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第二部

第15話 哲平とデートすることにする

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『ありすちゃん、哲平くんのこと好きなの?』

 違うって言ってるでしょ。

『ひどい。私が哲平くんのこと好きなの知ってて仲良くしてるの?』

 仲良くするも何も家族なのよ。
 会話しないほうがおかしいでしょう。

『哲平くんを独り占めする、ありすちゃんなんて嫌い』

 哲平を独り占めした覚えなんてない。 
 女性が苦手なだけで、女性扱いされてない私が目立つだけ。

『哲平かわいそー。哲平がいんのに彼氏作るなんてひどい女だな』

 うるさいわね!
 私が誰と付き合おうが勝手でしょうが!
 大体、哲平も私も恋愛感情なんてお互いに持ってない。

 え?
 そんなことないって?

「おい!!」

 話の途中だったのに、誰かに声をかけられて夢から覚めた。
 すると、目に飛び込んできたのは哲平の顔で、心配そうな表情で私を見下ろしていた。

 夢か。

 申し訳ないけど、今、一番見たくない顔だわ。 
 八つ当たりもこめて、起き上がるふりをして、哲平の顎に頭突きした。

「いってぇな! 何すんだ!」
「乙女の部屋に勝手に入ってこないでよ」
「乙女って誰がだよ。つーか、今までは何も言わなかっただろうが」
「何で勝手に入ってきたのよ」

 はっきりとした時間はわからないけど、朝であることは間違いない。
 窓のほうに目を向けると、カーテンの隙間から柔らかな日差しが入り込んでいた。

 久しぶりに過去の夢を見た。
 数日前に会った、あのピンク頭のせいだわ。

「お前が何かあーとか、うーとか呻いてる声が聞こえたから、心配になって様子を見に来ただけだ」
「え? 隣の部屋に聞こえるくらい叫んでたの?」
「そうだよ」

 壁が薄いわけでもないから、それでも聞こえるということはよっぽど叫んでたみたいね。
 私の声で目を覚まして、すぐに来てくれたのか、よく見ると哲平も寝間着姿のままだった。

「そうなのね。頭突きしてごめん」

 心配して見に来てくれたのなら、頭突きのことはちゃんと謝っておく。

「どんな夢を見たんだよ」

 哲平が眉尻を下げて聞いてきた。

 あんたを好きっていう女の夢や、あんたの友人だった奴らの夢よ。

 と言ってやりたいけど、冷静に考えれば、哲平のせいじゃない。

 哲平は昔から女の子にモテていた。
 特に野球をやり始めた頃から余計にだ。
 それまでサッカーをやってた哲平が、中学に入って野球を始めた。
 その時、なぜサッカーを止めて野球にしたのか、はっきりとした理由はわからなかった。
 哲平に聞いても面白そうだったから、としか答えないし、大した問題だとは思わなかったのもある。
 けど、今となったらわかる。
 私が、サッカーよりも野球が好きだったからだ。
 サッカーも好きだけど、現地まで観戦しに行くのは野球だけだった。
 運動神経の良かった哲平は、すぐに内野手の花形になり、顔も悪くないことから、それはもう女の子にモテた。
 そして、さっきの夢につながっていく。

「ありす?」
「あんたはバカね」

 私の何が良かったの。
 そりゃ、私としては助かったわよ。
 私にすり寄ってきた相手が本当の友達か、そうでないかを見極めさせてくれたから。

「よっぽど嫌な夢を見たのか? 本当に変だぞ?」
「うるさいわね。っていうか、今日は学園は休みよね」
「あ、ああ? 休みだし、今日はキースたちのデート日だろ。昨日、ノアの家で服選びしたんじゃねぇのか?」

 ベッドの上に腰掛けて、哲平は私の頬に手を当てる。
 
 そんな、ひどい顔してるのかしら。
 まあ、夢の中の奴らに言われっぱなしで終わったから、気持ちが不完全燃焼気味ではある。

 今日はノアとキースの初デートの日だ。
 哲平が言うように、昨日の晩にノアの家に行って、デートに着ていく服やアクセサリーを選んだ。
 その時に、ノアから「アリスもテツくんとデートしたら?」と言われたことを思い出した。

「私たちもデートする?」
「……する」

 哲平は驚いた表情になったあとすぐに顔を背けて頷いた。

「あらあら、素直な良い子でちゅねぇ」
「うるせぇ」

 哲平の頭を優しく撫でてやると、手を払われた。

 それから二人で話をして、もし出かけた先でノアたちと会ったりたら、絶対に邪魔になってしまうと考えた。

 だから、私たちは近所でのデートはやめ、少し足を伸ばして王都まで出ることにした。

 だって、ノアのことだから私たちと会おうものなら、一緒に遊ぼうだなんてことを言い出しかねない。
 そして、私もキースもノアに甘いから、それを許してしまいそうだ。

 私が目覚めた時間はまだ早朝だったけど、そのまま起きて、用意をしてすぐに出かけることにした。

 この時間に出れば、王都へは昼前に着きそうなので、朝ごはんはサンドイッチにしてもらい、お腹が減ったと感じた時に馬車の中で食べることにした。
 身支度を済ませ、哲平と向かい合って馬車の座席に座ったところで、ゆっくりと馬車が動き出した。

 日本にいた時にも何度も出かけたことはあった。
 でも、デートとは思っていなかっただけに、今日はいつもとは違う感じがした。

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