上 下
13 / 16

12  後手にまわるのはお断り

しおりを挟む
 マゼケキ様が落ちたのは、城の中央にある大きな階段でした。
 高さもあり、打ちどころが悪かったらしく、意識不明とのことです。

「マゼケキ殿下が階段から落ちるところを見た人はいるの?」
「今、聞いた話だと大きな音がして見に行ったら、マゼケキが倒れていたらしいから、落ちるところを見た人はいない」
「二人だけの時は良いけど、人がいる時はマゼケキ殿下と呼んでよね」
「わかってるよ」

 レイディスは頷いてから話を続けます。

「宰相、もしくはオリンドル公爵令嬢の騎士が犯人だろうな」
「騎士は城内をうろつけないでしょう」

 彼は私達が一度、ペリアド王国を去った時に捕まってはいます。
 でも、関与を認めなかったことや、オリンドル公爵が助けたことにより、監視付きではありますが釈放されています。

 城に忍び込めば何とかなるかもしれませんが、さすがにそこまで危ない橋を渡らないでしょう。

「フェイアンナ様のためとはいえ、そこまでするとは思えないわ」
「となると、残りは一人だけだな」
「でも、そこまでする必要があるかしら」
「知られたくない何かを知っている可能性がある」
「……そう言われればそうね。私の殺害計画に関与していたなら、マゼケキ様のように口の軽そうな人に知られているのは嫌でしょうから」

 そうなると、口封じをされていく人は、マゼケキ様だけじゃなくなります。
 でも、騎士やフェイアンナ様に手を出せば、自分の命が危なくなるので静観しているといったところでしょうか。

「……お前はやっぱり国に戻ったほうがいい」
「まだ、私が何かされたわけじゃないわ」
「何かされてからじゃ遅いだろ! お前、一度、殺されてるのにどうしてそんなに呑気なんだよ!?」
「呑気に見えるようにしているだけよ! 思い出したら恐怖しかないから!」

 声を荒らげて言い返すと、レイディスは眉尻を下げます。

「大声を出して悪かった」
「こちらこそごめんなさい。あなたが言いたいことはわかるわ。だけど、私だって怖いものは怖いの。思い出すと逃げ出したくなる。だけど、それは王女がするべき行動じゃない。だから、考えないようにしているだけ」
「自分の身を守ることだって王女のやるべき行動だろ」
「わかっているけど、ここに来た以上はペリアド王国の立場で考えないといけないでしょう」
「どうせ見捨てるのに、そこまでやらないといけないのか」
「馬鹿な性格ですから」

 そこまで言って、レイディスの情けない話を思い出しました。

 ここに来てやっと、侍女に話を聞いてみたら、仮定の話だと何度も念押ししてから教えてもらえました。

 それは、レイディスが昔から私のことが好きで、自分以外の誰かと結婚するところを見たくなかったのではないかという話でした。

 お兄様とお姉様に確認の手紙を送ってみたところ、それで間違いないだろうとも返ってきました。
 
 私は知りませんでしたが、レイディスは昔から私との結婚を望んでくれていたらしく、お父様の許可が下りたら、その話をしてくれるつもりだったようです。

 ですが、お父様が認めなかったそうです。

 マゼケキ様達のことや、自分が殺されたことなどを思うと、レイディスと婚約していればそんなことにはならなかったのだと、お父様を恨みたい気持ちにもなります。

 今、レイディスは私のことをどう思っているのでしょう。
 一緒に付いてきてくれているということは、恋愛面では私のことはもう好きじゃないということですよね?
 もしくは、私が結婚しないとわかっているからなのかしら。

「どうかしたのか」

 私が黙って見つめていたからか、レイディスが不思議そうな顔をして尋ねてきました。

 昔から一緒にいることが多かったけれど、恋愛面で意識したことはありませんでした。
 だけど、私のことを好きだったと知ると、変に意識してしまいます。

「自分が本当に馬鹿だったと反省していたところです」
「反省してるようには見えなかったけどな」
「何度も反省しているからかもしれません。話題を変えるけど、宰相が絡んでいるとわかっているのに、このまま泳がせるのは良くないかしら」
 
 脅しをかけたから大人しくなるかと思ったら、見込み違いでした。

 後手に回るのはこれで終わりにしなければなりません。

「レイディス、考えがあるんだけど聞いてくれる?」
「嫌だと言っても、どうせ言うんだろ。話せよ」
「ありがとう」

 微笑んだあと、宰相を表舞台に引っ張り出すための案を、レイディスに話したのでした。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。

木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。 彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。 スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。 婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。 父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

捨てられた騎士団長と相思相愛です

京月
恋愛
3年前、当時帝国騎士団で最強の呼び声が上がっていた「帝国の美剣」ことマクトリーラ伯爵家令息サラド・マクトリーラ様に私ルルロ侯爵令嬢ミルネ・ルルロは恋をした。しかし、サラド様には婚約者がおり、私の恋は叶うことは無いと知る。ある日、とある戦場でサラド様は全身を火傷する大怪我を負ってしまった。命に別状はないもののその火傷が残る顔を見て誰もが彼を割け、婚約者は彼を化け物と呼んで人里離れた山で療養と言う名の隔離、そのまま婚約を破棄した。そのチャンスを私は逃さなかった。「サラド様!私と婚約しましょう!!火傷?心配いりません!私回復魔法の博士号を取得してますから!!」

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

処理中です...