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7   嘘の謝罪なんてお断り ③

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 その日の晩は、レイディスは宿屋に行くのではなく、私の部屋の前で警護をしてくれることになりました。
 このまま、両陛下が諦めるとは思えませんし、今度はフェイアンナ様の立場を悪くしたという逆恨みで、例の騎士に殺される可能性があるからです。

 今のところ、例の騎士は私に何もしていません。
 睨んでいたという点については、本人に否定されてしまえば疑わしきは罰せずですから、拘束することができないのが困ったところです。

 何かあってからでは遅いですのに――

 国に戻ればこちらに帰って来るつもりはありませんから、彼とは二度と会うことはないでしょうし、どうせ、フェイアンナ様と一緒にマゼケキ様に訴えられるでしょうから、とにかく今晩を乗り切ります。

 時間が巻き戻る前なら、今頃の私は死んでいるのかと思うと、とても恐ろしく感じたのでした。


******



 次の日の早朝にレイディスに私の身に起きた話をしてみると、レイディスは「俺が巻き戻した可能性が高いな」と言いました。

「そんなことができるの?」
「どんなことをしたかは見当がつく。たぶん、お前や仲間が殺されたことを聞いて、時間を巻き戻したんだと思う」
「でも、レイディスは魔法は使えないでしょう」
「悪いが詳しいことは話せない」

 レイディスは若いのに眉間に深く刻まれた皺を、いつもよりも深くして首を振りました。

 一族の秘密みたいなものかもしれませんね。

 私に記憶がある以上、生き返らせることができる何かがあるということくらいは言っても良いと言ったところかもしれません。

 今すべきことは、秘密を知ることではなく、お礼を言うことですね。

「レイディス、時間を巻き戻してくれてありがとう。殺されたままだったら、あまりの悔しさで毎晩、マゼケキ様の枕元に立っていたと思うの。絶対に眠らせてやらないわ」
「呪い殺すつもりかよ」
「じゃあ、どうしたら良いの? 私を殺したんだから、その分も幸せになってねって思ってあげるべきなの?」
「そんなこと思わなくていい。とにかく、国に戻るまでは俺が守るから安心しろ」

 守ってくれるという発言にお礼を言ってから、昔のように憎まれ口をたたいてみます。

「最初から一緒に来てくれていれば、殺されなくても良かったと思うんだけど」
「悪かったよ。こんなことになると知ってたら一緒に来てた」
「どうして来てくれなかったの」
「それは」

 心底嫌そうな顔をするレイディスを見て苦笑します。

「そんなに言いたくないのなら言わなくてもいいわ」
「情けないから俺の口から言いたくないだけだ」
「じゃあ、情けないレイディスを知りたくないから聞かないわ」
「それはそれで何か違う。他の奴らは知っているだろうから聞いてみろ」
「ねえ、レイディスの情けない理由って何かしら」

 親戚とはいえ、私達は年の近い男女なので、薄い扉の向こうにいる侍女に聞いてみました。

 すると「聞くのは今じゃない!」とレイディスに怒られてしまったのでした。

 その後、理由を聞く暇もなく旅立つ時間になったので、レイディス達と一緒に部屋を出ました。

 城を出ようとした時、両陛下と王太子殿下、そしてマゼケキ様がやって来て、なぜか人払いをしました。

 武器は持っていないとおっしゃいましたが、一応、身体検査をしたあと、レイディスだけ残ってもらって話をすることになりました。

 長く話はしたくないので、すぐに切り上げようと頭を下げます。

「大変お世話になりました」
「待ってくれ、セリス! お前が帰ってしまったら、我が国は他国に攻め入られて終わりだ!」
「そうよぉ。多くの命を犠牲にして良いのぉ?」
「そんなわけがないでしょう。王家が守るべきです」
 
 両陛下に訴えると、マゼケキ様が王妃陛下に話しかけます。

「母上、攻め入られた場合は最悪、国民を盾に使えば良いんですよ!」
「なんてことを言うのですか!」

 信じられない発言に、私が声を荒らげると、マゼケキ様はびくりと体を震わせました。

「まあまあ、落ち着いてよ」

 王太子殿下がヘラヘラ笑いながら、私に近づこうとしたので、レイディスが間に入ってくれました。

「おお、ほんと、怖いなあ。もしかして、セリス、女の日なのかな?」

 デリカシーのない発言に私が苛立つよりも先に、レイディスは短剣がおさめられているホルスターに手を触れて口を開きます。

「次に失礼な発言をされるようでしたら、二度と話すことができなくなりますよ」
「ひ、ひいっ!」

 王太子殿下は後ろに下がろうとしましたが、自分で自分の足に引っかかって、床に尻もちをついたのでした。
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