身勝手な婚約者のために頑張ることはやめました!

風見ゆうみ

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5   嘘の謝罪なんてお断り ①

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 男性は深々と頭を下げてから口を開きます。

「わたくしはフェイアンナ様の護衛騎士でございます」
「……そうなのね。どうして、フェイアンナ様の護衛騎士が私を睨みつけていたの?」
「睨みつけてなどおりません」

 男性は落ち着いた様子で首を左右に振りました。

 殺しをするくらいですもの。
 そんなことくらいで動揺はしませんよね。

 すると、ブロンスト公爵が彼の元に行って、私に訴えます。
 
「セリスティーナ様、あなたは誤解しています。この男は真面目な騎士です。あなたを睨むだなんて、そんな失礼な真似はいたしません」
「真面目だからこそ危ないのですよ。フェイアンナ様のためなら、どんなことでもできるということでしょう」
「そ、それは……、そうかもしれません。ですが、フェイアンナのために騎士ができることは護衛以外に何もありません」
「護衛というくらいですから、それはもうお強いのでしょうね」
「我が国一と言われています」

 私と一緒に来てくれている護衛も精鋭揃いではありますが、一番だと言われている騎士隊は国に残っています。

 一番に身を守ってもらわなければならないのはお父様ですからね。

 お父様が殺されるということは、国が奪われることと変わりありません。

 あの時、私が殺されたのは私の護衛達でも国一番と言われている人物に勝つのは難しかったからでしょうか。

 時が戻らなければ、彼らも犠牲者になっているのでしょう。

「彼とフェイアンナと僕とは幼馴染なんだ。睨むだなんて、彼はだから、セリスの見間違いだよ」
「……そういうことでしたか」

 マゼケキ様を睨みつけると、不機嫌そうな顔で睨み返してきました。

 両陛下はことの重大さをわかっているようですが、彼はわかっていないみたいです。

 まあ、今はいいでしょう。

 騎士に目を戻すと、マゼケキ様を見て不安そうな顔をしています。
 
 幼馴染だから、騎士は手を貸したのでしょうか。
 フェイアンナ様のことが好きなのか、それとも強い絆で結ばれた友情なのかはわかりません。

 でも、どんな理由があれ、人を殺すだなんて行為はやってはいけない行為です。

 幼馴染で思い出しましたが、遠い親戚に当たる侯爵令息で私の幼馴染のレイディスがロイロン王国にいて、彼はかなりの手練れです。

 彼が一緒に来てくれていたら、私は死ななくても良かったかもしれません。

 彼に行きたくないと断られてしまったので連れてこれなかったんですよね。
 その時は、彼はお兄様の側近になる予定だったから断られたと思っていたんですが、違うのかもしれません。

 両親は家族を大事にしていますが、時間を巻き戻すだなんて禁忌をおかすような人達ではありません。

 ということは――

「何があった?」

 思いついたと同時に、見計らったかのようなタイミングで、時間を巻き戻したのであろう相手が、相棒の大剣を持って現れました。

 どうして、ここにレイディスがいるんでしょう。

『緊急事態の時はこの封筒で送れ』と言われていた封筒に入れて両親に手紙を送りましたが、魔法ですぐに転送できるものだったのでしょうか。

 でも、瞬間移動などはできないはずですから、母国にいるはずの彼がここにいる理由がわかりません。

「珍しく目立つドレスを着てるな」

 大剣を背に現れたレイディスは、久しぶりに会うというのに、鋭い目を私に向けて続けます。

「セリスティーナ様、婚約破棄の件で陛下から話があるとのことです」
「婚約破棄など認めん!」

 国王陛下はそう叫ぶと、私の所までやって来て懇願します。

「マゼケキを放置していたことについては謝る! ただ、セリス、気持ちが冷めたから婚約破棄だなんて勝手すぎる! お前が婚約破棄をするというのであれば、こちらも何もしないわけにはいかないんだ!」
「と言いますと、肉など、食物類の出荷停止をするということでしょうか。私の国は小麦や肉などの多くの食べ物は輸入に頼っておりますから、停められますと大打撃ですわね」

 ロイロン王国は戦地に赴く人が多いため、農業や畜産を営んでいる人が圧倒的に少ないです。
 他国に頼れば良いのかも知れませんが、すぐに対応してもらえるかわかりません。

 一時期とはいえ物価が上がり、国民の家計を苦しめることになるでしょう。

 ……その前に何か理由をつけて、ペリオド王国を潰しにかかるでしょうか。

「レイディス、お父様はなんと言っていましたか?」
「直接会って言われたわけじゃないが、手紙の内容だけではありえないことだし信じられないとのことです」
「まあ、普通は信じられませんよね」
 
 一応、殺されたのだと書いてはみましたが、結婚したくがないためにワガママを言っていると思われた可能性が高いです。
 仕事は嫌いじゃないですし、浮気だけなら我慢できないことでもなかったですからね。

 相手のことが好きな場合は浮気にショックを受けますが、私はこれっぽっちもマゼケキ様に愛はありませんでしたから、やっていけないことはないと思われたのかもです。

 もしかして、無関心すぎたのがいけなかった?

 ……ウダウダ考えても、一緒ですね。
 反省することは大事ですが、どんな理由があろうとも自分を殺すような相手と結婚する気にはなれません。

「セリスティーナ様!」
「ここにおります!」
 
 フェイアンナ様が私に近づいてきたので警戒すると、彼女は少し離れた場所で立ち止まり、その場で額を床につけました。

「セリスティーナ様、不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。あなたとマゼケキ様との結婚は我が国には必要なことです。どうぞお許しください」
「フェイアンナ!」
「フェイアンナ様!?」

 マゼケキ様と仲間の男性は困惑した様子で叫んだのでした。

 保身に走ったみたいですが、フェイアンナ様のお相手はマゼケキ様です。

 マゼケキ様がフェイアンナ様を救うような発言をするとは到底思えません。

「フェイアンナ様、お聞きしますが、どうして私がいるとわかっていて、マゼケキ様と不謹慎なことばかりしていたのです?」
「……じつは、マゼケキ様に脅されていたんです!」

 フェイアンナ様は信じられないことを言い出したのでした。

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