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プロローグ
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それは金曜日の晩の事だった。
会社の飲み会に1次会だけ参加して、予定よりも早めの電車に乗ったつもりだったけれど、最寄り駅に着いた時には22時を過ぎていた。
「遅かったな」
一つしかない駅の改札の前で待っていたのは、血の繋がらない同じ年の弟、哲平だった。
哲平はお母さん、私はお父さんの連れ子で、小学生の時から一緒に住んでいる。
哲平は大学生で、わたし、城野ありすは短大卒のOLだ。
黒髪の短髪、モデル体型の哲平は、顔も整っている事もあり、改札から出てきた他の女性達の視線を浴びていたけれど、全く気にしていないようだった。
彼は学生の時からかなりモテていたんだけど、女性に触れると蕁麻疹が出てしまうという変わった体質のせいで、女性が苦手なのだ。
例外があって、彼の家族が触っても大丈夫だし、私が触れても蕁麻疹は出ない。
私の場合は女性扱いされてないだけなんだろうけど。
私はセミロングのストレートの黒髪で、容姿も平凡な為、哲平と並んで歩くのは、あまり好きではない。
女性のやっかみを何度も受けた事があるから。
だから、今日も迎えに来なくても良いという連絡をいれていたはずだったんだけど…。
「ごめん。予定よりも遅くなったのよ。というか、迎えに来なくても良いって言ってたでしょ」
「母さんが行けってうるさかったんだよ」
「まあ、ここ最近物騒だから、有り難いといえば有り難いけど…」
今は夏で、哲平はTシャツにハーフパンツにサンダル。
隣を歩く私はオフィスカジュアルで、哲平は仕事終わりの恋人を駅まで迎えに来た良い彼氏という風に周りから見えているかもしれない。
「今日、また先輩が同期の子をいじめてたのよ。トイレに行こうと思って扉を開けたら、手洗い場の前で胸の前で腕を組んだ先輩が同期を睨んでたの」
「なんか学生みたいな話だな。仕事しろよ」
「そうなのよ。気にするなって言われても気にするわよね。トイレに行きたくて行ったのに、同期の子が泣きそうになってたから、上司が探してるって嘘をついて連れ出しちゃったわ」
駅から5分の家に向かって、会社の人間関係の愚痴をこぼしながら、2人で横断歩道を渡っていた時だった。
『悔しい!』
女の子の叫び声が聞こえた気がして足を止めた。
「どうかしたのか?」
少し先に歩いていた哲平が振り返って聞いてくる。
その間にも謎の声は聞こえてくる。
『こんな事で死にたくない! だけど、生きていたって、わたしじゃ戦えない! だから…、誰か、わたしの代わりに…っ』
どこから聞こえてくるの?
わからなくてあたりを見回すけれど、視界に入るのは、スマホを見ながら歩いている人や自転車に乗った人、家路を急ぐ人の姿くらいしかいなくて、何かを叫んでいる様な人は見当たらない。
「ありす!」
「え?」
哲平の声がいつもと違う事に気が付いたその時に、私は車のヘッドライトに自分が照らされている事がわかった。
そして、その車が私をめがけて走ってきているという事に気が付いた時には体が固まってしまい動けなかった。
「ありす!」
もう一度、哲平に名を呼ばれたと同時に、私は彼の腕の中にいて、強い衝撃が体を襲った事だけはわかった。
会社の飲み会に1次会だけ参加して、予定よりも早めの電車に乗ったつもりだったけれど、最寄り駅に着いた時には22時を過ぎていた。
「遅かったな」
一つしかない駅の改札の前で待っていたのは、血の繋がらない同じ年の弟、哲平だった。
哲平はお母さん、私はお父さんの連れ子で、小学生の時から一緒に住んでいる。
哲平は大学生で、わたし、城野ありすは短大卒のOLだ。
黒髪の短髪、モデル体型の哲平は、顔も整っている事もあり、改札から出てきた他の女性達の視線を浴びていたけれど、全く気にしていないようだった。
彼は学生の時からかなりモテていたんだけど、女性に触れると蕁麻疹が出てしまうという変わった体質のせいで、女性が苦手なのだ。
例外があって、彼の家族が触っても大丈夫だし、私が触れても蕁麻疹は出ない。
私の場合は女性扱いされてないだけなんだろうけど。
私はセミロングのストレートの黒髪で、容姿も平凡な為、哲平と並んで歩くのは、あまり好きではない。
女性のやっかみを何度も受けた事があるから。
だから、今日も迎えに来なくても良いという連絡をいれていたはずだったんだけど…。
「ごめん。予定よりも遅くなったのよ。というか、迎えに来なくても良いって言ってたでしょ」
「母さんが行けってうるさかったんだよ」
「まあ、ここ最近物騒だから、有り難いといえば有り難いけど…」
今は夏で、哲平はTシャツにハーフパンツにサンダル。
隣を歩く私はオフィスカジュアルで、哲平は仕事終わりの恋人を駅まで迎えに来た良い彼氏という風に周りから見えているかもしれない。
「今日、また先輩が同期の子をいじめてたのよ。トイレに行こうと思って扉を開けたら、手洗い場の前で胸の前で腕を組んだ先輩が同期を睨んでたの」
「なんか学生みたいな話だな。仕事しろよ」
「そうなのよ。気にするなって言われても気にするわよね。トイレに行きたくて行ったのに、同期の子が泣きそうになってたから、上司が探してるって嘘をついて連れ出しちゃったわ」
駅から5分の家に向かって、会社の人間関係の愚痴をこぼしながら、2人で横断歩道を渡っていた時だった。
『悔しい!』
女の子の叫び声が聞こえた気がして足を止めた。
「どうかしたのか?」
少し先に歩いていた哲平が振り返って聞いてくる。
その間にも謎の声は聞こえてくる。
『こんな事で死にたくない! だけど、生きていたって、わたしじゃ戦えない! だから…、誰か、わたしの代わりに…っ』
どこから聞こえてくるの?
わからなくてあたりを見回すけれど、視界に入るのは、スマホを見ながら歩いている人や自転車に乗った人、家路を急ぐ人の姿くらいしかいなくて、何かを叫んでいる様な人は見当たらない。
「ありす!」
「え?」
哲平の声がいつもと違う事に気が付いたその時に、私は車のヘッドライトに自分が照らされている事がわかった。
そして、その車が私をめがけて走ってきているという事に気が付いた時には体が固まってしまい動けなかった。
「ありす!」
もう一度、哲平に名を呼ばれたと同時に、私は彼の腕の中にいて、強い衝撃が体を襲った事だけはわかった。
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