気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します

風見ゆうみ

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第20話 お願いする

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 その日の放課後、呼び出された場所に行く前に、まずは哲平の所へ行くことにした。

 彼女達からお誘いを受けたのは、哲平達と別れた後なので、放課後の呼び出しについて哲平は知らない。

 さすがに何も言わずに行ったら怒られるかもしれないし、私を教室まで迎えに来る可能性があるから、哲平には話しておいた方がいい気がした。
 彼のクラスに行くと、教室には哲平とキースしかいなくて、二人で何か話をしていたけど、私に気が付いたキースが手招きしてくれたから、中に入って先に用件を哲平に告げる。

「ターゲットに呼び出されたから今から行ってくるわ」
「は!? ターゲットに呼び出された?!」
「そうなのよ。今日、お昼にキースとご飯食べてたのが気に食わなかったのかもしれないわね?」

 キースに聞こえないように小さな声で言ったつもりだったんだけど、キースの耳に入ってしまったのか、椅子に座っていたキースが勢いよく立ち上がった。

「俺も行く」
「来なくていいわよ。女の喧嘩に男は必要ないわ」
「でも、アリスが呼び出されたのは俺のせいなんだろ」

 思い詰めたような顔をして言うから、これ見よがしに大きくため息を吐いて答える。

「別にキースのせいじゃないわよ」
「俺とご飯食べてたからだって、今言ってただろ」
「ああ、はいはい。わかったわよ。もしかすると、それが原因かもしれないけど、だからといって、あんたのせいじゃないの! 誰と話すか話すまいかは、自分で決めることであって、人に決められることじゃないの!」

 たぶん、呼び出された理由はキースと仲良くしていたから、で間違いないと思う。
 もちろん、それで呼び出されるのはいい迷惑だけど、アリスはそれに耐えてきた。
 離れれば良かったのに、そうしなかったのは、アリスがキースの事もノアの事も好きだったからだと思う。

「キースやノアと話すのも私の勝手よ。それとも、私に話しかけるなって言いたいわけ?」
「そんなんじゃねぇけど」

 キースが大きな肩を落として、しょぼくれた顔をする。

 せっかくのイケメンが台無しだわ。
 正義感が強いんでしょうね。
 だから、私の事も放っておけないってとこかしら?

 それに、本当のアリスは何者かのせいで犠牲になったわけだし、また同じような事が起こるかもって心配してくれてるのかも?

「キース、大丈夫よ。こんな事でどうこうなるくらいなら、私をわざわざアリスに転生させたりしないわよ。私はアリスを嫌な目に合わせた奴らをやっつけるのが自分の使命だと思ってるし、私にはそれが出来ると思ってるから」

 だって、そうじゃなきゃ、こんなに上手く権力者が味方についたり、私達の中身が別人だなんて突拍子もない話を簡単に信じてくれたりしないでしょ。 

 心の中でそう思ってから、キースに向かって言う。

「悪いと思うなら、このまま待っててよ。で、その時にどうしてキースが日本語を知ってるのか、その理由を教えて?」
「……わかった。というか、一応、子爵令嬢だから、あんた、っていうのやめろ」
「気をつけます。でも、キースだってお前って言うじゃない」 
「ありす、場所だけ教えろ。あまり遅いようなら見に行くから」

 キースと話をしていたら、哲平が割って入ってきたので、少し考えてから真上を指差す。

「屋上にあるガゼボに来いと言われたのよ。そろそろ行かなきゃいけないわね」

 答えてから、自分のカバンを哲平に預けて踵を返すと、キースに呼び止められる。

「待て、アリス。どこのガゼボだ?」
「屋上のガゼボ」
「校舎ごとにあるぞ?」
「校舎って何棟あるっけ?」
「五棟」

 行くのが嫌になる事を言われてしまった。

 そんなの知らないかったわ!
 屋上のガゼボって、情報量が少なすぎるでしょ!

 他にミラベル伯爵令嬢は何か言ってたっけ。
 
 彼女との会話を思い起こしてみる。

『屋上のガゼボにいらしていただける?』

 と言われた記憶しかない。

 あれね…。
 どこのガゼボかわからなくて困る私でも見たかったとか?
 そんな理由だったとしたら嫌だから、私自身は動かない方がいいかしら?

「よし、哲平…、じゃなくて、テツ」
「ん?」

 私が声をかけると、哲平が不思議そうな顔をして、こちらに顔を向けて首を傾げた。

「とにかく、どこのガゼボかわからないし、私の代わりに見てきてくれない?」

 小首をかしげて、胸の前で手を合わせて笑ってみると、哲平の眉間に深いシワが刻まれた。
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