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第1話 アリス・キュレルに転生する
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目を覚ますと、私の視界に一番に飛び込んできたのは見慣れない天井だった。
一瞬にして意識が覚醒し、慌てて上半身を起こすと、先程まで手を置いていたあたりに、マニキュアの瓶よりも少し大きめの小瓶が転がっているのに気が付いた。
枕元のシーツは赤黒い何かで濡れていて、恐る恐る指で触れてみた。
これは…、血なの?
というか、ここはどこなの?
病院か何か?
上半身だけ起こした状態のままで周りを見回すと、病院ではないようで、ボキャブラリーに乏しい私の言葉で説明すると、お金持ちのお嬢様の部屋といった感じだった。
視界に入る調度品は価値はわからないけれど、何だか高そうに見えるし、今、私が寝ているベッドはキングサイズのベッドで、高級ホテルの一室に泊まっている様な気分でもある。
……私、あの時にやっぱり死んでしまったの?
あの飲酒運転か居眠りのドライバーが運転する車にはねられて死んだの!?
蛇行運転していたし、たぶん、居眠りか飲酒運転だと思う!
ふざけんじゃないわよ。
本当に死んだんだったら、私をはねた奴の枕元に立って、散々恨み言を呟いてやるわ!
それに、哲平はどうなったのかしら?
私を庇おうとしてくれてたけど、私が死んだのなら哲平も…?
私のせいで、哲平も死んでしまったかもしれない…?
色々と思う事はあるけど、まずは状況を整理してみる事にする。
部屋の明かりはつけっぱなしだったから、ベッドから起き上がって靴を履き、近くにあった全身が見れる大きな鏡で姿を見てみると、鏡の中には見知らぬ少女がいた。
身長は高めで胸はあるけれど、体はガリガリで頬もコケている。
艶のないボサボサの腰まである黒く長い髪は、手櫛でのばしても、すぐにカールしてしまうから、くせっ毛なのだろう。
瞳は鳶色の瞳という事もあって、日本人の様な見た目だけれど、顔色と髪が顔にかかっているせいか、とあるホラー映画を思い出してしまった。
着ているネグリジェは可愛いけど、なんだか、彼女の雰囲気からすると、あまり似合っていない。
露出の高い真っ赤なネグリジェは彼女の大人しそうな雰囲気とまったく合っていなかった。
赤色が好きだったから、似合わないと思っていても着ていた?
もしくは似合っていると思っていたのかしら。
って、失礼な事を言っちゃ駄目ね。
好きなものを着ればいいんだもの。
枕元の様子から察するに、彼女は血を吐いたようで、そのせいか顔色がすごく悪い。
まあ、一番怖く感じられるのは、口元にこびりついている血だけれど。
壁にかかっていた大きな時計で時間を確認すると、まだ早朝で、外は静まり返っているし、カーテンを開けると、思わず目を閉じたくなるくらい眩しい光が部屋の中に入ってきて、窓を開けると外からは小鳥のさえずりが聞こえてきた。
明かりを消して、太陽の光で明るくなった部屋の中を見回してから考える。
まずは私が憑依してしまった彼女が何者か、というのを確認しないとね。
流行りのマンガや小説にあるような何かのキャラクターに憑依したとか、そういう展開でない事を祈るわ。
私は乙女ゲームやファンタジー小説とかには詳しくない。
読んでいたのはミステリー小説ばかりだった。
だから、ゲームのキャラに憑依してしまった、なんて事になっていたら、これから何が起こるかなんて予想もつかないから絶対にやめてほしい。
そうなると私が選ばれた意味もわからなくなるから。
……そういえば、はねられるきっかけになったのは、女の子の声だったわよね?
もしかすると、この子の声だったの…?
ジッとしていられなくなって、20畳くらいはありそうな広い部屋の中をウロウロしながら考えていると、窓際にある書物机の上に、分厚い本のようなものが置いである事に気が付いた。
手に取って開いてみると、本ではなくどうやら日記帳のようだった。
B5サイズのスケジュール帳くらいの太さの日記帳には、だいぶ前のことから書いてあるみたいなので、まずはここ最近のものを流し読みしていく事にした。
人の日記帳を読むなんて失礼な事だとは思ったけれど、緊急事態なので許してほしい。
とにかく、彼女の事を知りたかった。
罪悪感を感じながらも日記を読んでみて、その内容に愕然とした。
私だったらたぶんキレまくっていそうな事を彼女はされていたから。
日記に書かれていた事を整理すると、生前の彼女はこんな感じだった。
書き物机の上にペンが置いてあったので、日記帳の最後のページに書き出してみる。
『①この家に仕えているメイドや使用人からいじめられていた』
どうして、メイドにいじめられるのよ?
この家の主人の娘なんじゃないの?
よっぽど酷いならクビにしてやれば良かったのに。
彼女が告げ口なんかするわけないと思われていたのかしら?
にしても、許せないわ。
『②彼女は学園の生徒達、同じ学年だけじゃなく、他の学年の人間からもいじめられていた。それは社交場でも同じ』
彼女の周りって性格が悪い奴しかいなかったの?
酷すぎるでしょ。
『③婚約者が浮気していた。理由は彼女がつまらない女だから』
って、この理由、全く意味がわからないんだけど?
浮気する相手の方がつまらないというか最低な奴じゃないの。
これに関しては特に納得いかないので、この婚約者とやらは潰すしかないわね。
『④婚約者は浮気相手と婚約するからと婚約の解消を求められている上に、慰謝料まで請求しようとしてきている』
婚約者はアホなの?
『⑤悪いのは婚約者なのに、周りはその男を責めずに、彼女を責め立てている。そして、その事により、彼女へのいじめは余計にエスカレートした』
意味がわからないわ。
どうしてそんな事になるの?
性格が悪いというよりかは、周りの人間もアホなの?
『⑥何も言い返すことのできない自分が嫌いだし悔しい。違う自分になりたい』
これについては努力をしてたみたいだけど無理だったみたい。
変わる事って本当に難しいものね。
だけど、諦めなければ変われていたと思うから残念。
私だって昔はいじめられていたけど、今はそんな事はなくなったからね。
ベッドの上に転がっている小瓶のことも日記に書かれていたから、もう一度目を通す。
どうやら、彼女は誰かに、あの小瓶を渡されたらしく、それを飲み干したあと命を落としたらしかった。
小瓶のことはについて、彼女はこう書いてもいた。
『ノアに渡すように言われたけど、どんなものかわからない。毒ではなくて、ただ、お腹を壊すくらいだと言っていた。だけど、そうじゃない気がする。そんなものをノアに渡してもいいの?』
こんな風に警戒していたのに、この子は毒を飲んだの?
どうして?
死にたくなかったんじゃないの?
悔しいって言ってたじゃない。
もしかして、ノアという子に渡さないといけないけれど、渡す事が出来ないから自分で飲んだの?
負の感情に陥っている時は冷静な判断はできなくなるだろうから、突発的に飲んでしまったのかもしれないけれど、死ぬ間際になって、やっぱり後悔したというところなのかな…。
なんにしても、こんな事は許されない。
この子が飲まなくても、ノアという名前の友達が彼女のようになっていた恐れがある。
というか人の日記を勝手に読んでおいて言うのもなんだけど、胸くその悪くなる内容だった。
いじめの内容が陰険すぎる。
婚約者も頭が良さそうに思えないし。
辛いことがあっても、学校に通っていたのは、ノアという平民の友人と、そのノアと仲の良いキースという辺境伯令息がいたかららしい。
彼女には兄がいるけれど、今は家にはいない。
両親は彼女の事をとても愛してくれているようだし、彼女の環境の全てが悪いというわけではなかったのが、せめてもの救いの様に思えた。
子爵や辺境伯令息という、日本ではフィクションの世界でよく聞く言葉を見て、改めて、今のわたしが城野ありすではない事を実感させられた。
ノアもキースも、そして彼女の両親も彼女がいじめられている事に気付いてなかったようだけど、彼女は親や親しい人に知られたくなくて、うまく隠し通していたのかもしれない。
親にいじめられているだなんて言えないっていう話はよく聞くし、私も親に言えなかったし言わなかった。
いじめられている事を恥ずかしく感じてしまったから。
だけど、実際はそうじゃない。
いじめる奴が一番悪い。
ふと、書物机の横に学校鞄らしきものがかけられているのに気付いて、鞄を開けてみた。
中に入っていた教科書は見た目は綺麗だけど、中を見てみると、目をおおいたくなるような罵詈雑言の落書きがされていて、腹が立ってしょうがなくなったので、すぐに教科書を閉じた。
教科書を裏返してみて、やっと彼女の名前がわかった。
彼女の名前はアリス・キュレル。
ありすという名前が同じなのは助かった。
聞きなれない名前で呼ばれても、すぐに反応ができないから。
日記を読んで、私はなんとなくだけれど状況を把握した。
彼女は死ぬ間際に叫んでいた。
『こんな事で死にたくない! だけど、生きていたって、わたしじゃ戦えない! だから…、誰か、わたしの代わりに…っ』
「よし」
信じられない状況ではあるけれど、憑依させられた事には理由があるはず。
アリス、本当はあなたが死なずに、自分で戦う事が一番良かったんだけど、あなたはもうこの世にいないのよね?
なら、私はあなたの体で好き勝手やらせてもらうわよ?
私はあなたのように、やられたまま我慢できる優しい性格じゃないの。
あなたが出来なかったことをするからね?
「アリス…。あなたの無念、私が晴らすわ」
一瞬にして意識が覚醒し、慌てて上半身を起こすと、先程まで手を置いていたあたりに、マニキュアの瓶よりも少し大きめの小瓶が転がっているのに気が付いた。
枕元のシーツは赤黒い何かで濡れていて、恐る恐る指で触れてみた。
これは…、血なの?
というか、ここはどこなの?
病院か何か?
上半身だけ起こした状態のままで周りを見回すと、病院ではないようで、ボキャブラリーに乏しい私の言葉で説明すると、お金持ちのお嬢様の部屋といった感じだった。
視界に入る調度品は価値はわからないけれど、何だか高そうに見えるし、今、私が寝ているベッドはキングサイズのベッドで、高級ホテルの一室に泊まっている様な気分でもある。
……私、あの時にやっぱり死んでしまったの?
あの飲酒運転か居眠りのドライバーが運転する車にはねられて死んだの!?
蛇行運転していたし、たぶん、居眠りか飲酒運転だと思う!
ふざけんじゃないわよ。
本当に死んだんだったら、私をはねた奴の枕元に立って、散々恨み言を呟いてやるわ!
それに、哲平はどうなったのかしら?
私を庇おうとしてくれてたけど、私が死んだのなら哲平も…?
私のせいで、哲平も死んでしまったかもしれない…?
色々と思う事はあるけど、まずは状況を整理してみる事にする。
部屋の明かりはつけっぱなしだったから、ベッドから起き上がって靴を履き、近くにあった全身が見れる大きな鏡で姿を見てみると、鏡の中には見知らぬ少女がいた。
身長は高めで胸はあるけれど、体はガリガリで頬もコケている。
艶のないボサボサの腰まである黒く長い髪は、手櫛でのばしても、すぐにカールしてしまうから、くせっ毛なのだろう。
瞳は鳶色の瞳という事もあって、日本人の様な見た目だけれど、顔色と髪が顔にかかっているせいか、とあるホラー映画を思い出してしまった。
着ているネグリジェは可愛いけど、なんだか、彼女の雰囲気からすると、あまり似合っていない。
露出の高い真っ赤なネグリジェは彼女の大人しそうな雰囲気とまったく合っていなかった。
赤色が好きだったから、似合わないと思っていても着ていた?
もしくは似合っていると思っていたのかしら。
って、失礼な事を言っちゃ駄目ね。
好きなものを着ればいいんだもの。
枕元の様子から察するに、彼女は血を吐いたようで、そのせいか顔色がすごく悪い。
まあ、一番怖く感じられるのは、口元にこびりついている血だけれど。
壁にかかっていた大きな時計で時間を確認すると、まだ早朝で、外は静まり返っているし、カーテンを開けると、思わず目を閉じたくなるくらい眩しい光が部屋の中に入ってきて、窓を開けると外からは小鳥のさえずりが聞こえてきた。
明かりを消して、太陽の光で明るくなった部屋の中を見回してから考える。
まずは私が憑依してしまった彼女が何者か、というのを確認しないとね。
流行りのマンガや小説にあるような何かのキャラクターに憑依したとか、そういう展開でない事を祈るわ。
私は乙女ゲームやファンタジー小説とかには詳しくない。
読んでいたのはミステリー小説ばかりだった。
だから、ゲームのキャラに憑依してしまった、なんて事になっていたら、これから何が起こるかなんて予想もつかないから絶対にやめてほしい。
そうなると私が選ばれた意味もわからなくなるから。
……そういえば、はねられるきっかけになったのは、女の子の声だったわよね?
もしかすると、この子の声だったの…?
ジッとしていられなくなって、20畳くらいはありそうな広い部屋の中をウロウロしながら考えていると、窓際にある書物机の上に、分厚い本のようなものが置いである事に気が付いた。
手に取って開いてみると、本ではなくどうやら日記帳のようだった。
B5サイズのスケジュール帳くらいの太さの日記帳には、だいぶ前のことから書いてあるみたいなので、まずはここ最近のものを流し読みしていく事にした。
人の日記帳を読むなんて失礼な事だとは思ったけれど、緊急事態なので許してほしい。
とにかく、彼女の事を知りたかった。
罪悪感を感じながらも日記を読んでみて、その内容に愕然とした。
私だったらたぶんキレまくっていそうな事を彼女はされていたから。
日記に書かれていた事を整理すると、生前の彼女はこんな感じだった。
書き物机の上にペンが置いてあったので、日記帳の最後のページに書き出してみる。
『①この家に仕えているメイドや使用人からいじめられていた』
どうして、メイドにいじめられるのよ?
この家の主人の娘なんじゃないの?
よっぽど酷いならクビにしてやれば良かったのに。
彼女が告げ口なんかするわけないと思われていたのかしら?
にしても、許せないわ。
『②彼女は学園の生徒達、同じ学年だけじゃなく、他の学年の人間からもいじめられていた。それは社交場でも同じ』
彼女の周りって性格が悪い奴しかいなかったの?
酷すぎるでしょ。
『③婚約者が浮気していた。理由は彼女がつまらない女だから』
って、この理由、全く意味がわからないんだけど?
浮気する相手の方がつまらないというか最低な奴じゃないの。
これに関しては特に納得いかないので、この婚約者とやらは潰すしかないわね。
『④婚約者は浮気相手と婚約するからと婚約の解消を求められている上に、慰謝料まで請求しようとしてきている』
婚約者はアホなの?
『⑤悪いのは婚約者なのに、周りはその男を責めずに、彼女を責め立てている。そして、その事により、彼女へのいじめは余計にエスカレートした』
意味がわからないわ。
どうしてそんな事になるの?
性格が悪いというよりかは、周りの人間もアホなの?
『⑥何も言い返すことのできない自分が嫌いだし悔しい。違う自分になりたい』
これについては努力をしてたみたいだけど無理だったみたい。
変わる事って本当に難しいものね。
だけど、諦めなければ変われていたと思うから残念。
私だって昔はいじめられていたけど、今はそんな事はなくなったからね。
ベッドの上に転がっている小瓶のことも日記に書かれていたから、もう一度目を通す。
どうやら、彼女は誰かに、あの小瓶を渡されたらしく、それを飲み干したあと命を落としたらしかった。
小瓶のことはについて、彼女はこう書いてもいた。
『ノアに渡すように言われたけど、どんなものかわからない。毒ではなくて、ただ、お腹を壊すくらいだと言っていた。だけど、そうじゃない気がする。そんなものをノアに渡してもいいの?』
こんな風に警戒していたのに、この子は毒を飲んだの?
どうして?
死にたくなかったんじゃないの?
悔しいって言ってたじゃない。
もしかして、ノアという子に渡さないといけないけれど、渡す事が出来ないから自分で飲んだの?
負の感情に陥っている時は冷静な判断はできなくなるだろうから、突発的に飲んでしまったのかもしれないけれど、死ぬ間際になって、やっぱり後悔したというところなのかな…。
なんにしても、こんな事は許されない。
この子が飲まなくても、ノアという名前の友達が彼女のようになっていた恐れがある。
というか人の日記を勝手に読んでおいて言うのもなんだけど、胸くその悪くなる内容だった。
いじめの内容が陰険すぎる。
婚約者も頭が良さそうに思えないし。
辛いことがあっても、学校に通っていたのは、ノアという平民の友人と、そのノアと仲の良いキースという辺境伯令息がいたかららしい。
彼女には兄がいるけれど、今は家にはいない。
両親は彼女の事をとても愛してくれているようだし、彼女の環境の全てが悪いというわけではなかったのが、せめてもの救いの様に思えた。
子爵や辺境伯令息という、日本ではフィクションの世界でよく聞く言葉を見て、改めて、今のわたしが城野ありすではない事を実感させられた。
ノアもキースも、そして彼女の両親も彼女がいじめられている事に気付いてなかったようだけど、彼女は親や親しい人に知られたくなくて、うまく隠し通していたのかもしれない。
親にいじめられているだなんて言えないっていう話はよく聞くし、私も親に言えなかったし言わなかった。
いじめられている事を恥ずかしく感じてしまったから。
だけど、実際はそうじゃない。
いじめる奴が一番悪い。
ふと、書物机の横に学校鞄らしきものがかけられているのに気付いて、鞄を開けてみた。
中に入っていた教科書は見た目は綺麗だけど、中を見てみると、目をおおいたくなるような罵詈雑言の落書きがされていて、腹が立ってしょうがなくなったので、すぐに教科書を閉じた。
教科書を裏返してみて、やっと彼女の名前がわかった。
彼女の名前はアリス・キュレル。
ありすという名前が同じなのは助かった。
聞きなれない名前で呼ばれても、すぐに反応ができないから。
日記を読んで、私はなんとなくだけれど状況を把握した。
彼女は死ぬ間際に叫んでいた。
『こんな事で死にたくない! だけど、生きていたって、わたしじゃ戦えない! だから…、誰か、わたしの代わりに…っ』
「よし」
信じられない状況ではあるけれど、憑依させられた事には理由があるはず。
アリス、本当はあなたが死なずに、自分で戦う事が一番良かったんだけど、あなたはもうこの世にいないのよね?
なら、私はあなたの体で好き勝手やらせてもらうわよ?
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