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第二部
第18話 忠告する
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日本でだって婚約したら、そう簡単に結婚をやめるというのは難しい。
私が今いるこの世界は、日本ではないし、貴族のパワーバランスを重視している国だ。
だから、婚約してみたけど理想と違ったから、やっぱり婚約を解消します、なんてことは簡単には出来ないはずだわ。
アリスの場合、彼女の家は子爵家で、ホットラードの家の爵位が上だから、彼が不義を働いたことで簡単に婚約を破棄することができた。
まあ、ホットラードは自分が悪いだなんて夢にも思ってもいなさそうね。
正式ではないとはいえ、慰謝料を請求してくるくらいの馬鹿なんだから。
私がその時にアリスに憑依していたなら、ボコボコにしてやってたのに。
……今からボコボコにしたら良いのかしら。
いや、今から相手にするのは面倒だわ。
するとしても、鼻に一発パンチを入れるくらいかしら。
「婚約の解消なんて当事者が納得すればいいんじゃないの?」
ボートワールはまだ納得できないようで、しつこく聞いてくる。
「あんた、今の両親の立場を考えたことあるの?」
「あんたあんたって、偉そうに言わないでよ!」
引っかかるのはそこなの?
まあ、私の口が悪いのは自覚しているので謝っておく。
「悪かったわ。じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「あなた様、とか、ボートワール様とか呼んでくれればいいわ」
ふふんと笑ってから、ボートワールは私を見下すような顔をして言った。
なんだかおかしいわね。
私ってたしか子爵家で、ボートワールは男爵家よね。
ということは爵位は私のほうが上じゃない?
「じゃあ、ボートワールで」
「様をつけなさいよ! どうして呼び捨てなのよ!?」
「様ボートワール?」
「違うわよ! あなた馬鹿なの? 前に付けるんじゃないわよ! ボートワール様よ!」
地団駄を踏んで抗議してくるボートワールを冷めた目で見ながら、口を開く。
「あのね。今の私の婚約者は次男といえども公爵令息よ? そんな口をきいていいと思ってるの?」
「まだ夫人になったわけじゃないんだから、婚約者の爵位なんて関係ないでしょ!」
「爵位の話だけなら夫人になってなくても、ボートワール様様よりも、私の家のほうが上よ」
「何よ、ボートワール様様って!」
憤慨しているボートワールを無視して、哲平達に目を向ける。
哲平は、白いレースのついた日傘を自分のために差している。
あまりの似合わなさに、ふきだしそうになるのを何とか堪えた。
「ちょっと! 呼び方はもう何でもいいわ! それよりもテツくんを私に譲って!」
「譲るも何も公爵家があなたとの婚約を認めるとは思えない」
「どうしてよ?!」
「公爵家はバカじゃないから」
「はあ?!」
どうやら、ボートワールは理解できないらしい。
まともな会話をしている気がしない。
もしかして、中身は小学生とかだったりするのかしら。
「あなた、日本で生きていた時の記憶は何歳まであるの?」
「え? 私は今と同じで、17の時だけど」
「わっか!」
「若いって、あなたも今は17じゃない!」
それはアリスの身体であって、私の年齢ではない。
いちいち答えてあげるのも面倒なので、話を元に戻す。
「公爵家は婚約者の交換なんて認めないだろうし、私の両親だって認めるはずがないわ」
「テツくんが私を好きになったらどうするの?」
ボートワールは、なぜか勝ち誇った笑みを浮かべて聞いてきた。
よほど自信があるんでしょうね。
逆にここまで自分が可愛いと言い切れるとところは称賛に値するわよね。
「テツがあなたを好きになれば、その時はテツの好きなようにさせるわよ。だけど、絶対にそれはないわね」
哲平に目を向けると、私の視線に気が付いたのか、こちらに近付いてきた。
日傘を私に差し出して言う。
「焼けるぞ」
「そうね。そろそろ行く?」
「そうだな。何を言っても話が通じねぇし」
日傘を受け取ろうと、手を差し出しても渡してくれない。
不思議に思って哲平の顔を見ると、照れくさそうにして顔を背ける。
「女性に荷物を持たせるなって、兄さんから言われてんだよ」
「日傘をさしてくれるなんて、普通はお付きの侍女とかがやるもんじゃないの?」
「お前はそういうの連れてないだろ」
「まあね」
間違っていないから頷く。
元々いたアリス付きの侍女はもういないし、それからは新しい人を雇っていない。
誰かに手伝ってもらわないといけないような時は、お母様の侍女が助けてくれるから、それで事足りるのよね。
だって、日本にいた時は自分一人で着替えていたんだから。
「アリスの家がそんなに貧乏だなんて知らなかったよ。僕にもっと早くに相談していてくれれば」
「うるさい」
会話に入ってこようとするホットラードを哲平が一喝する。
私は私でボートワールに話しかける。
「あんた、世間はそんなに甘くないってことを教えてあげるから楽しみにしてて?」
優しい笑みを浮かべたつもりだったのに、ボートワールの表情が、なぜかこの世のものではないものでも見たように怯えた表情に変わった。
まったく。
人のとっておきの笑顔に対して、失礼じゃない?
私が今いるこの世界は、日本ではないし、貴族のパワーバランスを重視している国だ。
だから、婚約してみたけど理想と違ったから、やっぱり婚約を解消します、なんてことは簡単には出来ないはずだわ。
アリスの場合、彼女の家は子爵家で、ホットラードの家の爵位が上だから、彼が不義を働いたことで簡単に婚約を破棄することができた。
まあ、ホットラードは自分が悪いだなんて夢にも思ってもいなさそうね。
正式ではないとはいえ、慰謝料を請求してくるくらいの馬鹿なんだから。
私がその時にアリスに憑依していたなら、ボコボコにしてやってたのに。
……今からボコボコにしたら良いのかしら。
いや、今から相手にするのは面倒だわ。
するとしても、鼻に一発パンチを入れるくらいかしら。
「婚約の解消なんて当事者が納得すればいいんじゃないの?」
ボートワールはまだ納得できないようで、しつこく聞いてくる。
「あんた、今の両親の立場を考えたことあるの?」
「あんたあんたって、偉そうに言わないでよ!」
引っかかるのはそこなの?
まあ、私の口が悪いのは自覚しているので謝っておく。
「悪かったわ。じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「あなた様、とか、ボートワール様とか呼んでくれればいいわ」
ふふんと笑ってから、ボートワールは私を見下すような顔をして言った。
なんだかおかしいわね。
私ってたしか子爵家で、ボートワールは男爵家よね。
ということは爵位は私のほうが上じゃない?
「じゃあ、ボートワールで」
「様をつけなさいよ! どうして呼び捨てなのよ!?」
「様ボートワール?」
「違うわよ! あなた馬鹿なの? 前に付けるんじゃないわよ! ボートワール様よ!」
地団駄を踏んで抗議してくるボートワールを冷めた目で見ながら、口を開く。
「あのね。今の私の婚約者は次男といえども公爵令息よ? そんな口をきいていいと思ってるの?」
「まだ夫人になったわけじゃないんだから、婚約者の爵位なんて関係ないでしょ!」
「爵位の話だけなら夫人になってなくても、ボートワール様様よりも、私の家のほうが上よ」
「何よ、ボートワール様様って!」
憤慨しているボートワールを無視して、哲平達に目を向ける。
哲平は、白いレースのついた日傘を自分のために差している。
あまりの似合わなさに、ふきだしそうになるのを何とか堪えた。
「ちょっと! 呼び方はもう何でもいいわ! それよりもテツくんを私に譲って!」
「譲るも何も公爵家があなたとの婚約を認めるとは思えない」
「どうしてよ?!」
「公爵家はバカじゃないから」
「はあ?!」
どうやら、ボートワールは理解できないらしい。
まともな会話をしている気がしない。
もしかして、中身は小学生とかだったりするのかしら。
「あなた、日本で生きていた時の記憶は何歳まであるの?」
「え? 私は今と同じで、17の時だけど」
「わっか!」
「若いって、あなたも今は17じゃない!」
それはアリスの身体であって、私の年齢ではない。
いちいち答えてあげるのも面倒なので、話を元に戻す。
「公爵家は婚約者の交換なんて認めないだろうし、私の両親だって認めるはずがないわ」
「テツくんが私を好きになったらどうするの?」
ボートワールは、なぜか勝ち誇った笑みを浮かべて聞いてきた。
よほど自信があるんでしょうね。
逆にここまで自分が可愛いと言い切れるとところは称賛に値するわよね。
「テツがあなたを好きになれば、その時はテツの好きなようにさせるわよ。だけど、絶対にそれはないわね」
哲平に目を向けると、私の視線に気が付いたのか、こちらに近付いてきた。
日傘を私に差し出して言う。
「焼けるぞ」
「そうね。そろそろ行く?」
「そうだな。何を言っても話が通じねぇし」
日傘を受け取ろうと、手を差し出しても渡してくれない。
不思議に思って哲平の顔を見ると、照れくさそうにして顔を背ける。
「女性に荷物を持たせるなって、兄さんから言われてんだよ」
「日傘をさしてくれるなんて、普通はお付きの侍女とかがやるもんじゃないの?」
「お前はそういうの連れてないだろ」
「まあね」
間違っていないから頷く。
元々いたアリス付きの侍女はもういないし、それからは新しい人を雇っていない。
誰かに手伝ってもらわないといけないような時は、お母様の侍女が助けてくれるから、それで事足りるのよね。
だって、日本にいた時は自分一人で着替えていたんだから。
「アリスの家がそんなに貧乏だなんて知らなかったよ。僕にもっと早くに相談していてくれれば」
「うるさい」
会話に入ってこようとするホットラードを哲平が一喝する。
私は私でボートワールに話しかける。
「あんた、世間はそんなに甘くないってことを教えてあげるから楽しみにしてて?」
優しい笑みを浮かべたつもりだったのに、ボートワールの表情が、なぜかこの世のものではないものでも見たように怯えた表情に変わった。
まったく。
人のとっておきの笑顔に対して、失礼じゃない?
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