妹に邪魔される人生は終わりにします

風見ゆうみ

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エイナざまぁ編

第40話 聖女と悪女(エイナside)

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※エイナ語りになります。(エイナが嫌いな方はイライラする可能性が高いですので、お気をつけ下さい。もしくは読み飛ばし下さい)









 全くもって腹が立つわ。

 どうして私が隣国に行かないといけないのよ!

 私は隣国に向かう馬車の窓の外を流れる景色を見ながら、今までの経緯を思い出していた。

 あの一件の後、アレク殿下がエリナにプロポーズしたらしく、式はまだ挙げていないけれど、2人は結婚した。
 それと同時にピート兄様が家督をついで、お父様は伯爵を名乗るようになった。
 そのせいで、私も伯爵令嬢になったわけだけど、どうしてそんな事をしないといけないわけ?
 別にお父様が責任を取る必要はあった?
 責任を取るのはクズーズ殿下じゃないの! 

 それに腹が立つ人間に何かして何が悪いの?
 嫌ならやり返してくればいいじゃないの。

 もちろん、やり返してくる場合は私にじゃなくていいの。
 親衛隊の人間にやり返せばいいだけじゃない。

 女性の嫉妬ってこれだから嫌なのよ。
 大して可愛くもないくせに、私よりも良いものを持とうとするからいけないだけなのに。

 ちらりと向かい側に座っている聖女とか呼ばれている少女を見る。
 ブサイクでもないけれど、すごく可愛いってわけでもない。

 まあまあ可愛い、ってとこかしら。

 まあ、私以上に可愛い子なんて、この世に存在しないし、この私がまあまあだって言うんだから、レベルが高い方だと思うわ。
 エリナとどっこいどっこいってところ?

 そこでエリナを思い出してイライラしてきた。

 だって酷いじゃない。
 今までは私のワガママをきいてくれていたのに、階段から落とされてから別人になってしまったわ。
 やっぱり、エリナは記憶喪失なんかじゃなくて、あの時の事を覚えていたのね。
 あの時、ついほくそ笑んでしまったのがまずかったのかもしれない。

 だって、ずっとエリナの事が鬱陶しかった。
 見た目は野暮ったいのに、頭も良くて運動神経も良かった。
 悪魔だと言われていたのに、気にもしなかったのが余計にムカついたわ。

 少しは悲しむふりをしてくれたら、私だってエリナにあそこまで可哀想な事はしなかったわよ。
 あの子が面白くないから悪いの。
 お父様もお母様も私にするのと同じ様にエリナの事を可愛がるんだもの。
 それも面白くなかったわ。

 きっと、エリナはアレク殿下にすぐに捨てられるに決まってる。
 アレク殿下はエリナの事を可哀想だと思って結婚してあげたみたいだけど、絶対に私が恋しくなるに決まってるわ!

 それにしても退屈ね。

 そういえば、聖女って何をするのかしら?
 ずっと馬車の中だと暇だし、お尻も痛くなってきたわ。
 気晴らしに少し話しかけてあげましょう。

「あなた、聖女だって聞いたけれど本当なの?」
「そうです」

 リリアナ、とか言ったかしら。
 私よりも2つ年下の少女は本から私に目を移して頷いた。
 
「聖女ってどんな事をするの?」
「基本は魔物が人間のエリアに入ってこれない様に結界を張ったり、怪我をした人を治療したり…」

 魔物?
 もしかして、隣国には魔物が出たりするの!?
 私の国ではそんなの物語にしか出てこないんだけど!?

 まあ、そんな怖い話はいいわ。

「あなた、回復魔法が使えるの? すごーい! 私も使える様になるかしら…?」
「回復魔法は聖女にしか使えないと言われていますが…」
「私は聖女になれると思うの。ねえ、あなたもそう思うでしょう?」
「……そうですね」

 リリアナは頷いた後、私に興味がないのか、また本に目を戻した。

 何よ、可愛げのない子ね。
 何だかこのそっけない雰囲気は昔のエリナに似てるかも。
 そう思うと、余計に腹が立ってきたわ。

 イライラするだけだし、話すのは止めようかしら。
 そう思ったけれど、リリアナが窓の外を見たから気になって視線を向けてみる。

 すると、そこにはアレク殿下ほどではないけれど、顔立ちの整った少年が見えて、私の目は釘付けになった。

 あの人、隣に置いておきたい!
 
「何を見ているの? って、あら、素敵ね! もしかして、あなたの彼氏?」

 リリアナは彼の事を見ていたし、彼の事を知っているかと思ったら聞いてみたら、焦った様に首を横に振る。

「ち、違います! 私の専属の魔道士です。護衛をしてくれているんです」
「へえ…。そうなの…。いいなあ。欲しいなあ…」

 私が呟くと、リリアナは何か言いたげな顔をして私を見ていたけれど、小さく息を吐いたと思ったら、また本に目を戻した。

 なんて生意気な子なのかしら!

 まあ、いいわ。
 いちいち、こんな子を相手にしていたら疲れちゃうものね。

 私は気を取り直して、隣国でどう楽しく生きるかを考える事にした。

 けれど、現実はそう上手くはいかなかった。

 なぜなら、侍女の仕事はとても面倒だったから。

 働き始めて3日目の朝、シシリー様から尋ねられた。

「エイナ、ドレスの縫製の店に連絡はいれてくれた?」
「……何の話です?」
「何の話って昨日、話をしたでしょう? 次のパーティーの為に新しいドレスを作るから、屋敷に来てもらう様に連絡してちょうだいとお願いしたでしょう」
「あ、ああ、言われていましたね」

 面倒だったから、他の侍女に頼んだやつだわ。
 すごく嫌そうな顔をされたけど、私が絶対にやらないと思ったみたいで、電報を打ってくれていたのを見たし、その返事をフットマンが私に教えてくれたのを忘れていたわ。
 
「5日後の午前中にこちらに来てくれるそうです」

 笑顔で答えると、シシリー様が笑顔で礼を言ってくる。

「そう、ありがとう」
「とんでもございません」

 本来なら私のする仕事じゃないけれど、しょうがないわ。
 そうしないと楽に生きていけなくなる事くらい、私だってわかるもの。
 どうしたら、楽をして生きていけるかを考えるのが大事だわ。

「一応、聞いておくけれど、本当にあなたが手配したのね?」
「もちろんです!」

 ちゃんと、他の侍女、名前はノマだったかしら。
 ノマに私が頼んだんだもの。
 手配をしたというわよね?

 学園ではエリナっていう冴えない姉がいたから、女性の間でも人気があった私だけど、今はエリナはいない。
 あるのは、男性に好かれて嫉妬する女性達の悪意だけ。
 本当に女の嫉妬って面倒なんだから。

 可愛くなる努力もしていないくせに文句ばかりなのよね!

 目の前にいるシシリー様は私でも美人だと思うし、認めてあげてもいいわ。
 彼女も美容にはこだわっているみたいだし。

「そう。それなら良いけれど、私に必要のない嘘をつくのは止めてちょうだいね?」

 そう言って微笑んだシシリー様の目は、少しも笑っていなかった。

 数日後、面倒な仕事を押し付けられたから、通りがかったメイドをつかまえてお願いしたら断ってきたわ。
 私の役に立てるんだから、文句を言わずにやればいいのに…!

 そうだわ。 
 このメイドが付き合っている男性は、この屋敷の使用人で私に気があるのよね…。
 上目遣いで話しかけたら、顔を真っ赤にしていたもの。
 私に逆らうのなら、あの男性と仲良くしてあげようかしら。

 このメイドは悲しむかもしれないけれど自業自得だし、男性は私と話が出来るんだから幸せよね?

 そう思ってメイドに詰め寄っていた時、邪魔が入ってしまった。

 こんなに可愛い私でも落とせない男性は何人かいる。

 アレク殿下にセルディス殿下、そして、今、突然、目の前に現れたこの男性、アッシュ。

「おい、休憩時間じゃないだろ。自分の仕事場に戻れよ」

 そう言ってメイドを助けるところは嫌いじゃないわ。
 それに、本当は私と話をしたかったんでしょう?

「ねえ! 私の専属の護衛にならない!? あなたなら隣に置いておきたいわ!」
「お前を隣に置くなんて俺が無理」

 アッシュは私の事を蔑む様な目で一瞥した後、いつの間にか近くにいたリリアナ様の元へと歩いていく。

 何なのよ! 
 リリアナ様のどこが良いの!?
 対して可愛くもないし、性格だって良いわけじゃないじゃない!

 アレク殿下もセルディス殿下もそうだけど、きっと私みたいな可愛い女性よりも、ちょっと変わった女性が好きなの!?
 それとも視力が悪いのかしら?

 まあいいわ。
 このまま、プライドを傷付けられたままでいられるものですか。
 そう思って、まずはリリアナ様を潰そうと思ったのだけれど、なぜかアッシュが近寄らせてくれない。
 まるで、リリアナ様のストーカーみたいに一緒にいるの。

 そんなに誰かと一緒にいたいなら、私と一緒にいればいいのに。
 まあ、私を独り占めするのは難しいけれど。

 昼休みに中庭にあるベンチで料理長に作ってもらった昼食のサンドイッチを手に、これからどうしようか考えていると、遠くの方からメイド達の声が聞こえてきた。

「ほんと、あの人、仕事が出来てないわよね」
「一生懸命やっているならまだしも、そんな感じでもないし、自分は出来ていると思いこんでいるのが困ったもんだわ」
「何度教えても覚えないらしいわよ」
「覚えられないならメモを取ればいいのにね」

 誰かの悪口を言っているみたい。
 だけど、誰の事かはわからない。
 それにしても、そんなに仕事が出来ない人がいるのね。

 私みたいに要領よく出来ないなんて可哀想。

「ノマ様もお気の毒だわ。見兼ねてお手伝いされたのに、全部、彼女がやったみたいにされてしまって」
「大丈夫よ。シシリー様は彼女みたいに馬鹿じゃないから、そんな事くらいお見通しよ」
「そうね、そうよね」

 あはは、と笑い声が聞こえてきた。

 笑い事なんかじゃないわ!
 もしかして、彼女達は私の悪口を言っていたの!?
 
 顔が可愛くないからって嫉妬をするのも酷いものだわ!

 誰が言っているのか顔を見てあげようと思ったけれど、彼女達は屋敷の中に入ってしまったみたいで、中庭にはいなかった。

 悔しい!
 見てなさい!
 完璧に仕事をしてみせるから。
 そして、私を馬鹿にした事を後悔させてやるんだから!
 
 
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