気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します

風見ゆうみ

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第二部

第10話 味方が増える

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 次の日、私と哲平は普段より早く学園に着き、同じく早めにやって来ていたキースと共に、作戦を開始する事にした。

 作戦といっても、ただ単に噂を少しでも早く多くの人に流す事。
 小瓶を用意した相手は、シエルが好きな事に間違いはないと思う。
 ノアが狙われる理由が今のところは、それくらいしか思いつかないから。
 アリスが死んでしまったあの時、もしかすると、シエルはノアに告白しようとしていたんじゃないだろうか。
 そして、それを察した相手がノアを殺そうとしたんじゃないか、というのが私の考え。

 結果、ノアは死ななかった、けれど、その代わりに私におかしな変化があったから、ノアが私をかなり気にかけるようになったから、シエルは告白を延期したのかもしれない。
 それと同時に、小瓶の相手も息を潜めたのかも。
 今は都合よく、そう思う事にした。
 もちろん、他の可能性もあるから、気を抜いちゃいけないけど。
 
 作戦を上手くいかせるために、どうしても味方に引き込みたい人間がいて、私達は今から、その彼に会いに行く。

 カイル・ミシュガン男爵令息。
 私達と同じ学年だけど、私とも哲平達とも違うクラスだ。
 今までに関わりのない人物だけど、交友関係が広い事で有名らしい。
 キースが彼と知り合いだというから、ミシュガン卿に頼んで、ノアとキースの噂を広めてもらう事をお願いする事にした。

 彼は実家が学園から遠いらしく、学園の寮に住んでいるという事なので、昨日の晩に侍従の人に頼んで手紙を渡しに行ってもらい、今日の朝早くに、彼のクラスで話をする事を承諾してもらった。

 そして、慌てて用意した菓子箱を持って、哲平と彼のクラスに行くと、静かな教室の窓際の一番前の席に、肩くらいまである後ろの髪を一つにまとめた、黒髪の少年が座っていた。
 彼は私達に気付くと、読んでいた本から視線をこちらに移すと、人懐っこい笑顔を見せた。

「イッシュバルド家の令息とキュレル子爵令嬢やんな? 二人共有名人やから知ってんで」
 
 ん?
 

 持ってきた手土産の菓子箱を渡したあと、私と哲平は顔を見合わせる。

「あ、俺、話し方変やろ? よう、聞き取ってもらえへんねん。イントネーションが違うて言われて」

 もしかすると、外国語を日本語に翻訳すると、たまに訳がわからない翻訳されるみたいなやつと同じ?
 もしくは、そのまんまで、方言みたいに聞こえるって事?

「関西弁だから、日本人以外には余計に聞き取りづらいとかか?」

 哲平が私の方を見て聞いてきたけど、私が何か答える前にミシュガン卿が立ち上がって叫んだ。

「い、今、日本語て言うた?」
「うん」

 これはもう確実ね、と思い、哲平と共に頷くと、ミシュガン卿は両手を挙げて喜ぶ。

「よっしゃあ! まともそうな奴がおった!」
「どういう事?」
「いや、関西弁理解できる奴、もう一人おるんやけど、なんかヤバそうな女やし、あんま関わりたくなかってん」

 ミシュガン卿は、心底嫌そうな顔をする。

 それにしても、転生者って日本人ばっかりね。
 他の国の人は来てないの?
 それとも、他の国の言葉もうまいこと翻訳されてる感じ?
 そうなると翻訳機能と思っていた考えは改めないといけないわ。
 
「……そういえば自分、元婚約者の話は興味ある?」

 関西人の自分は何通りかある。
 親戚に関西人がいたからわかるけれど、ミシュガン卿が口にした自分、は今回は私を指していた事がわかり頷く。

「え? あ、まあ、一応、あるけど?」
「なら、名前くらい聞いた事あるやろ。カリン・ボートワール」

 ミシュガン卿の口から出た名前に、思わず口をへの字に曲げる。

 カリン・ボートワールはホットラードの現婚約者の名前で、私がターゲットにしている人物の一人だ。

「その女がなんなの?」
「詳しい事はわからんけど、どうやら、あいつも転生者や。えらい自分勝手なワガママ娘やから、あんまり関わらんようにしとるんやけど」

 えらい、っていうのは、すごく、みたいな意味かしら。
 だって、褒めてるわけじゃなさそうだし。
 にしても、面倒な事になったわね。
 頭がお花畑とワガママ娘か。
 それに、ワガママ娘は転生者だなんて。

「詳しい話はまた改めてしよか。で、そっちの用件は?」

 ミシュガン卿に促されて本題を思い出し、事情を説明したあと、噂を少しでも早く多くの人に流してほしい、とお願いする。

「ええよ。物騒な話やし、それで人の命が助かるんやったら安いもんやしな」
「礼は何をしたらいい?」

 快く承諾してくれたミシュガン卿に、哲平が尋ねると、彼は笑って言った。

「今度、時間作ってや。俺がどんな感じで転生したか、っていう話をしたいねん。もしかしたら、自分ら、あ、えーと」
「アリスとテツでいいわ」
「ほんなら、俺はカイルで。で、まだはっきりとはわからんけど、俺の転生はアリスかテツの為かもしれん」

 カイルの言葉を聞き、私と哲平は思わず顔を見合わせた。
 そんな私達の様子など意にも介さず、カイルは「善は急げや」と言うと、私達を置いて教室から出ていく。
 教室の黒板の上に備え付けられた丸い時計を見ると、登校する人が集中する時間帯だと教えてくれた。
 意味深な発言は気になったけれど、私達も自分達の教室に戻ることにした。

 





※関西弁については地域によって違うかなと思いますが、私の話し方はこんな感じです…。
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