みたいだし、早速、任務を解除してあげましょう。
「ミルエット」
「……なんでございましょうか」
扉に手をかけた状態で、不満げな顔をしているミルエットに、私は笑顔で伝える。
「案内してくれてありがとう。感謝するわ。申し訳ないけど、私には侍女は必要ないのよ。だからあなたは今までの仕事に戻ってくれて結構よ」
「は……、はい? 何を言っておられるのですか?」
「そのままの意味だけど、もしかして、ミルエットは世界共通言語のエノイ語は苦手なの?」
ノベリルノ帝国とは五つの国のことを合わせていう。
エノイ語は帝都民が使う言語で、皇帝陛下もこの言葉を話す。
でも、他国民はエノイ語が苦手な人や話せない人もいる。
私は帝都民ではないけど、エノイ語は話すことができる。
今まで話してきた言語がエノイ語なのだから、ミルエットはエノイ語が苦手だということはないんでしょうけど、一応聞いてみたところ、ミルエットは怒りだす。
「そういう問題ではございません! まだ、部屋に案内しただけです。わたくしがいなければセリーナ様はここで暮らしていくことはできませんよ!」
「馬鹿にしたように聞こえたなら謝るわ。だけどね、あなたがいかにも嫌そうな顔をしているから、私が何を言っているのかわからなくて困っているのかと思ったの」
「そ、そういうわけではございません」
「私の世話をしたくないのであれば、してもらわなくて結構よ。食事はお腹が減ったら、メイドに頼んで持ってきてもらうから」
「そのメイドがどこにいるかわからないでしょう!」
ミルエットが叫んだ時、メイド服を着た小柄な女性が近づいてきた。
「あの、何か御用でしょうか」
「ここにいたわ。あとは、この人に頼むから、あなたは戻ってもらって結構よ」
「そういうわけにはいきません! 皇帝陛下に叱られてしまいます!」
「私の侍女を私が決めるのはおかしいことではないでしょう」
「わたくしは皇帝陛下に選ばれた人間なのです! そう簡単に仕事を放棄するわけにはいきません!」
ミルエットは必死だった。
皇帝陛下に私の侍女をクビになったなんて知られたら、彼は彼女をどんな目にあわせるかわからないものね。
うーん。
どうするべきか迷うわ。
ミルエットに痛い目にあってほしいとまでは思わない。
ただ、私に近づかないでほしいだけなのよ。
彼女はきっと、ジュリエッタや皇帝陛下のスパイだもの。
どうして、そこまでするのかわからないけど、ジュリエッタのことだから、皇帝陛下に作り話でもして、私が危険人物だと思わせたのでしょう。
そうだ。
シンプルに良い考えを思いついたわ。
焦った顔をしているミルエットに笑顔で提案する
「じゃあ、勤務時間中は部屋の前にいてくれないかしら。用事があれば呼ぶようにするから」
「で、ですが」
「四六時中、私の側にいないといけないの? そうじゃないでしょう」
「……承知いたしました」
解雇されるよりマシだと思ったのか、ミルエットは渋々といった様子で頷いた。
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